−おばはん文学−そんな時もある│【第四話】犯人は頭の上
朝一番。
惣菜売り場で叫んだ。
「丸ちゃん、うちのメガネ知らん?」
「知らん。」
返事、早っ。
「まだ最後まで言うてへん。」
「どうせ頭の上やろ。」
「そんなベタなことある?」
丸ちゃんは口をぎゅっと結んでる。
笑うん我慢してる顔や。
「玉ちゃん。」
「ん?」
「頭。」
恐る恐る手をやる。
……あった。
「あるやん。」
「あるわ。」
……ベタやっ。恥ず。
「犯人、見つかったな。」
朝から事件解決や。
コロッケを並べながら思う。
メガネいうんは、
外した瞬間から、
自由人になる。
毎回、
大捜索になる。
せやのに犯人は、
一番近い場所から、
うちを見下ろしてる。
腹立つわ。
その時。
「すみません。」
お客さんや。
「このお惣菜、なんぼですか?」
値札を見る。
……
見えへん。
もうちょい近づく。
……
まだ見えへん。
あと1センチで、
値札とチューする距離や。
「あっ。」
メガネをかける。
「298円です。」
「ありがとう。」
お客さんは笑顔で行った。
横で丸ちゃん、
肩ヒクヒクして笑うてる。
「さっきまで逃亡中やったんが、もう仕事しとるやん。」
「忙しいメガネさんやねん。」
二人とも下向いて、肩ヒクヒク。
休憩時間。
セブンでアイスコーヒーを買う。
ストローをさして、
飲もうとした。
「あれ。」
またや。
メガネがない。
バッグ。
制服のポケット。
ゴソゴソ。
「玉ちゃん。」
丸やんがニヤニヤしてる。
「頭ちゃう?」
「えっ、ちゃうやろ。」
頭を触る。
……ない。
「ほらな。」
ちょっと勝った気になった、その瞬間。
「胸。」
「え?」
制服の胸元を見たら、
メガネが、ちょこんと刺さってた。
「あった。」
「今度は潜伏先、変えてきたな。」
「油断も隙もないメガネさんや。」
2人で顔を見合わせて
肩をヒクヒクさせた。
家へ帰る。
夫がまた工具の動画を見てる。
「今度な、棚作ろ思うねん。」
また始まった。
「何時間コース?」
「一時間。」
「ほな四時間や。」
「なんでや。」
「今まで全部そうやったやん。」
夫は笑う。
「今回は違う。」
その"今回は"、
何回聞いたやろ。
知らんけど。
お風呂あがり。
今日も定位置。
ポテチ。
チョコ。
グミ。
お茶。
テーブルの上に勢ぞろい。
韓国サスペンスが始まる。
開始十分。
「あ、この人怪しい。」
「まだ十分やで。」
「うち、勘ええねん。」
結果。
今日も見事にハズレ。
夫は笑いながら、お茶を飲む。
うちは、
ポテチをパリパリ。
チョコをパキッ。
グミをクチャクチャ。
……
最後に、お茶をズズッ。
「これで帳消し。」
夫が咳込んだ。
「何が?」
「ポテチとチョコとグミ。」
「ならへん、ならへん。」
大口開けて笑う夫。
…が急に
真顔で言うた。
「……なぁ。」
「ん?」
「犯人見つけた。」
「え?」
「頭。」
恐る恐る手をやる。
……おった。
「また、そこやったか。」
夫は声を出して笑ってる。
うちも、つられて笑うしかなかった。
朝は頭。
昼は胸。
夜はまた頭。
メガネいうんは、
家出してるんやない。
うちの近くで、
かくれんぼしてるだけやった。
まあ、そんな時もある。
玉子のひとこと
探しもんいうんはな
遠くまで行ってるようで、
だいたい近くにおる。
幸せも、
メガネくらい近くに
あったらええのにな。
知らんけど。
よはく
