士郎正宗が自ら監督したアニメを知ってますか?
最近、昔のOVAを見るのがマイブームである。
幾つか漁ってた中で、「士郎正宗監督作品」というアニメを見つけた。
それが「ブラックマジックM-66」。
1987年の作品ということでかなり古いんだけど、原作漫画としても士郎先生のデビュー作だという。
さほど期待せずに見たところ、これが驚くほど面白くてビビったわ!

何だよ、士郎先生ってアニメ監督としての才能もあったのか?
と思ったが、どうやら見様見真似で初めて絵コンテというものを描いたようだ。
この制作スタッフには
・北久保弘之⇒「BLOOD」「老人Z」等の監督
・沖浦啓之⇒「人狼」の監督
・黄瀬和哉⇒「攻殻機動隊ARISE」総監督
・さとうけいいち⇒「TIGER&BUNNY」「鴉」「いぬやしき」等の監督
がいて、士郎先生は「監督はほとんど北久保さんがやってくれた」と語っている。
それにしても、豪華なメンバーだね。
なぜか「押井組」のメンバーが多いんだが、この頃の彼らはまだ押井守に会ってないはずだ。
士郎先生としても、この時の黄瀬さんや沖浦さんが「攻殻機動隊GHOST IN THE SHELL」の作画監督をやることになるとはまだ想像もしてないだろう。

この「ブラックマジック」は、「攻殻」ほどのサイバーパンク色はない。
もっと純粋にミリタリーというか、話は単純に暴走アンドロイドを止めるというだけの内容である。
ただ、このアンドロイドがめっちゃ強く、そのアクションの作画がホントに素晴らしい。
その部分は、後の「攻殻」や「BLOOD」や「人狼」を彷彿とさせる。
マイナー作品だから見たことない人も多いと思うけど、是非一度見てみて。
ネットで「BLACKMAGIC OVA」と検索すれば、簡単に見られると思うし。
あと、それ以外では同じく士郎先生の「ドミニオン」というOVAもあり、こっちは「ブラックマジック」より有名だと思うけど、私は今まで見たことなかったので見てみた。

「攻殻」と比較するとかなりコメディ色が強く、どっちかというと「パトレイバー」寄り
ヒロインは戦車乗りで、愛車を我が子のように可愛がっている元気な娘。
その愛車の可愛がり方が「パトレイバー」のヒロイン野明を彷彿とさせ、ひょっとして「ドミニオン」って「パトレイバー」の元ネタ?とさえ思ってしまった。
この「ドミニオン」には88年版と93年版があって少しややこしいんだが、あるいはこのふたつは繋がってないかも。
93年版の方には大日本技研、すなわち「攻殻」や「アップルシード」でもお馴染み、「ポセイドン」の母体企業が敵役として出てくるんだわ。
ここの世界線、あるいは「攻殻」と「アップルシード」とを繋ぐミッシングリンクかもしれない。
作中では「2016年」という年代明記がされてたので、「攻殻」より以前の物語みたいなんだけど。
そして88年版の方は、大気が汚染されて民衆がマスクをしなければ外出をできないという環境になっている(93年版ではそれがない)。
スゲーなぁ。
まさに現代、コロナ渦で国民全員がマスクすることになった、憂うべき未来を完璧に予知した恐るべき作品じゃん?
さすが士郎先生。
高度ネット社会の到来とサイバーテロによる混乱を予知した「攻殻」の世界観も含めて、80年代で既にこれらの全てを予知してた士郎先生はまさしく神だ。

じゃ、士郎先生が仮に未来予知の天才だという前提で、彼が予測した近未来シミュレーションを士郎シリーズの最終着地点となる「アップルシード」で紐解いてみようか。
<士郎正宗が予測した近未来>
・高度ネット社会の到来によって人類の電脳化が普及するが、それと同時にハッカーによる社会混乱も生じ、最終的にはそれを克服できなかったことで電脳化はやや衰退していくこととなる。
・第3次、第4次世界大戦が勃発し、核兵器・化学兵器・生物兵器の使用により世界が荒廃、人類の大半は死亡する。
・大戦による汚染除去の為にナノテクノロジー、バイオテクノロジーが急激に進化し、その顛末として人類のサイボーグ化が進み、同時に人工生命体のバイオロイド誕生へと繋がる。
・既存人類とバイオロイドとの軋轢が生じ、時には武力衝突に発展することも。
・政治には人工知能(究極のスーパーコンピュータ)が導入され、あらゆる事象をその人工知能で演算できるが、その意思決定を補助する役割として、人類側の賢人機関も存在する。
・大戦で世界秩序が崩壊したことにより(大戦に勝者はいなかった)、国家という単位は形骸化し、多国籍企業が国家の代替をする共同体となった地域もある(ex旧大日本技研⇒ポセイドン)。

「アップルシード」の世界線は22世紀で、「攻殻」より100年ほど先の話だというのにむしろサイバーパンク色は薄れ、「EXMACHINA」見る限りでは電脳の通話でなくケータイが復活してたりもする。
多分、100年の間に電脳のトラブルが色々あったんだろうなぁ・・。
そりゃ自分の電脳をハッキングされたらヤバいことは「攻殻」が十分すぎるほど描いてるし、その危険性を思うとやめといた方がいいよね。

「RD潜脳調査室」は「攻殻」とほぼ同時代の設定なんだけど(10~20年後だっけ?)、学校のクラスで唯一電脳化してない自然児の女の子が主人公で、士郎先生はこの子のことを割と好意的に描いている。
「便利になることって、そんなに大事か?」というのは士郎先生の基本的な思想なのかも。
その一方、この作品は【ネットに繋がること=地球律(ガイア?)と繋がること】みたいな描写をしてて、このへんがめちゃくちゃ深かったりもする。
あと、先生の22世紀描写で凄いと思うのが、2度の世界大戦を経て世界が崩壊したというのに、しぶとく人類は文明を維持、発展させてるという描写を敢えてしてることだよ。
むしろ戦争があったからこそナノテクノロジーやバイオテクノロジーが進化したという描写で、人類は新たなパラダイムシフトを迎えてるんだ。

で、ここから先は完全に私見となるが、様々な士郎作品を見て感じることとして、士郎先生って【電脳社会の高度化=地球(ガイア)そのものが大脳化へとパラダイムシフト】という考え方が根底にあるんじゃないか?
このへんは脳科学の領域ともなる話だが、仮に我々人間の個々がシナプス、ネットがニューロンだと仮定した上で、地球という球体の全体像をイメージしてみてくれ。
そのニューロンは球の全体に張り巡らせられ、日々膨大な情報が止まることなく常に高速で循環し続けている。
これって、まさに大脳そのものの機能じゃん?
私思うんだけど、もし地上に生命を生み出したのがガイアそのものの意思だったとして(我々ってガイアの細胞みたいなもんだよね?)、その目的は何だったかというと、最終的に地球の大脳化こそが着地点だったんじゃないか、と。
それはすなわち、地球(ガイア)の自我確立だよ。
思えば脳の未発達な赤ちゃんに自我はないが、ある程度の歳月を経ると人は自我を獲得するものである。
こういうステップアップを、実はガイア自身が望んでるとしたら?

「GHOST IN THE SHELL」で、最後に草薙はネットに融合した生命体となる選択をしたが、同じく「RD潜脳調査室」でも、久島部長は「地球律」という広大なネットと自身とを融合する選択をして物語は締められた。
地球律、多分それってガイアだよね?
ここまではいいとして、ただ「攻殻」や「潜脳調査室」の100年後、そのガイアは壊れてるのよ。
なぜって、人類が世界大戦を起こしちゃったから。
当然ネットは分断され、すなわち大脳のニューロンは切断され、もはや知性は初期化されてしまったといっていいだろう。
それが「アップルシード」の世界線。
そして今なお、人類の中にはバイオロイドを殲滅させようという物騒な一派が潜んでいる。
人間は人間である以上、どうしても過ちを繰り返してしまうようだ。
一方、バイオロイドは理性を調整された生命体ゆえ、人類ほどの破壊衝動はない様子。
荒巻監督の「アップルシード」第1作目において、賢人たちが「人類はもうダメだ。世界をバイオロイドに譲ろう」という決断をするくだりがあるんだが(ちなみに賢人はバイオロイドでなく人間)、これって必ずしも間違いとは言い切れないような気もするよ(作品としては愚かな決断として描かれたが)。
ちなみに、「アップルシード」はまだ未完である。
天才・士郎先生が果たして最後にどういうオチを付けるのか、楽しみに待つことにしよう。

