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小説|「セレニティ模様」第47話

 昨年度新しくできた県立白ヶ音(しろがね)高校。高校二年生も秋になり高校生活も折り返した。
今更ながら分かったことだけれど進学校で腕を振う先生たちが概ね転入してきたという噂だ。
 香は大して先生に期待などしていなかったけれどこの高校はどこか違った。中学校と違って少人数制だからと思っていたけれど、どうもそういうわけでもない。
 先生としての威厳はありながらもどこか親しみやすい先生が多く、香は次第に先生への苦手意識が薄れていった。
香は進路のことを考えている。
 四年制大学、短期大学、専門学校への進学、就職、フリーター、弟子入りなど。思いつくだけでいろいろある。
 大学進学なんて夢のまた夢だと分かっている。そもそも大学進学を目指して高校に入ったわけではない。いじめる人がいない。それだけが理由だった。でもここで高校生ライフを過ごすうちに少しずつ考えが変わった。
英語の授業で習った一文。「Things have changed.」が今の自分にピッタリな言葉だと思った。
あの頃とは違う。目指していい場所ではないと分かっていても目指したい。
 不安定な経済状態で過ごしたからこそ大学へ行って就職したい。それに莉緒ちゃん、慶ちゃん、歩ちゃんも大学進学希望だ。
一緒に過ごしている内に香には手が届かないはずなのに届くような、自分も選んでいいような気さえしてくる。
 大学進学は贅沢な選択だとしても決して無駄遣いではない。自己投資だと言い聞かせる。
 
 *
 香は久しぶりに山川家にいる。設計ミスなのか昼間でも光が入ってこず薄暗い居間。いるだけで気が滅入る。とてもとても大学進学を目指していい雰囲気ではない。
香と八重子はテーブルを挟みトメさんと相対している。
テーブルには進路希望調査の紙が一枚置かれている。
「うんーっ?」その紙を見たトメさんが眉根を吊り上げ、ゆっくりとタバコをふかす。紫煙がゆらゆら揺れながら天井へのぼる。
「大学進学したいです」香が紙だけを見て言う。
「はっ?はああっ?はああああああああっ?」トメさんが灰皿にタバコをギシギシと押しつける。
「国公立大学だけ希望します」香は咄嗟に宣言する。自信なんてない。その直後本当にできるか大丈夫かと心の中の香が畳みかける。
 「どういうこと?そのお金はどうするの?国立大学ったってタダじゃないんだから。そんなお金ないでしょうに。ちょっと考えればわかるでしょっ」そう言って新しいタバコに火をつける。
「…」悔しさ、悲しさ腹立たしさ、惨めさ、が交錯する。
「そんなこともわからないようじゃ大学なんか入れないよ」
「それとこれとは関係ないです」八重子が止めに入る。
「なんで、トメさんは昼からビール飲んだり出かけたり遊び惚けてきたのに。散々使っておいてそれはないよっ」香は今まで押さえてきたことを言い放つ。
「はあああああああ?お前には関係ないだろ」トメの顔が真っ赤になるくらい怒り心頭している。
「関係あります。和夫さんの退職金だってもっと大事に使っていたらいくらかでも貯金できてたかもしれないし」
「うるさいっ。」トメがテーブルをバンっと叩く。そのまま立ち上がって固定電話の前で止まる。ダイヤルを回す。おそらくタクシーを呼んでいる。

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