合図はベートーヴェン。ごみ袋を持って外に出る台湾。
台湾の街角に、ピアノの旋律が近づいてくる。
ベートーヴェンの《エリーゼのために》。
ところが、家から出てくる人たちが持っているのは、演奏会のチケットではない。
ごみ袋である。
一般ごみ、資源回収物、生ごみ。住民は決められた時刻に収集地点へ向かい、黄色い収集車へその場で直接ごみを渡す。
演奏会にしては、持ち物がかなり生活的だ。
ごみは、車が来るまで地面に置かない
台北市の家庭ごみ収集は、「定時定点垃圾不落地」と呼ばれる方式で運用されている。
住民が袋を集積所へ置いて立ち去るのではない。決められた時刻と場所で収集車を待ち、一般ごみ、資源回収物、生ごみを直接引き渡す。
台北市では現在、原則週5日収集で、水曜日と日曜日は収集しない。到着時刻はルートごとに決められている。
住民と収集車の双方が、同じ時間と場所にそろわなければ成立しない。
その同期を助けるのが、音楽だ。

袋を買うことが、処理費の支払いになる
台北市では、一般ごみを市の指定袋へ入れる必要がある。
この袋は単なる容器ではない。ごみ処理費を支払うための計算単位でもある。
指定袋は1リットル当たり0.36ニュー台湾ドル。大きな袋を多く使うほど負担も増える。適切に分けた資源回収物や生ごみは、一般ごみとは別に回収される。
音楽だけで、ごみが減るわけではない。
直接引き渡す収集方式、有料の指定袋、資源回収と生ごみの分別。複数の仕組みが一緒に動いている。

なぜ、ベートーヴェンなのか
曲の由来には、有名な説がある。
当時の環境行政責任者が娘の弾く《乙女の祈り》を聞いて採用した。ドイツから輸入された収集車には《エリーゼのために》が入っていた。
しかし、詳しく調べると話は単純ではない。
研究資料によれば、1968年に導入された初期の放送装置は日本のノボル電機製で、装置1台が鳴らせるのは1曲だった。同社が購入時の標準候補として用意した7曲には、《乙女の祈り》と《エリーゼのために》が含まれていた。
行政側が特別な意図で曲を選んだことを示す証拠は、確認されていない。
よく知られた由来ほど、記録が弱い。

現在は、台北市の検索サービスで収集地点と予定時刻を確認できる。
それでも最後の動作は変わらない。
音を聞く。分別する。外に出る。車へ直接渡す。
台湾のごみ収集車が珍しいのは、クラシック音楽を流すことだけではない。
音楽を合図に、住民と収集車を同じ時刻と場所へ集める都市制度が組まれている。
《エリーゼのために》という曲は変わっていない。
変わったのは、台湾の街でその音を聞く人が理解する意味だ。
ここでは、拍手の代わりに、ごみ袋が集まる。
※掲載画像は記事内容をもとにAIで制作したイメージです。実際のごみ収集風景を撮影した写真ではありません。
参考資料
・Talent Taiwan/國家發展委員會「如何丟垃圾與落實回收」
https://talent.nat.gov.tw/life/taking-out-the-garbage-and-recycling?lang=zh
・臺北市政府環境保護局「市民如何排出垃圾及回收物?」
https://www.dep.gov.taipei/News_Content.aspx?n=ACEFA960B5A4ACD7&s=A00A0483EDD01410
・臺北市資料大平臺「臺北市垃圾車點位路線資訊」
https://data.taipei/dataset/detail?id=6bb3304b-4f46-4bb0-8cd1-60c66dcd1cae
・臺北市政府「臺北市為何要實施垃圾費隨袋徵收?」
https://www.gov.taipei/News_Content.aspx?n=EEC70A4186D4C828&s=63FEA0A6E11ECA67&sms=87415A8B9CE81B16
・臺北市政府環境保護局「請問專用垃圾袋售價及每包個數?」
https://www.dep.gov.taipei/News_Content.aspx?n=ACEFA960B5A4ACD7&s=E38F3CB387CBCE76
・Ministry of Culture, Taiwan, “Garbage trucks may sing a different tune in Taoyuan”
https://www.moc.gov.tw/en/News_Content2.aspx?n=467&s=14287
・Nancy Guy, “From Musical Garbage Trucks to Garbage Consciousness in Taiwan”
https://taiwaninsight.org/from-musical-garbage-trucks-to-garbage-consciousness-in-taiwan/
