あの人の顔を思い出せなくなるとき_「正欲」/朝井リョウ
よく見慣れたあの人の顔を、急に思い出せなくなるような、そんな作品を見た。
「正欲/朝井リョウ」
ふつうって、なんだろう…。
物語のテーマは、マイノリティとして生きていくことの困難。
一般的に特殊な性的嗜好をもつ主人公たちの、孤独と葛藤がリアルに描かれている。
一見まったく関係のない人々の人生が交差していく中で、「ふつう」という言葉の輪郭が、少しずつ崩れていく。
私は「ふつう」なのだろうか。
あなたは、「ふつう」ですか?
夏月と佳道は高校のクラスメートだった。
ある事件をきっかけに2人は、
お互いが同じ、水に性的興奮を覚えるフェチシズムを持つことを知る。
大学生の大也も、夏月と佳道と同じ嗜好をもつ。
ミスターコンテストで準グランプリのイケメンゆえに、性の対象でない異性に好意を持たれ、嫌悪感を抱く。
自分でも自分が気持ち悪い。
でも自分は自分でしかない。逃げられない。
だから、誰にも心を開くことができない。
異質な人間だとバレてしまいそうで。
少しの振動で爆ぜる爆弾を抱えているような生活。
そんな中で、
大也は、自分にひたすらに寄り添おうとする人物に出会い、
夏月と佳道は、お互いを社会から隠すようにともに生きることを決めるのだが_。
良し悪しを決めるのは、いつだって社会で、
そしてそれは、いつも後付けだ。
いつだって、気持ちが先にあるのだから。
泉のように湧き上がる感情は、
そのこと自体は、誰にも咎めることができないはずだ。
それなのに、社会はその人の抱く感情や嗜好に良し悪しを決める。
何の権利があって?どんな基準で?
ふつうって、なんだろう…。
見慣れたはずのあの人の顔。
その輪郭が、ゆっくりと崩れていく。
私は、彼を、彼女を、
きっと、本当には知らない。
「多様性」という言葉が取りこぼす、どうしようもなく異質で、かけがえのない"個"
かわいそうだと大事に掬われて、
それでも指の間からこぼれる砂のような、孤独な人たち。
それらをそっと拾い上げて、マジョリティの傲慢な面の前に差し出してやりたい。
この物語のテーマは、マイノリティとして生きていくことの困難。
そしてきっと、「繋がり」という微かな希望。
この物語の余白部分に、少しの希望を見出すのは、私たち一人一人の心だ。
読書をはじめ、何か作品に触れた時の
余韻を言葉にするnoteを書いています。
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