バブル期建築とハイテックデザイン 〜突撃!例の建築家の手すり ⑥
前回のおまけ的続きモノでもあります。
せっかく東京ビッグサイトに行ったのです、ならば手すりもチェックせねば。
その前に、こんなサイトを見つけたのでご紹介。当時、東京都にいらっしゃった方の裏話たっぷりの記録でした。リフトアップ工法の話もありますよ。
ここに来ると思うのは、とにかくいい建材を使っているなあということ。塩害バリバリの筈の土地なのに、あまり錆びたり汚れたりしていない印象なんですよね。築30年になろうというのに。
佐藤総合計画(佐藤武夫設計事務所)について
東京ビッグサイト(東京国際展示場)の設計は佐藤総合計画。何だゼネコンか、という風情の社名ですが、さにあらず。もともとは佐藤武夫設計事務所という名称でした。
佐藤武夫という建築家は、若い頃に恩師のもとで早稲田の大隈講堂を手掛けられた際に音響に苦労し、その設計技術を磨き、日本の建築音響の第一人者として大成された方でもあるそうで。
そんな佐藤武夫のポリシー、同社の企業理念に残されておりました。
AXSには創始者である佐藤武夫より受け継がれた一つの言葉があります。
「建築はもともと万人のものである。作者の強い個性をあまり主張し過ぎてはいけないと思う。むしろ控え目に、風土と市民の演ずる舞台の引き立て役であるべきだ。」
この取り組み姿勢は現在も変わることなく、全ての作品に脈々と受け継がれています。いたずらに流行を追い求めることなく、普遍的な価値ある建築、環境を創造していくという姿勢、情熱は全所員に共有されています。
実は、この方の存命中の東京での代表作のひとつを、ちょうど新橋でのバス乗り換えの際に撮ってました。タイパ抜群のツアーです。

新橋駅前ビル(1966)。駅の反対側のニュー新橋ビル(松田平田:1971)とともに、新橋の南側の風景といえばこれ、というビルですね。中はカオスなのも新橋らしさを醸しております。再開発が決まっているので見学の方はお早めに。
外壁のパターン、幾何学で押していますが、個性を主張しすぎないというラインを守っているようにも感じられます。でも築60年になろうとしながらもどこか新鮮みを残しているあたり、デザインの勝利とも言えそうです。
東京国際展示場(1995)


ゆりかもめの高架もデザインを揃えましょ、というところまでいかないのがちょっと残念みがありますね。ほぼ同時期の開通だったのに。でも周囲の歩道や橋はデザインが揃えられております。例えばこの先の、都道をまたぐ橋の欄干。

築30年なんですよこれ。潮風吹きすさぶ外部で。流石にパンチングメタルの穴の周りは汚れてきてますけど。
そして三角形のデザインコードは、国際展示場の持ち上がった会議棟のパネルそのままです。ちなみにあの会議棟の方の外壁パネル、チタン製。そりゃ古びないわけです。こちらはステンレスのパンチングメタル。

手すりはシンプルなステンレス丸パイプ。デザイン要素としてシンプルであらねばならないのですね。
なぜなら、この頃の建築デザインの流行がこのハイテック。ちょっと懐かしさもあるような、工業的なデザインを洗練させて幾何学に落とし込んでいるようなやつ。その元祖として知られるのはロイズ本社ビル(リチャード・ロジャース:1986)ですかね。設備配管などを隠さず、外部に格好良く、そのまま露出するのも特徴です。
ご紹介記事がnoteにありましたのでリンクを。noteって何でもありますね。
さて室内の方もチェック。

こちらも手すり部分は素っ気ないステンレス丸棒。デザインコードは先の外部手すりと似てますね。統一感あります。接合部をみてみましょ。

ブラケット部分、穴が空いております。これ、航空機の構造などで使われる重量軽減のための肉抜き穴のデザインです。でも建築はそこまで軽量化を図らねばならない理由などなく、あくまでデザイン。たぶん穴を開けるほうがコストは上がってます。でもカッコイイは正義、というやつですね。

DPG工法というガラスの支え方が、この頃ちょうど実用化されたのです。外壁などが、ガラスだけで構成されているように見せられるということで流行しました。ガラスにピンポイントで正確に穴を開け、そこに金物を通して接合する方法です。当然、お高い。でもカッコイイ。
日比谷野外音楽堂の道を挟んだ向かいにあった旧長銀のビル、あれが日本での最初のDPG工法採用事例だったような。大学時代に、水晶宮でも見るような思いで観察した記憶があります。でもあえなく銀行は傾き、ビルもわずか築20年で解体の憂き目に。
というわけで、作者の個性というよりは流行に乗ったデザインを随所に残し、贅沢材料をふんだんに使ったのがこのビッグサイトの特徴と言えるでしょうか。
バブル経済の嵐の真っ只中の設計で、社訓通りに控えめ、とは言えないかもですが、風土と市民の演ずる舞台の引き立て役にはなっているのではないでしょうか。特に、年2回のインディーズの漫画系に関わる皆様のためには。
そして、この項、延長戦もあります。
また国際展示場駅から東京BRTバスに乗り、新橋下車。その目前に。
日本テレビタワー(基本設計R・ロジャース:2003)
先ほど挙げた、ハイテックデザインの元祖、リチャード・ロジャースが基本設計を行ったビルが新橋は汐留にあるのでした。なんてタイパ抜群の企画なんでしょう今回。
世間的にはこれが有名なのでしょうかね。ジブリ時計。

内部の階段ゾーンは第三者の立ち入りが殆どできないので、外部の手すりを探します。

さて新橋駅側の地下道に面したところに外部階段を発見。
こちらは段板が木製。ガラスが手すりよりも高いところまでついておりますね、安全対策かな。手すり棒はビッグサイトのものとほぼ同じ仕様、端部だけ袖がかからないように折り下げてます。洗練されてますねやっぱり。
でも、何かがおかしい。何かが。狂気を感じる。ガラス部に。

あれ?

あれれ?

おわかりいただけただろうか。
表面、金具が貫通していないのです。触るとガラス面だけ。ツルツル。
種明かしをすると、このガラスは合わせガラス。1枚目のガラスを設置する際に穴を開けておいて金具で取り付け、2枚目は接着フィルムで圧着し、厚み部分の天端側にステンレス金具を付けて一体化(被せてんのかな)。それ以外にこれを実現する方法が思いつかない。流石に現場でその工程は難しいだろうから、組んでここまで持ってきたのでしょうかね。手すりや階段ごと。謎だ。
スマホに保護ガラスを貼るときに、あの小さなサイズでも気泡やらホコリを漏れなく入れてしまう自分としては、考えるだけで恐ろしいつかの間の恐怖体験を味わったのでした。
こういうのを眺めて、建築家の業というものについて、皆様もなんとなく感じ入っていただければ幸いであります。
そりゃ費用はかかりますが、ここまでやってようやく滲み出るものがあると、信じてやっている人種が建築家でもあるのです。
更におまけのおまけ。
高輪ゲートシティ駅(隈研吾:2020)

次の目的地への途中で駅の中だけ観察した、クマーさんの階段手すりとガラスの支持方法。ガラスの接合部に金物を取り付ける、ガラス加工を最小限に済ませるエッジポイントグレージング:EPG工法をメインに使ってます。そして金属部材は鋼材に亜鉛メッキドブ漬け。手すり形状はロジャースとほぼ同じ。でもトータルで桁違いにお安いはず。
隈さんの凄みは、先のロジャースの狂気と対照するとよりよく分かると思います。そういった、これまでの建築家の拘りをことごとく捨てられる狂気、その持ち主なのです。
イニシャルコストを安くする提案は、これまでの建築家は嫌がったはずですが、隈さんはやる。有権者からの無駄金使うな、といった批判を華麗に躱し、それでいて昔の佐藤武夫のように意識的に控えめなデザインにはしないので、一言でいえば映える。なのでとても発注側としては頼みやすい。
でも、その選択肢の帰結として、腐る板でもなんでも貼ったりする。でも交換できますよ、それ、って言える。でもそこに爪痕は残す。そんな凄み。
こういうところを見ながら、建築家ってイカれてるぜ、って思えるようになってくると、建築巡りがもっと楽しくなりますよ。
次回は目黒に向かいます。
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