小説|「セレニティ模様」第24話
中学生になった香の相談相手はもっぱら、ぬいぐるみだ。悩みごとがあればぬいぐるみを見る。話すというより目を見て「どうしようね(何事もなく日々過ぎますように)」と念じる。
小学校三年生のときのお誕生日プレゼントで買ってもらったぬいぐるみ。淡いピンクのうさぎのぬいぐるみ。名前はミミ。つぶらな瞳で見つめ返してくる。大丈夫?と問いかけているようにも見える。
今朝もミミをぎゅっと抱きしめる。中学生にもなって…ぬいぐるみなんて…イタい女だと思われるだろうか。いや、まだまだ大丈夫だろうか。大丈夫と思えるときとそう思えないときがある。
学校に行きたくないよ。なにか天変地異が起こって、学校に行かなくて良くなればいいのに。学校に隕石が落ちていかなくて良くなればいいのに。
ミミをベッドの上に置いて「行ってきます」と心の中で言う。
「うん」と言っているような気がする。ミミが話しかけてきたらどんなに嬉しいだろうか。しかしそんなことは起こらない。
中学生になってからは悠と別々の部屋だ。二階の空き部屋だった一つが悠の部屋になった。部屋が別々になってからは香は悩み事をあまり話さなくなった。大切だと思うから不用意に心配をかけたくないという気持ちもあれば、ヒエラルキーの下にいる弱い自分を見せたくないという強がりもある。
*
朝起きて居間に行くと悠はご飯を食べている。
香も悠の隣に座る。
「おはよう」
「香、おはよう」
それっきり会話はなく黙々とご飯を食べる。通学は一緒にするけれど校内では距離を置いている。
このマンモス中学校においてでも双子は珍しい。学年で三組しかいない。それも私たち以外の双子は男女の双子だ。だからなのかあまり校内で会話しているのを見たことがない。
双子というだけで目立つのだから別々に過ごしたほうがよいというのがいつしか香と悠の暗黙の了解になっていた。
行きたくない…行きたくない…そのことばかりが香の頭の中を巡る。
テレビの朝のニュース番組から今日の占いが流れる。もうこんな時間か。通学の時間は刻々と迫る。
2位から4位のあなたっ♪ (この中にはない、と香は思う)
5位から7位のあなた (ここにもいない、香は肩を落とす)
8位から10位のあなた (ひええ、ここにもいない。つまり一位か十二位のどちらかだ、香の緊張が高まる)悪口を言われたくない。自分から言わないでということもできないから占いに縋る。香の今日一日の気持ちは占いの結果に左右される。
「一位はー」明るく元気なアナウンサーの声が続く。
「おうし座のあなた。今日はどんなことも順調に進み…」
「十二位はうお座のあなた」悲しいアナウンスへ変わる。
「うまくいかないことが続き周囲の目も気になるでしょう」
最下位だ。いつも周りの目が気になっているのにそれ以上に気になってしまうのかな。ますます行きたくなくなる。嫌なことがありそう。いやあるに決まっている。すでに気持ちで負ける。
悠と一緒に自転車で学校へ向かう。どんよりした曇り空。まとわりつくような湿気。心のどんよりに拍車がかかる。
