小説|「セレニティ模様」第3話
香は学校が苦手だ。そもそも今まで通った組織が苦手だった。思い返せば小学校もそうだったし初めてクラスなるものに属し集団生活をした幼稚園もそうだった。
小学校に上がると毎朝、朝の会から始まった。これから一日が始まると思うと憂うつだった。
毎朝、各クラスで先生が点呼を取る。
一人一人名前を呼ばれ、何かしら自分の体調を言わなくてはいけない時間。だいたいの人が先生に「はい。元気です」と言う。たまに「はい。少し風邪気味です」など違うことを言う人もいる。
目立ちたくない香は、いつも「はい。元気です」と言っていた。当たり前だけれど元気ではない日だってある。というか元気ではない日のほうが多い。眠いとか気持ちが乗らないとか体の調子以外で心の調子がよくないことだってある。けれどそれを正直に話してもいい場面ではないことに薄々勘づいていた。
先生も淡々と進めていく。このテンポに水を差してはいけないという気持ちが優先される。段々と言うことと思うことが違う場面が増えていった。
朝の会の最後の締めくくり。「今日も一日元気に頑張りましょう」これが大嫌いだった。頑張れるか分からないのに宣言したくなかった。頑張れるかもわからないのに、更に元気に頑張るなんて、できる気がしない、というのが香の本音だ。
さらに厄介なのは水曜日の朝の会。なぜかというとクラスのみんなで歌を歌わなければいけないからだ。
かの有名な『ともだち百人できるかな』の曲の日はかなり気持ちが沈んだ。友だちを百人も作れるはずがないのだ。そもそも作りたいとも思っていない。だから極力歌いたくなかった。思ってもいないことを愉快に口ずさむことが憂鬱で仕方なかった。小学生とて朝からハードモードなのだ。
言い訳がましく聞こえるが香は自分が友だちがほしいと思わないのには、理由があると思っている。
香は双子だ。同い年の妹がいる。名前は悠(ゆう)。母によると三分違いで生まれたようだ。香はというと当然名ばかりの姉で自慢ではないけれど俗にいうお姉さんらしいことをしたことはない。三分差なので人生経験も多いはずもなく教えられることもない。
いつもそばに悠がいる環境では物心ついた頃から遊び相手に困らなかった。自分で言うのもなんだが、二人とも年のわりに落ち着いていたし気が合った。姉妹ガチャ大当たりだ。そこで運を使い果たしてしまったといっても過言ではない。
例えばゲームの順番をおとなしく待ったり、黙々と絵本を読んだり、一人ずつ買ってもらったお菓子はお互いに相手の物だからと絶対に勝手に食べたりしなかった。我らが思うに割と分別のある双子だった。
そんな環境で過ごしていたものだから幼稚園デビューは衝撃的だった。狭い教室を全力で駆け抜けそのまま壁に激突する子。他人(ひと)の遊んでいるおもちゃを横からブンどる子。自分が気に入らないというだけで友だちを叩く子。そのような良くない行いを先生に叱られて泣き喚きながら逃げ出す子。
香は反射的に馴染めないと思った。幸い悠が同じずっとクラスでほぼ一緒に過ごしていたから幸いそういう子どもたちとは深くかかわらずに済んだ。
