水原勇気と岩田鉄五郎の記録を統計的に読む― 少数標本・高分散型と長期累積・交絡型の対照 ―〔改訂版〕
目 次
第1章 はじめに ― 本稿の趣旨と改訂の理由......................................... 2
第2章 二人の記録 ― データの整理..................................................... 2
第3章 水原勇気 ― 少数標本に凝縮された投手..................................... 2
第4章 水原勇気の不安定性を数量化する.............................................. 3
第5章 岩田鉄五郎 ― 長期累積としての投手......................................... 4
第6章 岩田鉄五郎の「精度」と「妥当性」............................................... 4
第7章 二人の統計的対照 ― 推定が失敗する二つの道............................. 5
第8章 フィクション記録としてのリアリティ........................................ 5
第9章 豊福きこう的集計の意義............................................................ 6
第10章 結論 ― 勝つことだけが記録ではない........................................ 6
第1章 はじめに ― 本稿の趣旨と改訂の理由
本稿は、水島新司作品に登場する二人の投手、水原勇気と岩田鉄五郎の記録を、統計的観点から比較する試みである。ここで扱う記録はフィクション上の情報であり、現実のプロ野球記録と同列に厳密比較することを目的としない。重要なのは、二人の記録がどのような「出方」をしているか、そしてその数字が統計量として何を語り得るかである。
水原勇気は、女性初のプロ野球選手として描かれた左投げアンダースロー投手である。豊福きこう版に基づく一九九九年までの記録として、一七登板、一勝三敗一二セーブ、投球回九回三分の二、防御率五・五三と整理されている。一方、岩田鉄五郎は、一九四六年に東京倶楽部へ入団し、通算現役五八年、二〇四勝四〇四敗八セーブという異様な累積記録を持つ投手として整理されている。
初稿では、この対照を「少数標本・高レバレッジ型」と「長期累積・低勝率型」という性格づけで整理した。本改訂版では、その直感を保持しつつ、各指標に不確実性の幅(信頼区間)を与え、二人が体現しているのが実は統計が失敗する二つの異なる様式であることを明示する。すなわち、水原の数字は精度が足りず推定に至らない例であり、岩田の数字は精度は完全でありながら測っている対象が交絡している例である。この二点を軸に、初稿の記述を数量的に裏づけ直す。
