小説|「セレニティ模様」第26話
中学二年生の学年末。三年生のクラス替えに向けて希望調査の用紙が配られる。
誰と同じクラスになりたいか、なりたくないかなど。
用紙を前に香は悩む。「同じクラスになりたくない人」の欄。
書いてしまおうか。その欄にシャーペンの芯を置いてみる。けれどペンが走らない。ならばいっそのこと勢いで書いてしまおうか。それも躊躇い。試しに、試しに書くだけだと自分に言い聞かせ薄めに書く。教室内を巡回する先生がこっちに来るのを察して急いで消す。先生が遠くを回っていることを確認してはまた書く。手に汗を握る緊張の時間が流れる。残り時間五分。香は思い切ってその名前を書いた。手が震える。
「はい。回収します」先生の声が響く。
「キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン」
*
中学生になってから悠とはあまり話さなくなった。
というか香のほうから距離を置いている。自分がいじめられていることを引け目に感じている。双子だからという理由で悠は同じ目に遭わないといいなと願っている。自分と関わらないほうがいいに決まっている。
中学二年生が終わった春休み。その春休みも後半に差し掛かる。
朝の憂鬱度が増す。カーテン越しの陽ざしが憎い。
それに今日はいつにもなくそわそわする。
学校の正面玄関前。そこにある掲示板にクラス発表の紙が貼り出される日だ。
*
悠には声をかけず一人でささっと見に行こう。もしも万が一あの人たちと同じクラスだったらそのときの感情の揺れを見せたくない。でも勇気を出してあの調査票に書いたんだから、そんなことあるわけない。信じきれないけど信じたい。信じて違ってがっかりするくらいなら最初から信じないほうが自分のためだけどそれでも望みを捨てきれない。
クラス発表の紙。
三年三組。「山川香」自分の名前がある。
続けてか行をさがす。「桑原 玲央(くわはら れお)」
あっ。桑原さんの名前だ。えっ。その名前があるだけのことで奈落の底に突き落とされたようだ。
どうして。どうして。どうして。
一体あの調査票は何のために書かせたの。大人なんて信じられない。
悲しみ、悔しさ、怒り。喜ばしくない感情ばかりが交錯する。
そんな自分を誰にも見られたくなくて感じ取られたくもなくて足早に自転車置き場に向かう。
自転車を必死で漕ぐ。冷たさが和らいできた春風が頬にあたる。刺さるような冷たさがいくらか和らいでいる。それでもまだ冷たく冬の名残を感じる。まるで春になっても、冬の厳しさのように耐える日々が続くのだと空気ごと伝えているかのようだ。
この気持ちのまま家に帰りたくない。かといって行く当てもない。
この田舎ではどこに行っても知り合いに会う。一番近いショッピングモールなんて知り合いだらけだから近づくなんてもってのほかだ。
車もない。電車もバスも一時間に一本あるかどうかのこの田舎で香は中学生の限界を感じる。気軽に気分転換に少し遠出というわけにもいかない。近くのショッピングモールは一つだけだし、そこにはほぼ確実に知り合いがいる。
