旅館
俺の名は怪盗ラパン。狙ったお宝ちゃんは必ず手に入れる。それが俺のポリシーなワケ!
「こんな場面で何ゴタゴタ独り言言ってんだ💢」
隣から怒鳴り声が聞こえるが、コイツの名は『試験"luck"第介』、銃の名手さ。俺とは腐れ縁の相棒。「ラパン!俺が援護するから、ここを突き抜けろ!」また試験が叫ぶ。俺たちはお宝のある豪邸まで辿り着いたが、豪邸前は、まるで軍隊な用心棒たちが取り囲むように警備をしていた。イタリア製の角の取れた観覧車にタイヤをつけたような愛車をバリケードにして、飛んでくる弾丸を避けていたが、試験の言う通り正面突破しか無さそうだ。その時、突然どこからともなく場違いな着流しのニ本差しが現れ、「拙者も助太刀いたす」の言葉とともに石山''天城''越え門が名乗りを上げる。(こいつぁ心強いぜ)そう思った俺は弾丸避けにしていた愛車のボディの上をスーッとカラダを滑らせ、豪邸まで走り始めた。と同時に弾丸の嵐が俺を襲う。試験の援護射撃が俺を守ってくれ、、、るはずが、あっさり俺は足を撃たれて地面に倒れる。「ラパンすまん、玉詰まりだ」試験が申し訳なさそうに叫ぶ。''天城"越え門も「また、つまらぬ物に当たってしまった」と倒れていた。主役は弾に当たらないのではないのか?俺は主役じゃないのか?頭を疑問が渦巻く中、豪邸のバルコニーにロープが垂らされ、上空にはヘリの轟音が鳴り響く。「ラパ〜ン、お宝はワタシがいただくわ〜」峰打ち子がロープと共に、あざ笑いながら、彼女のそのグラマラスな肢体は上空に舞い上がっていく。思わず俺は「打ち子ちゃーん、そりゃないよー」
「そりゃないよー、、、ないよーないよーないよー」「内容が無いんだよ!」
はっ目を覚ます。スーツ姿の俺はオフィスで立ったまま居眠りしていた。
「お前の報告書は内容が無いんだ。もっと何とかならんのか?聞いているのか?」そうだ課長のお叱り説教があまりに退屈で気がついたら夢の中だったわけだ。確かに俺が主役なワケないか。現実に戻った俺は課長の説教のあと、デスクに戻って再度報告書を打ち直す。何回やり直しているんだろう。これ以外にも仕事は山積みだ。作業の果てしなさに気が遠くなる。千里の道も一歩から、ローマは一日にしてならず、急がば回れ、、って何時間どこまでも回って回って、もう千里の道も五里霧中。もういい加減ローマも休日にしたい。就業時間もとっくに終わり、課長も退社してるし、気がつけばフロアには俺しかいない。全く仕事は終わるどころか、ゴールはまだまだ。サービス残業+明日の休みも、この調子じゃサービス出勤。思わず独りでため息。このままじゃ、どうにかなってしまいそう。昨日も一昨日も深夜帰宅&早朝出勤の極悪コンビ。こりゃもうスリーカウント、ホールド負けだ。こんな無理ゲーやってられるか、と無意識に『温泉旅館 当日』と検索サイトに打ち込んでエンターキー。明日は休み予定。とはいえ日も暮れて、とっくに真っ暗なこんな時間に当日予約がヒットする旅館なんてあるワケないか、、ちょっとした間のあとに『一件』。まさかのヒット!見てみると、この時間から何とか電車を乗り継げば今日中に着ける場所。そして温泉旅館なのに、信じられないくらい破格な激安。これはサギサイトか?冷静なら、そう判断するだろう。けれども、終わらぬ仕事→ホールド負け。こんな無理ゲーもう知らねー。マジ仕事なんかやってられるか。コレを知ったも何かの縁。ヤケの情熱、速攻カード払い、勢いで温泉方面の電車に飛び乗っていた。
さすがの当日予約。温泉旅館とはいえ素泊まり。さらに激安なのだから、その辺り文句は言えない。それどころか、カード払いのあと、現地に旅館が無い可能性も有り、くらいに思っていたのだから、ちゃんと存在していただけでも感動に値する。しかも、いい感じに、ひなびている風情のある旅館。コレは当たりくじなのではないか?駅前のコンビニで夕飯を買い、通された部屋は和室で少々こじんまり感は否めないが、男独りだ。寝られるスペースがあれば問題ない。それより温泉。温泉が良ければ全てはOK。ということで夕飯もそこそこに早速大浴場へ。チェックインが遅かったことも幸いして、露天の大浴場は俺以外の客はゼロ。貸切状態で源泉かけ流しの露天を堪能も堪能。昼間のろくでもない夢では主役じゃなかった俺だが、リアルな現実世界、この露天風呂では主役は俺だ。嫌な仕事もどこかに飛んでいき満足満足。ホクホク気分で部屋に戻り床につく。レイトチェックアウトOKということだから、明日はグッスリ朝寝しよう。余裕が有れば翌朝もう一度入浴するのもいいかも。いずれにしろ、仕事の疲れをしっかり癒すことが出来そうだ。しかしながら、素泊まりとはいえ当日予約で、なぜこんなに安いんだろう?心のどこかに疑問を感じていた俺だが、心地よい疲労感で気がついた時には深い眠りに落ちていっていた。
どれくらい寝たのだろう、深夜の最後尾、早朝の最前線、暗やみの闇と朝日の光が交錯する寸前、そんな頃合いに、俺の部屋のふすまから声がする。「お客様、お客様、お休みのところ、誠に失礼致します。用ありまして、失礼ながらお客様の側を通ります。お客様は寝ておいでのままで構いませんので」そう言ってふすまが開き、寝ている俺の脇を2〜3人が通り過ぎていく気配がする。確認しようとするが、暗闇が濃くハッキリとは見えない。泥棒?まさか幽霊、妖怪?モノノケの類いが出てもおかしくない風情の旅館ではあるが、『出る』にしては丁寧過ぎないか?そういう性質の幽霊、妖怪なんだろうか?俺の勘違い?判然としないまま20分くらい経った頃、またふすまから先程と同じように、丁寧な断りがあり、その後寝ている俺の側を数人が通る。今度は少しだけ明るくなったことで、通り過ぎる際に人影が見えた。幽霊や妖怪に影はあるのか?また20分ほど経ち、全く同じ現象が起こる。危害は何も加えられてはいないが、やはり気味が悪い。昨日の説教中と同じように、また悪い夢でも見ているんだろうか?そう思うが仕事続きで疲れている割に、明らかに目は冴えてくる。コレは夢ではない。明らかに現実だ。気味の悪さは最高潮に高まったが、案外簡単に謎は解けた。分かってみると、バカバカしい。というか、ふざけるのも程々にしろ、くらいに腹立たしくなってくる。朝日も上がり明るくなると、まさしく全ては明らかに。チェックアウトする客が俺の部屋を通り過ぎていただけのことだった。というのは旅館の仲居を問い正してみたところ、この旅館はチェックアウトの際、俺の泊まっている部屋を通らないと玄関から外に出れない構造になっている。だから、全ての宿泊客は俺の部屋を通って行くのだ。(チェックインの際も同じことだが、昨晩は俺が最後の客だったから、気がつかなかったというワケ)元々、出発前の待ち合いの部屋だったが、商魂たくましいというか、ここも部屋にしちゃえ、その変わり安めに設定したら文句ないだろ、という流れで客室になってしまったとのこと。昨晩はレイトチェックアウトとか言ってたが、こんな部屋、落ちつかないわ、プライバシーもセキュリティもあった物ではない。慌ててチェックアウトしたわけだ。なんだかんだ、やはり俺は休みもトホホなワケだ。でも、コレを読んでいる奇特な奴の中には、こんな旅館が気になる、さらにモア奇特な奴もいるんだろうか。そんな奴は残業が嫌になった夜に『温泉旅館 当日』で検索してみたらいい。ラッキーなら見つかるはず。これをアンラッキーではなく、ラッキーと思えるアンタはどんな状況でも主役になれるはず(?) (了)
↑今回は出ていない、例の警部が出ております。
