起業が「新卒職」になる時代AI起業ブームとコンサルブームのデジャヴ ― 業務知識なき参入は成立するか
目 次
序章 問題の所在........................................................................ 3
第一章 データが示す構造変化..................................................... 4
第二章 コンサルブームとの構造的相似......................................... 5
第三章 決定的な差異――学習コストは誰が払うのか...................... 6
第四章 「作れる」と「使える」のあいだの谷.................................... 7
第五章 AIが引き上げる業務知識の相対価値................................... 8
第六章 淘汰の速度と退場のコスト.............................................. 9
第七章 日本市場の特殊性............................................................ 10
第八章 勝つ人材像――三つの類型................................................ 12
補章 FDEという第三の経路――継承装置の再設計......................... 13
終章 実務知識は誰が継承するのか................................................ 15
序章 問題の所在
本稿の出発点は、二〇二六年七月に報じられた米国テック業界の採用動向に関する記事である。〔事実〕大手テック企業の採用は二〇一九年比で二五%減少し、新卒・若手向け採用に至っては約六五%の減少と報じられた。他方、コンピューターサイエンス系学部の卒業生のうち自らを「創業者」と名乗る者の割合は二〇二二年比で二倍に増え、ベンチャーキャピタルの投資の約半分がAI関連スタートアップに向かっている。記事はこの現象を「起業が新たな新卒レベルの仕事になっている」という一句で要約した。
この報に接して、多くの読者が想起するのは二〇〇〇年代から二〇一〇年代にかけての「コンサルブーム」であろう。業界経験の薄い若手が、フレームワークと資料作成力と地頭を武器に企業課題へ参入していく――あの物語と、AIとコードとプロトタイプを武器に業界課題へ参入するという今日の物語は、構造的に酷似している。
本稿が答えようとする問いは単純である。業務知識のない社会人・学生が、AIの実装力だけを武器に起業して、うまくいくのか。〔考察〕結論を先に述べれば、初速は出るが、継続的な価値創出は極めて困難である。そして今回のブームは、コンサルブームと似ているがゆえに見落とされやすい、より厄介な構造を内包している。以下、章を追ってこの結論を論証する。なお本稿では、報道等で確認できる事柄を〔事実〕、そこからの推論を〔考察〕、複数の事実の突き合わせによる解釈を〔分析〕として明示的に区別する。
