「教えない」という統治── 吉井理人『コーチング論 教えないから若手が育つ』を育成OSとして読む ──

目 次

序章 本稿の視角................................................................................ 3
第1章 本書の骨子──答えを教えないコーチング................................. 4
第2章 JTC型育成との対比................................................................ 5
第3章 「教えない」は放任ではない...................................................... 6
第4章 三人称日記と脳内コーチ──自己距離化の技法.......................... 7
第5章 結果を問わない──プロセス監査としての振り返り.................... 8
第6章 個性と「非常識」──平均値主義への反対................................... 9
第7章 「コツ」と言語化──感覚を移転可能にする技術......................... 10
第8章 伝え方の設計──杓子定規の助言はなぜ失敗するか................... 11
第9章 事例としての大谷翔平............................................................ 12
第10章 適用限界──「教えない」が成立する条件................................. 13
第11章 AIエージェント時代への射程.................................................. 14
終章 自分を不要にする職能................................................................ 15
参考文献........................................................................................... 16

序章 本稿の視角
本稿は、千葉ロッテマリーンズ監督・吉井理人氏の著書『コーチング論 教えないから若手が育つ』の概要を整理し、三つの補助線から考察を加えるものである。第一に、日本的大企業(以下、通称に従いJTCと呼ぶ)の育成文化との対比。第二に、三人称日記・脳内コーチに代表される自己客観視の技法の理論的背景。第三に、AIエージェント時代の人材育成論への射程である。
〔事実〕著者は大谷翔平、ダルビッシュ有、佐々木朗希ら日本球界を代表する投手を間近で指導・観察してきた人物であり、本書はその経験を大学院で学んだ理論の言葉で整理した一冊である。読者としては野球ファンだけでなく、部下や後進の育成に関わるすべての実務者を想定できる。
本稿では、書籍の記述および公開情報に基づく部分を〔事実〕、そこからの推論を〔考察〕、複数領域を接続する解釈を〔分析〕として区別して記述する。評者はAIガバナンスと監査の仕組みづくりを専門領域とするため、考察の一部はその観点からの読解であることをあらかじめ断っておく。なお、本稿で言うJTC型育成は、議論のために意図的に典型化したモデルである。現実の日本企業の育成文化は多様であり、批判の対象は特定の企業ではなく、悪化した様式としての類型であることを付記する。

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