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80年代SFの金字塔「宇宙船サジタリウス」は脚本が秀逸

今回は1986年制作という少し古いアニメになるが、「宇宙船サジタリウス」をご紹介しようと思う。

「宇宙船サジタリウス」(1986年)

制作/日本アニメーション 監督/ 横田和善

これ、意外と有名なんですよね。
サブスクでは結構色々なところで配信されてるし、あと本編以上に有名なのが主題歌で、OP曲「スペースカウボーイ」、ED曲「夢光年」はカラオケで今でも唄う人が案外いるらしい。

これらは影山ヒロノブの代表曲としても知名度があり、カバーする人も多い

私の印象として、この作品は年を経るごとにどんどん評価が上がってきてるわ。
実際、もともとアニメとしてのクオリティは高かったと思う。
言っちゃ悪いけど、こういうカッコよくないキャラデザでありつつも視聴率19%を記録し、88年のアニメフェスティバルではアトム賞を受賞したという実績からして「内容は間違いなくお墨付き」。
ただ、これはバブル全盛期に放送されてたアニメにも関わらず、その中身は「仕事がない」「おカネがない」など主人公たちが不況にあえぐ描写ばかりで、こういう悲哀に満ちたストーリーは

むしろ不景気な今という時代に見てこそ、強く視聴者の心に響く作品なんだよ。

そう、この哀愁ある「サジタリウス」の世界観に、ようやく時代そのものが追い付いたのかもしれないね。

とはいえ、この作品最大の特徴ともいうべき「オトコの哀愁」という要素は、実をいうと原作には一切描かれてないものだという。
そもそも、この作品の原作は何なのかというと、イタリアの漫画家/物理学者アンドレアロモリが描いたSF活劇「ALTRI MONDI」というやつらしい。

「ALTRI MONDI」

なんというか、漫画というよりは思いっきりメビウス系のバンドデシネだね。
じゃ、これはイタリアで人気の作品なのかというと、そうでもないっぽい。
どうやら、現地イタリアでも知る人ぞ知るというものだったらしい。
じゃ、そんなマイナー作がなぜ日本でアニメ化されたのかというと、あちらで開催されてた「見本市」(←コミケのようなものだろうか?)にたまたま日本アニメーションのプロデューサーが訪れてたらしく、そこでこの原作本を見つけたらしい。
80年代、当時の日本では「ガンダム」ブームもあって宇宙を舞台にしたものなら何でも当たったという流れもあったし、それもあって「ALTRI MONDI」に食いついた、ということなんだろうなぁ・・。

そして1982年、日本アニメーションは「ALTRI MONDI」を「宇宙船サジタリウス」と改題し、このようなパイロット版↓↓を制作した。

「宇宙船サジタリウス」パイロットフィルム

ちょっと驚くよね。
放送していたアニメ本編とは全然違うテイストだし。
・・そう、ここでは思いっきりバンドデシネ系SFファンタジーなんだよ。

というか、パイロットフィルム制作が82年なのに、アニメ放送開始が86年?

日本アニメーションは、このアニメを作るのに約4年もの歳月を費やしたのか?


そのへんの詳細は、よく分からない。
ただ、バンドデシネ系SFファンタジー「ALTRI MONDI」が、いつの間にか「哀愁に満ちた、貧乏オトコたちの悪戦苦闘」という人情喜劇に改変された経緯には、まず間違いなく、メイン脚本家を務めたというこの人↓↓の影響があるだろう。

脚本家/一色伸幸

一色さんは80年代、最もイケイケだった超売れっ子作家である。
彼の作品で有名なところを挙げると

「私をスキーに連れてって」(1987年)

「彼女が水着にきがえたら」(1989年)

「波の数だけ抱きしめて」(1991年)

めっちゃバブルやん!

・・そう、一色さんって、こういう系統のコメディの名手だったのさ。

バブル期には、今思うと時代そのものに摩訶不思議な「設定」があり、

・オトコは恋人の為、クリスマスイヴは一流ホテルのスウィートルームを予約しておかねばならない
・オトコたるもの、夏はマリンスポーツ(サーフィン等)、冬はウィンタースポーツ(スキー等)を一通り出来なければならない


という絶対的原則みたいなものがあったわけね。
時代はまさにアンチオタクというか、「リア充でなければ生きていく資格はなし」というのがバブル時代の本質だったと思う(そんな時代の空気の中で庵野さんたちガイナックスメンバーは真逆に突き進んでいて、そういうのは改めてスゴイ!と思うんだけど・・)。

そして一色さんの脚本の最大の面白さは、「オトコたるもの、こうあらねばならない」という時代の価値観に飲み込まれてる人たちの滑稽さを描く点にあり、そこは「サジタリウス」でもまた同様だったよね。

「サジタリウス」メンバー/ジラフ

このジラフというキャラの滑稽さは、まさに一色脚本の真骨頂である。
メンバーの中でも最も若い部類に入る彼は「オトコたるもの、こうあらねばならない」というくだらない価値観に縛られっぱなしで、常にトンチンカンな行動をとってしまう。
これはエグゼクティブという<見栄>に縛られてた、バブル時代の若者たちを象徴するキャラ設定である。
でもジラフ、なんか逆に愛しいわぁ・・。

そして、一色さんの傑作といえばこういうのもあるんですよ↓↓

「木村家の人びと」(1988年)

「僕らはみんな生きている」(1993年)

僕らはみんな生きている」なんて、どう見ても実写版「サジタリウス」としか言いようがないんだよ(笑)。
そして、小銭の収集に執着する家族を描いたブラックコメディ「木村家の人びと」は、やはりその俗っぽさから「サジタリウス」の彼↓↓をイメージしてしまう。

「サジタリウス」メンバー/ラナ

貧乏子だくさん、ラザニアに執着する中年オトコ、ラナ。
うちには7人の子供がいるんやで」が毎回お約束の逃げ口上で、とにかくおカネにならない仕事は一切やろうとしない俗物ではあるものの、その割に案外チョロく、最後は人情に流されてしまうのが毎回のお約束である。

とにかくこいつは、毎回ラザニア、ラザニアとうるさい。
80年代当時、まだ日本で「ラザニア」という言葉はあまり定着してなかったと思う。
主に「グラタン」と言っていた。

私はいまだグラタンとラザニアの違いがよく分からんが、聞けば
グラタン=フランス料理
ラザニア=イタリア料理

らしく、でもまぁ似たようなものじゃないか、と。
何にせよ、本作は「ラザニアを日本に普及させたアニメ」ともいえるだろう。

それにしても、

1986年「宇宙船サジタリウス」
1987年「私をスキーに連れてって」
1988年「木村家の人びと」
1989年「彼女が水着にきがえたら」
1991年「波の数だけ抱きしめて」
1993年「僕らはみんな生きている」


という時系列で考えると、「サジタリウス」とはまさに一色さんの原点ともいえる作品だったんだね。

こういう「4年もかけて原作を改変した」という例は正直あまり聞いたことがないし、どういう経緯でこういうものが出来上がったのかは、ホントよく分からない。
ただ、これはあくまで私の想像だけど、この頃の日本アニメーションは結構バタバタしてたと思うのよ。

まず、それまで「名作劇場」を支えてくれていた高畑勲&宮崎駿が「赤毛のアン」を最後に会社を出ていっちゃっただろ?
そして85年にはスタジオジブリが創立され、日本アニメーションからは田中栄子プロデューサーまでそっちに行ってしまった。
そういう流れの中に、「サジタリウス」という企画があったんですよ。

もともと、日本アニメーションは童話系作品ばかりが多く、どっちかというとSF系は得意でもない。
それでも過去に「未来少年コナン」という名作を輩出したこともあり、それを作った宮崎さんはもういないが、でもだからこそ、この「サジタリウス」に懸ける思いは強かったんじゃないだろうか?

普通、本気でヒットを狙うなら、こういう獣人っぽいキャラデザにはしないはずなんだけどなぁ・・(笑)。

でもこれは「獣人」でなく、ちゃんと「地球人」、ちゃんと普通の「人間」だという設定らしい。
おそらく時代設定はだいぶ先の未来だし、つまり未来の地球では人間も容貌がだいぶ変わってしまった、ということなんだろう。
この時代には異星人との交配があり、つまり今の我々みたく「純血」の人間はほとんど残ってない、という意味かもしれん。
イヤだな・・。

「ALTRI MONDI」作者・アンドレアロモリ

このへんは、原作者アンドレアロモリ氏に聞いてみないとよく分からんのだが、そもそもこの人は物理学者でもあるらしいので、ちゃんと理系な設定がそこにはあるような気もする。

ただひとつ、このヘンテコなキャラ設定が逆に功を奏した、というところもあり、こういうデザインだからこそ「作品の時代の古さを感じさせない」というメリットがあるよね。
ある種、時代を超えた普遍性のようなものがある。

「ファンタスティックプラネット」監督ルネラルー
「時の支配者」監督ルネラルー

大体、欧州のバンドデシネ系作家は、「ファンタスティックプラネット」や「時の支配者」を作ったルネラルーの影響を受けてるものである。
「ALTRI MONDI」の特殊なキャラデザも、結局はそこからきてるんじゃないかなぁ?

まぁ、いいや。

じゃ、最後に「サジタリウス」視聴の際のコツをひとつ。
この作品は全77話という大長編なんだが、

ぶっちゃけいうと、全77話を見る必要はないと思います。

いや、時間がある人は全話見てもらえばいいけど、正直途中からだいぶ脚本が雑だよ?
というのも、変に視聴率が良かったので途中から無理に引き延ばしをしたという経緯があったらしく、序盤にあった脚本の緻密さが後ろにいくにつれてどんどん失われていくのさ。
見るべきは、

1~13話、20~26話、40~43話
つまり、一色伸幸さんの脚本回だけを抜粋して見れば十分です。

特に1~13話は、アニメ史に残る名作と認定していいレベルだよな。


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