少年ジャンプから、ラスボスの在り方を考える
今回は、「ラスボス」について考えてみたい。
基本、戦いをテーマとした物語はラスボスを倒せば終了である。
稀に「葬送のフリーレン」のようにラスボスを倒してから始まる変わり種もあるが、そのてのやつはそれほど多いわけじゃない。
問題は、ラスボスを倒さずに終わっちゃうパターン。
俺たちの戦いはこれからだ、俗にいう「俺たたエンド」というやつで、これは諸般の事情で長い原作を12話のアニメにまとめなきゃいけない制作会社がよく使う手だな。
評判がよければ2期をやるし、そうでなければそのままフェードアウト。
続きは原作を読んでね、というやつである。
その一方で、ラスボスを倒したのに物語が終わらないパターンもある。
これは少年ジャンプ等にありがちなやつで、原作者は終わらせる気マンマンなのに、編集部が「今ドル箱を失うわけにはいかん」と完全に商売の都合で連載を終わらせないパターンだね。
こういう商売都合のせいで、せっかくの名作が終盤グダグダになることって結構多いかと。
個人的に「あそこで終わっておけば良かったのに・・」という作品をいくつか列挙しておこう。
【ドラゴンボール】

やはり、これはフリーザ編で終わらせておいた方がよかったと思う。
強さのインフレがフリーザでMAX値までいったのに、さらに続けるのは無茶である。
もちろん、フリーザ編以降に出てきた新キャラが好きな人もたくさんいるんだろうけど、それを言ってたらキリがないわ。
【北斗の拳】

この作品は、ラオウを倒した時点で終わるべきだった。
原作者自ら「ラオウを超える悪役はおらん」と公言してるわけだし、ならばカイオウとかいうラオウの実兄が出てくる必要なんてなかったんじゃないの?
完全に蛇足だったと思う。
【るろうに剣心】

これも志々雄真実で終わらせるべきだった。
そうしないから、ヒロインを殺したり生き返らせたり迷走しちゃったわけで、特に許せないのが星霜編という剣心の最期を描いたOVAだ。
あまりにも哀れな主人公の晩年で、私はあれを「るろうに剣心」の最終章と断じて認めていない。
これの内容は原作者がノータッチだったとも聞くし、何であんな余計なものを作ったんだろ?
他にも色々あるんだが、まずは代表的なのを3つ挙げさせてもらった。
「〇〇編で終わっておけば・・」というのは、ようするにその編のラスボスが物語を締めくくるに相応しいほど魅力的だったということだよ。
フリーザ、ラオウ、志々雄真実。
撤退のタイミングを誤ることは、ある意味で作品に対する冒涜である。
でも逆に、撤退が早すぎたと思える名作も実はある。
そう、「スラムダンク」さ。
あれは、本来の予定とは異なる終了だったんじゃないだろうか。
だって、明らかにラスボスっぽい選手が出てきてたじゃん。

多分、当初の構想は森重との対決が予定されてたんだと思う。
でも井上雄彦先生が山王戦を描いてるうち、「これ以上の試合は描けないわ」と感じたらしく、そこで終わらせたらしい。
つまり、山王戦には井上先生すら想定外の神が降りたわけで、こればかりはしようがないね。
確かに、「左手は添えるだけ」のくだりは今までの積み重ねを全部回収するシーンだったし、いつの間にか山王戦はこの作品の集大成になってしまっていた。

井上先生としては「これ以上は蛇足」と捉え、ここで幕を下ろす決断をしたんだろう。
きっと編集部、怒っただろうな~。
でも、よく考えれば山王は高校バスケ界の頂点に立つ絶対王者であり、ラスボスの資格としては十分だった。
たまたま湘北と当たったタイミングが大会の2回戦だったというだけのことで、ラスボスとは必ず決勝で当たらなくてはいけないという縛りがあるわけでもないんだ。
だからインターハイ2回戦で終わった「スラムダンク」は、その残した余白を含めて伝説の名作になったわけだね。
少年ジャンプにしては編集部主導でなく、完全に作家主導だった稀有な例だと思う。

さて、ラスボスといえば気になるのが「ワンピース」である。
この作品においては、いまだラスボスが誰に設定されてるのかすら判明していない。
尾田先生はプロットを完成させた上で連載に臨んだタイプのようなので、既にラスボスの構想は先生の頭の中にある。
ファンとしては想像するしかないんだけど、候補としては
・黒ひげ
・赤犬
・シャンクス
・イム様
あたりが挙げられるだろう。
尾田先生は歴史に造詣が深く、「ワンピース」にも様々な歴史のモチーフが盛り込まれてることは皆さんもご存じのことと思う。
たとえば作中の「空白の100年」は、日本史における「空白の150年」を元ネタにしてるはずだ。
日本史では、本来の倭王は邪馬台国に存在したはずなのに、「空白の150年」を経たらいつの間にかそこにはヤマト王朝があり、日本は天皇が支配する国になっていた。
邪馬台国の痕跡は「古事記」にも「日本書紀」にもなくて、まるで最初から
そんな国が存在しなかったかのようになっている。
これを元ネタとして、尾田先生は
・ヤマト王朝⇒世界政府
・天皇⇒イム様
・邪馬台国⇒その末裔がDの一族
という感じに設定してるのかと。
だとすると、最終的には世界政府vsDの一族という戦争になるのかねぇ?しかし日本史ではヤマト王朝も一枚岩ではなく、内部で天孫族vs出雲族という抗争があったんだよ。
そのへんは歴史に詳しい尾田先生もきっと分かってるはずで、ここにきてシャンクスの出自が天竜人と判明したのもその伏線だろう。
思えば、「ガンダム」のジオン公国もそうだよな。
ジオン軍に在籍しながらもザビ家を恨む「赤い彗星」シャアがいて、彼こそが真の王族の末裔だった、というオチ。
赤髪・シャンクス=赤い彗星・シャアとなるかは分からんけど、物語の構造がそれほど単純じゃないことだけは間違いないよね。
もし尾田先生が「ガンダム」好きなら、ヘタするとアムロvsシャアの構図に倣ってルフィvsシャンクスをやっちゃうかも・・。
まぁ、さすがにそれはないかもしれんが、世界政府を倒すことだけはひとつの既定路線だろう。
ちなみに日本史では、ヤマト王朝は暴君とされた武烈天皇の代で血脈は一旦途絶えて、そこに継体天皇が出てきて天皇の末裔を名乗り、なぜかそのまま彼が王朝を継ぐというオチになった。
私は、「ワンピース」のオチも多分こういう感じになると思う。
継体天皇が誰になるか、そこは全く分からないけどね。

実は「天皇」でなく、幽閉された「卑弥呼」だという解釈もできるかと・・
さて、ここまで延々とジャンプ系のラスボスについて書いてきたが、最後に挙げたいのは「HUNTER×HUNTER」キメラアント編のラスボス・メルエムである。

なんか鳥山明先生のキャラデザをパクったようなラスボスだが、個人的には非常に印象に残ったラスボスである。
完全なチートで、戦闘力でも知力でも絶対に主人公のゴンたちでは勝てない上位種の生命体なんだが、結局のところ、ゴンはメルエムと闘わなかったのよ。
それどころか、会ってすらいない。
じゃ、このラスボスはキメラアント編で一体何をしてたかといえば、コムギという将棋のうまい女の子とずっと将棋をしてたんだ。

このコムギに将棋で勝てないメルエムは、ずっとコムギと対局し続ける。
そうこうしてるうちに、過去の対戦で放射能被曝したメルエムは被曝の影響で死ぬんだわ。
話だけ聞いてると異様につまらん展開に思えるだろうが、決してそんなことはない。
というより、キメラアント編は富樫先生の最高傑作で間違いないよ。


このシーン、めっちゃ泣いたわ。
この2人とは別の場所でゴンたちはメルエムの部下たちと血みどろの死闘をしてるんだけど、この2人はそれとは全く別次元での死闘をしてたわけよね。
メルエムはコムギとの対局によって何かを悟り、最後に戦争の終結を決断する。
死ぬ直前の彼は、どこか満足気だった。
コムギも同様で、ふたりは安らかに死んでいった。
暴力ではなく、愛でラスボスを屈服させたというべき稀有なストーリー展開であり、ひたすら暴力で解決しようとしている主人公ゴンらの姿との対比も相まって、静と動、これがめちゃくちゃ効いてるんですよ。
これを見てると富樫先生が天才と呼ばれるのも非常によく分かるし、たとえどんなに怠惰だろうが少年ジャンプが彼を決して手放そうとしないってのもよく理解できるわ。
このキメラアント編は、ラスボスの描き方におけるひとつの到達点かもしれない。

