vol.16寄稿者&作品紹介18 綿野恵太さん
今年1月に増補改訂版『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(朝日文庫)が発売になった綿野恵太さん。今週月曜日(5月4日)に開催された文学フリマ東京42にも出店なさっていて、私(←発行人)はコピー本『自炊とメシと酒の話』をゲット。当日の綿野さんはネットショップ(BASE)「わたの商店」でも販売している〈おなか吹田市〉Tシャツを纏っていまして...この〈おなか吹田市〉というのは綿野さんのXでよく放たれるフレーズでして、もうひとつ〈銀だこは許さない〉というのもあって、私はなぜ許さないのか不明なのですが、Gemini曰く“大阪生まれの綿野氏はたこ焼きへの愛が深く、銀だこの揚げ焼きを「たこ焼きの歴史の歪曲」と批判。外が柔らかく中がトロトロな伝統的スタイルを理想とし、自ら焼く配信等でその美学をユーモア交じりに発信しています”と。...御本人に直接尋ねてみればよかったな、文フリで。

さて、綿野さんが今号にご寄稿くださったのは〈会津、天空橋、丸の内〉と題された日記形式の一篇。「革命ってなんだったのかを考える本」という出版企画の下取材で訪れた場所での見聞が、時系列でまとめられています。【二〇二五年二月一〇日】には天空橋で1967年10月8日の第1次羽田事件(佐藤栄作首相の南ベトナム訪問阻止運動)の痕跡を発見するなど。【二〇二五年二月一二日】には丸の内で、さらに2つの大きな事件にまつわる場所を...それについては、ぜひ小誌を手にとってお確かめください。
3つの事件に関して、本作においては筆者の感情や意見が、ほぼ封印されているように読めます。下取材の日のできごとを淡々と綴り、それらの場所の、いまでは何事もなかったかのような様子を丁寧に描写。それでも、綿野さんの視点というか、この下取材の角度、みたいなものは、それとなく伝わってくるような気がしました。そう遠くない未来、世に出される「革命ってなんだったのかを考える本」がどんなものになるのか? とくに3つ目に扱われている事件、私はリアルタイムでニュースに接し「なぜこんなことをする人がいるのか?」と当時は理解できなかった案件なので、どのような論考になるのか、大いに興味があります。

出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税)ISBN:978-4-8-6538-180-1 C0095 ¥2000E
弁天橋のすぐ近くに、護岸からかんたんな桟橋が伸びていて、コンクリートで固められた浮島のようなところに、水難者を供養するお堂がある。そのわきに、ちょうど弁天橋の方向を拝むようにしてお地蔵さんが立っている。毛糸で編まれた赤い帽子をかぶり、ベージュのマフラーを巻いている。台座の正面には「平和地蔵」とあり、しゃがみ込んで側面をのぞくと、「山崎博昭没後五十年二〇一七年十月八日建立」とあった。
もう一つの記念碑は、橋から離れたお寺にあった。墓地のあいだを歩き回り、ちょうど一周したところで、入り口近くにあったお墓が記念碑だと気付いた。石碑には山崎博昭とだけ刻まれ、墓誌には「反戦の碑」とあるが、白い文字はかすれて読み取ることが難しい。
弁天橋あたりを見終わって、記録用の写真を撮ろうとしたところ、Nさんが「あっ」と声を上げた。橋の欄干にある「辨天橋」というプレートに、ペットボトルが針金で巻きつけられている。それを花瓶替わりにして、二輪の花が供えられている。すでに茶色く枯れて、中の水も濁っていた。その横には、養生テープで貼り付けられた紙片があり、マジックで書かれた「10」という数字が見えた。
~ウィッチンケア第16号掲載〈会津、天空橋、丸の内〉より引用~
綿野恵太さん小誌バックナンバー掲載作品:〈ロジスティクス・ディストピア〉(第15号)
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