小説|「セレニティ模様」第35話
「お昼ご飯できたど。あり合わせだども」
ホタテの炊き込みご飯にお吸い物、お漬物。
ヨシばあの買い物はもっぱら移動販売車だ。近くにお店がなく街へのバスも一時間に一本あれば良いというエリアに住むヨシばあ。車の免許もないから移動範囲は限られる。
それでも急にやって来た孫にごちそうを、と家にある缶詰や食材で作ってくれたこと伝わる食卓。
「一緒に食べれでうれしいなや。いっつも一人だがらなあ」ヨシばあが笑う。
「いただきます」三人の声が揃う。
「遠慮しないで食べれな」
「おいしいーっ。あり合わせじゃないよ」悠がヨシばあを見る。
「おいしいねええ」香も頬張る。いっぱい泣いた後はどうにもお腹が空く。
「一緒に食べればおいしいな。おめだ来るって分がってれば何がかにが買っておいたんだどもな」ヨシばあが香と悠を交互に見る。
「十分だよ。ありがとう」悠が真面目な顔で言う。
平日のランチ。周りの目を気にせずに食べられる幸せ。美味しいものを美味しいと味わえる幸せ。心穏やかに過ごせる人たちだけがいる空間。こんな気持ちでいたのはいつぶりだろう。
こんな日々が続いたらいいのに、と香は思う。
昼下がり。小さい頃からお昼寝といえば仏間が定位置だ。畳の肌触り、い草の香りに癒される。
香は仰向けに寝転がる。大の字になる。息をはく。そしたら心が解きほぐされた気がした。
隣の悠も同じような格好だ。
「ヨシばあ、私たちが来た理由何も聞かないね」香が窓越しの青空を見ながら言う。
「うん。昔からそうだったよね」悠も青空を見ながら頷く。
「無理に問いただしたりしないもんね。それが心地よかったりするんだけど」
「そうだよね。だからここに来たかったのかも」
「うん。わたしも。まさか自転車で来ることがあるなんて思ってもなかったよ」
「ははっ。ねっ」悠がくったくなく笑う。
「ねえーっ」香も心から悠と同じことを思えてこんな存在は稀有だと噛みしめる。
白い雲がゆっくりと鮮やかな青空を流れていく。
流れているとも気づかないほどゆったりと、でも確実に流れている。
*
その日の夕方。八重子は少し早めにパートを切り上げさせてもらいヨシばあの家に飛んで来た。
「二人揃ってな、初めで自転車で来だがらな。よっぽどのことがあるんでねえがな」ヨシばあが湯飲み茶わんを手で囲む。
「んだな」
「あんまりかしこまらないで聞ぐんだど。話しだぐねえごどもあれば話すまで時間がかがるごどもあるがらよ。気長にな」ヨシばあが八重子に諭す。
「うん。分かってる」八重子がお茶を一口飲む。
「今、二人ともお昼寝してらがら。よぐ寝でだ。子どもの頃と寝顔変わらねえなあ」
「お昼寝から起きで頃合い見で話してみるなあ」
八重子は葛藤していた。何かあったのだろうけれど踏み込んでいいかどうか。人として入ってこられたくない領域がある。子どもだけれどそれを尊重したい。けれど親としては踏み込まなければいけないこともあるのではないかと思案していた。
