「ドラゴンボール」改めて見ると、初期が実は面白い
漫画「ワンピース」がギネス記録を有してることは、きっと皆さんもご存じだろう。
どんな記録かというと
「最も多く発行された単一作者によるコミックシリーズ」
だそうだ。
ここでポイントなのが、単一作者という部分である。
じゃ、このランキングを見てくれ。
【日本の漫画発行部数TOP10】
①ワンピース(尾田栄一郎)5億1000万部
②ゴルゴ13(さいとうたかお/さいとうプロ)3億部
③ドラゴンボール(鳥山明)2億6000万部
④名探偵コナン(青山剛昌)2億5000万部
④NARUTO(岸本斉史)2億5000万部
⑥こちら葛飾区亀有公園前派出所(秋本治)1億5500万部
⑦鬼滅の刃(吾峠呼世晴)1億5000万部
⑧美味しんぼ(雁屋哲/花咲アキラ)1億3500万部
⑨BLEACH(久保帯人)1億3000万部
⑩SLAM DUNK(井上雄彦)1億2000万部
こうして改めてTOP10を見ると、「少年ジャンプTueee!」とビビるよね。
集英社、儲かっただろうな・・。
しかし、2位が「ゴルゴ13」というのが実は意外だった。
てっきり、「ドラゴンボール」が2位だと思ってたから。
発行部数を見ると「ドラゴンボール」は「コナン」に肉薄されており、まだ「コナン」は連載継続中ゆえ、そのうち逆転される可能性は大である。
なるほど、もしそうなれば
①集英社
②小学館
③小学館
というTOP3になり、小学館としての面目も保てるというものだ。
しかし、「ゴルゴ13」はさいとうたかお先生が亡くなったのに、なぜ連載が続いてるんだ?と不思議に思ってる人もいるだろう。
それは簡単な話、今はアシスタントたち(さいとうプロ)が描いてるんだよ。
そう、この作品はもともと単一作者じゃなかったということ。
さいとう先生は、ぶっちゃけキャラの顔しか描いてなかったらしい。
まあ、この作品はほとんどジャーナリズムで成立してるし、さいとう先生は漫画描くよりネタの取材をしなきゃならなかっただろうからね。
取材という名目で、銀座で飲んだり、ゴルフしてたという説もあるが・・。

しかし、「ゴルゴ13」が「ドラゴンボール」よりも売れてるイメージなど全くなかったのも事実だ。
それは、やはりアニメの差だと思う。
「ドラゴンボール」のアニメは大ヒットし、いまだ劇場作品の新作が作られてるのに対し、「ゴルゴ13」のアニメはさほど話題になっていない。
ゴルゴ13役の声優を舘ひろしが演じたことなど、もうみんな忘れてるだろう。
まぁ無口なキャラゆえ、舘さん、あまりセリフなかったんだけどね・・。

思えば、さいとうたかおと鳥山明は対照的な漫画家である。
さいとう先生は「劇画」というひとつのジャンルを築いた大御所なんだが、その「劇画」の栄華をぶっ壊したのが鳥山先生といえる。
絵の描き方が全然違うんだよ。
「劇画」がペンの筆圧で線の太細をつけるダイナミックさがあるのに対し、鳥山先生は一定の細い線で緻密に描いていく。
漫画というより、一種のデザイン?
私には専門的な話は分からんが、とにかく鳥山先生のデッサンは「天才」としか言いようがないものだったらしい。
なんせ、下描きをしなかったらしいんだから。
描き上げるのも、めっちゃ速かったらしい。
あと、何といってもその色彩センス。

このピンク色のウンコを見た時は衝撃だった。
しかも、ウンコが笑ってるし。
そりゃ、「ドクタースランプ」が小学生に馬鹿ウケしたのも納得だよ。
小学生ほどウンコネタが好きな人種はおらんからな。
いや、ウンコに限らず、「ドクタースランプ」の色彩センスおよびデザインセンスは、80年代で突出してたといえよう。

今改めて見ても、このキャラデザインは完璧だと思わない?
羽のついたキャップ、ロゴ、色彩センス、服とスニーカーのバランス、どれをとっても絶妙のセンスである。
こんなのが80年代に出てくりゃ、そりゃ爆発的人気になるって。
しかも、メガネっ子のロリキャラだよ?
この人は、子供を描かせるとホント可愛いんだ。

ガッちゃんは「くぴぽー」とかしか喋れないキャラなんだけど、その可愛さはそれまで可愛さランク暫定1位だったイクラちゃん(「サザエさん」)をぶっちぎって単独トップに躍り出たからね。
そう、鳥山明は子供キャラを描かせてナンボの漫画家。
だから「ドラゴンボール」も、悟空が成人してからの「Z」以降より、彼がまだ子供の初期シリーズが一番見てて楽しいんだわ。

いや、「ドラゴンボール」は悟空が成人してからの熱いバトル展開が売りでしょ?という人も多いかと。
確かに、私も昔はそう思ってたさ。
でもイイ齢になってくると、逆に初期の悟空とブルマのロードムービー路線がやたらしっくりくるんだよなぁ。
↑の画を見て。
これは1986年のアニメの画なんだが、ブルマの服とか、メカの感じとか、全く古さを感じさせないと思わんか?
そう、「ドラゴンボール」初期は時代を超えて完璧なアニメなんだ。
比較をするなら、ちょうど今「うる星やつら」が令和版でリメイクされてるでしょ?


この作画のクオリティのギャップを見る限り、リメイクしたかった制作者の気持ちも分かる。
いや、80年代の「うる星やつら」が特に酷かったというわけじゃなくて、あの時代のアニメは大体がこの程度だった。

何なの?この効果線
しかし同じ80年代でも、「ドラゴンボール」だけは全く次元が違う。
作画のクオリティ、キャラデザの完成度、どれをとってもリメイクの余地は全くないほどに完璧な仕上がりである。
「未来少年コナン」と双璧といっていい。
しかも、この初期は作風がまだ【バトル<ギャグ】ゆえ、案外スケベなネタが多くて私は好きなんだよね。



初期はヒロイン・ブルマの出番が多かったのに、やがてバトル展開になればなるほど彼女の出番は減っていく・・。
初期の彼女(16歳)は、めちゃくちゃ魅力的なキャラだったのにね。
まぁ、このへんは少年ジャンプの編集方針だろう。
尾田栄一郎先生は編集方針など寄せ付けない作家性の強さがあるが、鳥山明先生の場合はそうでもないみたい。
私が思うに、この人はストーリーで勝負する人じゃないんだよ。
キャラの魅力と、画のうまさ(デザインのうまさ)で勝負する人。
だからこそ、編集サイドのアイデアはむしろ積極的に取り入れたんじゃないかな?
途中から、ドラゴンボールという玉自体がほとんど物語と無関係になっていったもんね・・。
初期構想から大きく外れていったんだろう。
つまり、尾田先生みたく「16年越しの伏線回収」とかの長期構想もないということ。
いや、「ドラゴンボール」はそれでいいんだ。
小難しく考えず、頭からっぽにして鳥山先生の画を楽しめばいいんだから。
もともと、「ワンピース」とは全くカテゴリーが違うってこと。

さて、上の画は車田正美先生の「リングにかけろ」である。
鳥山明先生が出てくるまで、週刊少年ジャンプの看板は車田正美だった、とされてるのね。
おそらく「リングにかけろ」は、宿敵・少年マガジンの名作「あしたのジョー」を意識した企画だったと思う。
ゆえに当初は正統なボクシング漫画で、ジャブの打ち方、ストレートの打ち方等を懇切丁寧に解説してくれる、極めて誠実なスポ根モノだったんだ。
それが、ある時期から作風が豹変してしまった。


こんな荒唐無稽な作風に変換した途端、それまで全然人気のなかったはずのこの作品が、一躍ジャンプ人気NO1漫画になったという。
どう考えてもこれ、車田先生というよりはジャンプ編集部の「テコ入れ」による作風変換だよね?
そして編集部は、これで味をしめちゃったんだ。
「派手なバトルをすれば、売れる!」と。
ここから「作品に口を出す編集」が少年ジャンプのひとつの売りにもなり、車田先生は後に「聖闘士星矢」を描くんだけど、まさか硬派路線の車田先生がファンタジー路線にいくなんて・・。
しかし、これもマーケティングに強いジャンプ編集部のなせる業では?

思えば、車田先生は本宮ひろ志先生(「サラリーマン金太郎」他名作多数)のアシスタントだったんだよね。
本宮先生といえば絵を描けない漫画家で、さいとう先生の「顔しか描かない」のさらに上をいく、「目しか描かない」人らしい。
そんなメチャクチャな先生のアシスタントをやってたことからして、きっと車田先生って性格いい人なのよ。
だからこそ、ジャンプ編集部の意向を「はいはい~」と受け入れちゃったんだと思う。
そして、鳥山先生も車田先生と同じで、つまるところは性格がいい人だったんじゃないだろうか?
だって、キャラの強さをどんどんインフレさせる、死んだキャラを蘇らせる、たとえネタ切れしても連載を長く続ける、といったところを鑑みるに、どう考えてもこの先生に強い作家性はないでしょ?
本来自分がやりたいことより、編集部の意向を優先して汲んだんだと思う。

ほら、見た目からしてめっちゃ性格よさそうじゃん?
だからさ、こういういい方は失礼だけど、「ドラゴンボール」も中盤以降は【原案⇒ジャンプ編集部/作画⇒鳥山明】という感じになってたんじゃないかな?
だからこそ、鳥山先生本来の作家性を堪能したいなら、「ドラゴンボール」は初期を重点的に見るべきなんだ。
この人の本質は「ドクタースランプ」でお分かりのように、ホントはギャグ漫画家なんだよ。
「ドラゴンボール」ならブルマとか亀仙人とかが主要キャラで出てた頃、敵もピラフ大王のようなポンコツキャラだった頃、あのあたりが実は一番鳥山先生っぽい。
そして、このへんは今見ても全然面白いよ。
逆に中盤以降のバトル展開は、今はもう「鬼滅の刃」とか「呪術廻戦」とか見ちゃってるし、敢えて今さら見たいとは思わないんだよね。
そう、「ドラゴンボール」は、もっと初期を再評価されるべきなんだ。

