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【日常エッセイ】上野さんぽ①─背の低い緑に囲まれたのはいつ以来か

以前友人と話していた時、僕は行動範囲が狭いのだなと感じたことがあった。飲食店なんかに疎い自分でも、何度かお店を開拓したいと思ったことはあったが、その範囲はいつも自宅から会社までの通勤圏内に留まっていた。

定期券の範囲ならお金もかからずお得だという浅はかな考えもあったが、自分から見えている世界を広げるためには、そんなんじゃいけない気がした。

だから一度、通勤圏外へ出てみることにした。

そこで選んだのが、“上野”だった──。

その日は雲一つない青空で、快晴とはまさにこういうことを言うのだなと思った。気温もまるで夏を思わせるようで、日差しがジリジリと肌を攻撃していた。

最寄りの駅から電車に乗り、普段なら降りてしまう駅をいくつも通り過ぎる。ほんの数駅先に進んだだけなのに、心はどこかソワソワしていた。

RPGゲームで、黒塗りになっていたマップの中の土地が、足を踏み入れた瞬間にじわっと浮かび上がっていく、あの感じ。自分の世界が少しだけ広がっていくような、あの感覚に似ていた。

上野駅に到着して改札を抜けると、大きな広場が目の前に広がっていた。木を囲むように円形に設置されたベンチには、誰かを待っている様子の人たちがびっしりと座っている。

待ち合わせをする人、ぼんやりと時間を潰す人、スマホを見つめる人。目的はそれぞれ違うはずだが、同じ場所に集まっているというだけで、どこか同じ空気を共有しているように見えた。

左手には東京文化会館がどっしりと構え、開いた扉の奥からは、“文化”の気配が漏れ出ているようだった。正面には大きな「上野動物園」の文字。ほんの少し前に象徴を失ったその場所は、どこか静かに息をしているように見えた。

僕はまず、上野恩賜公園を一周することにした。

少し歩くと、賑やかな音が空気を震わせるイベントスペースに出た。

白いテントが並び、日本酒の飲み比べや牡蠣の屋台が軒を連ねている。ステージでは制服姿の女性がラップを歌い、ヒップホップのパフォーマンスをしている。その振動が会場を揺らしているように見えた。

強い日差しの下、非日常のような平和な日常がそこにあった。自分はただ歩いているだけなのに、勝手に景色が変わっていく。そのことが楽しかった。

イベントスペースを抜けると、噴水広場が現れた。池の中央からは、杉の木ほどの高さまで水が勢いよく噴き上がっている。池の周りはホールケーキのいちごのように、ピンクのチューリップで飾り付けされていた。そう思うと、中央の噴水も蝋燭のような形をしていたかもしれない。

その水しぶきをぼんやりと眺めながら、さらに奥へと進んでいく。

そして、不意にその場所は現れた。上下左右を緑で囲まれた、トンネルのような道。

背の低い緑に囲まれたのは、いつ以来だろう。そう思った瞬間、少しだけ時間が巻き戻されたような感覚があった。

小学校の校庭。

あの頃の木々は、たしかこれくらいの高さだった気がする。視界のすぐ横に葉があって、手を伸ばせば触れられて、緑は“見上げるもの”ではなく、“囲まれるもの”だった。

最近は友人に連れられて登山にも行くようになり、緑を見る機会は増えた。でも、それらはどれも高かった。幹がまっすぐに伸びて、その先に葉がある。見上げて初めて視界に入る緑。左右にあるのはいつも、黒が少し混ざった茶色だった。

この時、僕の視界は、ほとんど緑だけで満たされていた。葉の付き方も、隙間の空き方も、色の濃淡も、すべてが少しずつ違う。それはまるで、小学校時代に図画工作で一生懸命に描いた木の絵みたいだった。

とても純粋で、清潔で、無垢な感じがした。

緑とは、“若さ”を象徴する色なのかもしれない。背の低い緑に囲まれたこの日、僕はきっと“若さ”に囲まれていたのかもしれない。

僕はこの“若さ”に囲まれた空間の中で、爽やかな風が、心にとりついた汚れを洗い流してくれた気がした。

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