小説|「セレニティ模様」第40話
「よいしょ。ジュースも持ってきたよ。一緒にどう?」悠が香の隣に座る。
「ありがとう。巻き込んでごめんね」
「ううん。香のこと気になって来ちゃった。ふふふっ」
「ありがとう。悠に迷惑かけたくないのにいつもかけちゃうね。見放されてもおかしくないのにね」
「えーっ。見放さないよ。ジュース飲もうよ。はいっ」悠が手渡す。
子どもの頃から飲んでいる果汁百パーセント、りんごの甘味しか入っていないジュース。
スーパーや道の駅で買うと結構な値段がする。けれどここではりんご農家が多いから幸運にももらえたりする。贅沢ながらも慣れ親しんだ味。
「うん。このりんごジュースおいしいよね。なかなかこれ以上のりんごジュースってないよね」
「うん。はあーっ。おいっしいねえ。」
「はあーっ」香も一気飲みする。
「ほんとは一気飲みするなんてダメだよ。味わわないと」悠が笑う。
「悠が先に一気飲みしたからつられたんだよ」香が笑う。
「このくらいの贅沢はさせてもらおう」悠がいっぱしの大人みたいなことを言うのが面白くて香は笑みがこぼれる。
「あのさ」香が飲み終わったジュースのカラを握り潰す。
「ん?」
「中学生って学校が社会の全てみたいな。だからそこでうまくやっていけない自分はこの先も社会で上手くやっていけないって結びつけちゃってて。だから学校を休むことが怖かった」
「うん」
「それに一度休んだら、そこから離れたら戻るためにはもっと勇気が必要になる気がして」
「そうだよね。でも、わたしはこの先のことを考えたら休む選択ができてよかったと思っているよ。人生長いんだから強行突破したら身体が保たないよ」
「うん。何も問題ないように振る舞う限界をとうに超えちゃってた」
「そうだよ。香が何か抱えているようだったからずっと心配だった。無理に聞くのもいけないと思っていたから。親しき中にも礼儀ありみたいな、ね。ふふっ」
「話せてよかった。悠にだから話せたし最初に話したのが悠でほんとに良かった」
「今はさ、香の悩みの種がわかってほっとしている。そんな風に言うのも違うかもしれないけど」
「ありがとう。悠に話したとして傷つけられることはないっていう安心感があった。でも話したら悠は自分のことのように親身になってくれるってわかっていたから話せなかった、みたいな」
「みたいな。ふふっ。香のことだからきっとそうかもって思ってた」
夜空を見上げる。街灯もなく夜遅くまで営業しているお店もなく、もちろん高層ビルもない。真っ暗闇。そこに瞬いている星たち。
どんなに深い闇の中にいたとしても、この星たちみたいに小さくてもしっかり明るく照らしてくれている。
もし都会だったらビルの明るさで気づかない、見つけられない星もあったかもしれない。
さりげない救いの手、支えの手に気づかずに見逃していたこともあったかもしれない。
中学という籠の中にいる香は悠の優しさ、手を伸ばしてくれていることに気づかなかった。
「あとさ、大事なことだから言っておくね。もし香のこと助けた結果、私がその人たちにいじめられることになってもそれは本望だよ。香を見放したほうがこの先ずっと後悔するよ」
「えっ。ありがとう」香の目からまたまた涙が零れ落ちた。香は中学生という身分の自分が全てでそこで上手くやっていけない自分は社会的価値がないと思っていた。それは大きな誤解だった。うまくいかないときに話を聞いてくれる、助けてくれる、見放さないでいてくれる。そういう人たちとの関わりを大切にしていきたい。今は自分のことで精いっぱいだけどいつの日か恩返しできたらいいな。
