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【酔いどれ労働観察記】真面目は、会社に出すと無料になる

夜中に、スマホでこの記事を書いている。

明日も仕事なのに、ではない。

明日も妻は仕事なのに、である。

この一文字の違いが、今の私には少し重い。

昔の私は、真面目だった。

いや、真面目の使い方を間違えていた。

会社には30分前に着いて、メールをチェックしてた。

急ぎの仕事を頼まれれば、断らなかった。

「これ、今日中にお願いできる?」

その一言に弱かった。

今日中にお願いできる人間になることが、社会人として正しいと思っていた。

結果、どうなったか。

今日中にお願いされる人間になった。

出世ではない。

信頼でもない。

便利だった。

残業しても、評価されるより先に、「あの人は残れる人」という札を首から下げられた。

断らないでいたら、いつの間にか、断らない係になっていた。

あの頃の私は、「助かるよ」を給料日前の小銭みたいに握っている、かなり安い男だった。

会社という場所は不思議だ。

一度「できます」と言うと、次から「できますよね」に変わる。

何度かこなすと、最後は「やって当然です」になる。

この変化の速さだけは、どこの会社もDXが進んでいる。

私はその頃、まだ知らなかった。

真面目というのは、出す場所を間違えると無料サービスになる。

お通しみたいに勝手に出て、しかも代金は取れない。

居酒屋なら、勝手に出した小鉢で五百円くらい請求できるのに。

私の真面目は、会計に載らなかった。

「助かるよ」

「さすがだね」

「お願いしてよかった」

その三つで、だいたい支払いが済まされた。

便利な通貨である。

会社にとっては。

会社は、私の真面目さを盗んだわけではない。

私が、真面目さに値札をつけていなかった。

無料で置いてあるものは、だいたい雑に扱われる。

スーパーの試食ですら、爪楊枝に刺して出てくるのに。

私の真面目は、むき出しだった。

「どうぞ、好きなだけ持っていってください」

そう書いた札を、自分で首から下げていた。

そりゃ持っていかれる。

それである日、私は真面目をやめた。

……と言いたいところだが、そんなに器用な人間ではない。

真面目は、急に捨てられない。

だから私は、真面目の置き場所を変えようとした。

会社ではなく、自分へ。

上司ではなく、生活へ。

残業ではなく、再起へ。

……などと、少し立派なことを考えた。

だが、問題はそこからである。

私は昔から、置き場所を変えるのが下手だった。

部屋の片づけでも、人生でも、だいたい同じものを別の場所に積む。

会社に出していた真面目を、今度はnoteや再起に、また無料で差し出していないか。

「頑張ってます」

「ちゃんとやってます」

「見てください」

名前を変えただけで、また同じ小鉢を勝手に出しているんじゃないか。

私は今も、人生のカウンターに小鉢を無料で並べているのかもしれない。

しかも、たまに自分で食べている。

一番たちが悪い。

真面目は、会社に出すと無料になる。

そして酔いどれは、無料になった真面目を、今度はnoteに持ち込もうとしている。

懲りない男である。

夜中のスマホ画面に、また自分で小鉢を並べている。

五百円にもならない小鉢を。

布団の中で、親指だけがやけに真面目に動いている。

しかも、少し味見して、「まあまあ書けたな」と思っている。

その顔が、また腹立たしい。

明日の朝も、妻は仕事に行く。

洗面所の音がして。

玄関の鍵が鳴って。

そのあと、少しだけ家が静かになる。

私はたぶん、その音を布団の中で聞いている。

起き上がるわけでもなく。

働きに行くわけでもなく。

ただ真面目な顔だけしている。

真面目な顔だけは、昔から無料で出せる。

最後まで読んでくれてありがとうございます!

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