落語の設定はどうやって思い付くのか?(特殊な今井の場合編)
初対面の人に必ず聞かれること
僕は一応、「落語作家」と名乗って活動をしておりますので、「落語作家」と書かれた名刺を持っております。実は、本当の意味での落語作家って日本に一人も存在していないのですが、その話は長くなるのでまた別の機会にしますね。
で、落語作家という名刺を渡すと必ず聞かれることがあります。
それは
「落語ってどうやって書いてるんですか?」
という質問です。
元々仲がいい人なら、「ボールペンを右手に持って書いてます」とかボケ気味に言えるんですが、名刺交換をする人は基本的に初対面の人なので、そうもいきません。でも、一から説明するとめちゃくちゃ長くなるし、絶対に途中で「はぁ? 意味分からん・・・」となるのが目に見えていますので、いつも困っています。ということで、noteに書いておいて、「後で見といてください」というためにここに書くことにしました。
とはいえ、「設定を考える」のと「実際に書く」のはちょっと別の作業ですので、二回に分けさせていただきます。ということで今回は「アイデア編」となります。ちなみに、あくまでも「今井のやり方」ですので、「俺のやり方と違う!」「再現性がない!」とか怒らないでくださいね。
落語の設定はどうやって思いつくのか?
さて、落語を書くには設定を考えないといけません。登場人物、時代、場所、舞台、シチュエーションなど、色んなことを決めないといけませんが、「今回は老人と孫の話にしよう」みたいに登場人物から考えることはほぼありません。もちろん、落語家さんなどから、「父と娘の話を」みたいに依頼された場合は登場人物から考えていきますが、それ以外は基本的に「シチュエーション」からになります。で、またややこしいのが「シチュエーション」という言葉の定義が割と広いので伝わりにくいのですが、ここでいう「シチュエーション」は、「病院の話」とか「結婚式の話」とか「高校の部活の話」みたいな「◯◯が舞台の話」みたいなイメージです。
ただこれも、「病院の話」という場所や舞台だけを思いつくのではなく、「変なお医者さんが出てくる病院の落語を書いてみよう」みたいな感じで、人と場所とをセットで思いつく感じです。じゃあ、その「変なお医者さん」はどうやって思いつくのか?ということですが、実は僕自身は全く思いついていません。すべて人から聞いた話を参考にしています。
誰から聞いた話が落語の設定になるのか?
ここからが本題です。
「誰から聞いた話が落語の設定になるのか?」ですが、それは「酔っ払いから」です。
つまり、「落語の設定はどうやって思いつくのか?」の答えは「酔っ払いの話から」ということになります。
実はこの話は様々な場所でお話ししているので、僕のことを知っている方は皆さんご存知だと思います。ではここからは、どうやって酔っ払いの話が落語の設定になるのか?ということを説明します。
グズグズの居酒屋にて
僕はグズグズの居酒屋が好きで、よく行きます。ここでいうグズグズとは、「だらしない」「どうしようもない」のような意味ではなく、「決して紳士ではないが、愛すべき店主や客がいる」みたいなイメージです。いわゆる下町の場末感漂う居酒屋が好きで、知らない駅で降りて、知らない店に日々突入しています。そして、そこで交わされた会話が落語の設定を考える際のヒントになっています。
例えば、前述の「変なお医者さんが出てくる落語」の場合は、甲子園口駅の居酒屋で酔っぱらいから聞いた話がヒントになっています。そこの居酒屋さんで、たまたま隣り合わせた人と話をしていました。するとその人が、「俺の通っている医者が健康で、風邪もひいたことがないらしい。でも、風邪をひいたことがない奴に、風邪の症状のことを言うても意味が分からんのとちゃうんか!?」と憤慨していました。その時は「たしかにそうですね」と聞き流していたのですが、後日、「病気一つしたことがない医者が、患者さんの気持ちを知るためにわざと風邪をひこうとする話」は落語になりそう、と思い、追加の細かい設定を考え、実際に台本として書きました。
また別の時の話ですが、岸辺駅の居酒屋で飲んでいる時に、ビールや酎ハイなどのお酒が次々と品切れになり、最後は飲むお酒がなくなってしまうということがありました。店にいた客は店主に「ちゃんと仕入れとけよ!」とツッコミを入れていたのですが、店主は「隣の駅で明日からバルイベントがあるので、全ての酒が買い占められていた」と言い訳をしていました。たしかに大規模なバルイベントがあれば大量のお酒が必要でしょうが、隣の駅の店の分まで買い占められるということはないと思います。他のお客さんも「苦しい言い訳やな!」とかツッコんでいました。
これも後日、落語の設定となりました。「千住酒合戦」という江戸時代に千住(今の東京都足立区)で開催された大酒飲み大会を落語にして欲しいという依頼をいただいたのですが、当時の文人達が様々な書物にその日のことを残しており、完全にフィクションで作るのは難しい感じでした。とはいえ、書物に残っていることをそのまま台本にしても、あまり意味がないし、面白くないと思って、困っていたところ、岸辺駅の居酒屋での出来事を思い出したのです。
「千住の隣町を舞台に、千住酒合戦のせいで酒を買い占められて困っている旅館の話にしよう!」
このアイデアが出てからは割とすいすいと台本を書くことができました。また、最後に酒合戦の会場に行って、そこに史実に残っている場面を入れたらリアリティも出るということに気付き、落語の後半は「隣町の旅館に泊まっていた主人公が千住酒合戦の現場に乗り込む」という形にしたことで、史実も伝えることができ、いい感じに仕上がりました。
今回の結論
こんな感じで、僕は酔っ払いの話を元に、設定を考えて落語を書いております。これまでに落語台本を150作くらい書いていますが、おそらく七割以上が酔っ払いの話がベースのものです。
ということで、改めて、落語の書き方(アイデア編)の「落語の設定はどうやって思いつくのか?」の答えは「酔っ払いの話から」ということです。今後、初対面の人に「どうやって落語を書いているんですか?」と聞かれたら、「まずは、酔っ払いを探します。この続きはnoteで読んでください。」と答えることにしますので、よろしくお願いいたします。
次回は実際にどうやって書いていくか?の話になります。ただこれは他に人が聞いても全く参考にならないやり方ですので、そこはご了承ください。
