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無職で身分証なし、妻を呼ぶ夜 /昔稼げた男のしょうもない再起録 #7

その夜も、家にいるのがしんどかった。

求人サイトで落ちる。

相変わらずnoteの下書きは白い。

酒は飲まないようにしている。

となると、やることは散歩くらいしかない。

健康的な話ではない。

家の中で、自分の情けなさと二人きりになるのが嫌だっただけである。

近所を少し歩くだけのつもりだった。

財布は持っていない。

身分証もない。

スマホだけ。

この時点で、だいぶ頼りないおじさんである。

ちょっといいですか

しばらく歩いていると、後ろから声をかけられた。

「ちょっといいですか」

振り返ると、警察官だった。

悪いことはしていない。

ただ夜道を歩いていただけである。

でも、こういう時、人はなぜか少し悪いことをした気分になる。

名前を聞かれた。

住所を聞かれた。

何をしているのか聞かれた。

散歩です。

そう答えた。

「お仕事帰りですか?」

その一言だけ、やけに大きく聞こえた。

帰るほどの仕事が、今のボクにはなかった。

「今はちょっと、働いてなくて」

そう答えた気がする。

自分で言って、少し小さくなった。

身分証がない

身分証の提示を求められた。

持っていなかった。

財布もない。

免許証もない。

保険証もない。

スマホだけである。

近くで、ひったくりが多発しているらしい。

時間帯も、場所も、少し悪かった。

無職。

身分証なし。

夜道を一人で歩いているおじさん。

自分で並べると、少し怪しい。

いや、だいぶ怪しい。

なかなか帰れなかった。

名前も住所も言った。

スマホで何か証明できないか探した。

保険証の画像もない。

免許証の写真もない。

出てくるのは、不採用メールと、noteの下書きくらいである。

どちらも本人確認には向いていない。

警察官も困っていた。

ボクも困っていた。

結局、本人確認が必要になった。

そして、妻に電話することになった。

これが一番しんどい。

妻が来た

電話をすると、妻はすぐ出た。

「どうしたの?」

どう説明すればいいのか分からない。

散歩していたら、警察に止められた。

身分証がない。

本人確認で来てほしい。

言葉にすると、かなり終わっている。

少し離れたところから、妻が歩いてくるのが見えた。

助かった。

そう思うより先に、申し訳なさが来た。

夜道で警察に止められ、本人確認で妻を呼ぶ。

我ながら、なかなか仕上がっている。

妻が来て、本人確認が済んだ。

警察官は丁寧だった。

別に怒られたわけでもない。

疑いが晴れて、ようやく帰れた。

財布くらい持って出てよ

帰り道の空気は重かった。

妻は大きく責めなかった。

それが余計にこたえる。

「財布くらい持って出てよ」

たしか、そんなことを言われた。

もっともである。

その通りである。

反論の余地がない。

大病をしてから、妻には何度も助けてもらっている。

生活でも。

気持ちの面でも。

そして今度は、職務質問の本人確認である。

ますます頭が上がらない。

散歩に出たはずだった。

でも結局、求人サイトの外でも、ボクは自分の現在地を聞かれていた。

仕事は。

身分証は。

今、何をしているのか。

どれも、胸を張って答えられなかった。

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