小説|「セレニティ模様」第57話(最終話)
今こんなに近くににいる悠。悠の頭のてっぺんに桜の花びらがふわっと降り髪飾りみたいになった。やさしい色合いのピンクと白。それが悠にとても似合っている。
こうはそんな悠を見て、悠と双子で生まれていなかったら、一緒に暮らせていなかったら、どうなっていたんだろう、と思う。
悠がいてくれたから弱い自分、うまくいかない自分、中学校という社会にうまく馴染めない自分を見せること、話すことができた。学校を休めた。ヨシばあに泣きじゃくりながら、なかなか気が振れた姿を見せながらも悩みの種を話すことができた。
そして悠もヨシばあもそのひ弱な芽を馬鹿にすることなく温かい目で見守ってくれた。その問題をなんとかしようとしてくれた。ただただそのことが嬉しかった。できることなら隠し通したかいと願っていたことなのに、自分だけで飲込んでいた苦しみを解放できたとき分かってもらえたとき話してみて良かったと心の底から思えた。
それから自分が我慢すれば丸く収まる、ずっと耐えるしかないと思っていたことが少しずつ変わり始めた。実家を離れられた。関わるコミュニティが変わった。家庭環境が変わった。それは香にとって大きな転機となった。
香は元々人から見られることが嫌だった。顔が赤面し耳まで赤くなる自分を見られることも嫌だった。何か良くないことを言われるだろう、どうせ揚げ足を取られるだろう、と周りの目を気にしてばかりいた。
けれどそれは温かい目で見られる経験が人より少なかったせいかもしれないし自分のことを傷つけようとしているのだと感じてそう受け止めていたからかもしれない。
小学生も高学年になると喘息の症状もほとんどなくなり風邪も引かなくなり流行りの病をもらうこともなくなった。体の不調で休むことがほとんどなくなった分、いつしか心の無理がきくようになった。
しかし心だって定期的に休めないといけない。心は見えない。見えないから何事もないわけではない。もちろん見えないから問題がないわけではない。
いろいろ考えを貯め込んでしまう私はつい怒りとして感情を爆発させる限界まで抱え込んでしまう。そうなる前に自分の思わしくない感情も認めてそれを言葉で伝えられる努力をしていきたいなと思う。
悠もヨシばあもお母さんも話せば分かってくれる人たちだから。伝える努力をしていきたい。まず今は自分を大切にしよう。そしてゆくゆくは手を差し伸べてもらった分以上に悠、ヨシばあ、お母さんの力になりたい。
*
生きていればいろいろなことが起こる。心穏やかでいられないこともあるだろう。さまざまな人間模様の間、その時々の出来事の中、いろんな色の感情が揺れ動く。良いことも良くないことも、良いのか良くないのか分からないことも。でもどれも大切な自分の感情だ。どの感情とも向き合って糧にできたらいいな。
それから長い人生、必要なら恐れずに休むことも取り入れたい。そして置かれている状況を客観視して立て直したい。
春風に乗って桜の花びらがひらひらと舞う。白に近い淡いピンク色の花びらたち。お馴染みの田んぼの向こうに広がる山並みをバックにふわふわと浮かんでいる。山並みのうっすらとした青さと花びらの色あいが調和している。さらに遠くに目をやれば山の頂に乗った雪の白、空の水色とそこにふわっと広がる綿のようなうろこ雲がグラデーションのようになっている。
おわり
