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2つの旋法性?:MIDIデータを入力とした分析続報(2):全音階・五音音階・全音音階を巡って(2023)(下)


(承前)

4.分析結果

(A)マーラーの交響曲間の比較

マーラーの交響曲の主成分分析の結果

マーラーの交響曲間の比較を第1主成分を横軸、第2主成分を縦軸とした上記のプロットで確認すると、第3象限(左下)方向のベクトルとして長三和音基本形(maj)、それに対して逆方向の第2象限(右上)方向のベクトルとして全音音階の構成音からなる和音(ganz, ganz-1, ganz-2)が確認でき、それらと直交する第4象限(右下)方向に属和音・五音音階構成音の和音(付加六を含む)のベクトルが確認できます。そして大まかには時代区分に沿う形で、第2象限の第1交響曲から反時計回りに、主として第2象限に第2~第5、第7交響曲、第3象限に第6、第8交響曲、第1象限に「大地の歌」と第9、第10交響曲が位置していて、特に横軸に近い軸に沿って、概ね年代順に作品が並ぶ傾向が確認できます。そしてそれは以下の第1主成分得点が示す傾向でもあります。

第1主成分

第1主成分得点
第1主成分の因子負荷量

 第1主成分は大まかには年代別の傾向を示す成分で、後期に行くほど点数が高くなる傾向にあります。初期には長三和音基本形と46の和音、短三和音が優位であったのが、時代とともにそれ以外の七の和音、九の和音、五音音階的な要素、全音音階的な要素が優位になっていく傾向が抽出されたものと言えます。ただし後に見るように、それぞれの傾向がどこから強まるかについては違いがあり、五音音階的傾向は第6交響曲以降、全音音階的傾向は「大地の歌」以降の後期作品で強くなっており、そのずれによって各時期の特徴が区別できるように思われます。

第2主成分

第2主成分得点
第2主成分の因子負荷量

第2主成分については、全音音階的傾向が強いものの得点が高くなるという特徴を持っています。第1交響曲が例外ですが、それ以外については、第8交響曲までが中立か非全音音階的、「大地の歌」以降の後期作品は全音音階的傾向が強くなっていることが読み取れます。第1交響曲の得点が高いのは、最初に掲げたbiplotグラフから判断する限り、後期3作品が全音音階的要素が強い傾向にあるのとは違って、寧ろ第6交響曲や第8交響曲を特徴づける五音音階的要素が極度に弱い点に起因すると考えるべきだと思われます。 

 実際、元データを確認してみても、第1交響曲は全音音階的和音3種(ganz, ganz-1, ganz-2)合計で100拍につき0.7であり、これは第3,4交響曲とほぼ同じなのに対して、第6交響曲以降の作品では100拍につき1回を超える頻度です。逆に五音音階系2種(add6, penta)の頻度について見ると、第1交響曲は2種合計で100拍につき3回を切る唯一の作品で、全交響曲中最低です。逆に第6交響曲以降の後期作品では100拍につき5回を超える頻度となっており、前回までの付加六のみを対象とした分析結果でも確認できた、後期にいくに従って五音音階系の特徴(これを前回の分析では「旋法性」と呼んだのでした)が強まっていく傾向は、本分析でも確認できます。

(B)マーラーと他の作曲家の作品間の比較

マーラーおよび他の作曲家の作品の主成分分析結果

 マーラーと他の作曲家との比較においては、従来の分析と同様、マーラーの作品は非常にコヒーレンスが高く、特徴が鮮明で一貫している一方で、作曲年代による違いもあって、年代を経ることによる傾向の推移が比較的明確に読み取れる特徴がここでも確認できます。上記のプロットでは中心より下側の中央から右側にかけて、左右に初期・中期・後期と並んでおり、本分析の結果上は、時代を経るに従い推移する特徴は横軸の第1主成分軸に、マーラー作品全体に一貫した特徴は縦軸の第2主成分に現われていると見ることができそうです。ブラームスは中心から見た場合、マーラーの概ね反対側に固まっているのに対し、ブルックナーやドヴォルザークは両者をつなぐ中間的傾向があると言えそうです。ラヴェルは第2主成分軸方向には一貫していますが、第1主成分方向には作品による違いが大きく、大きく2つのグループに分かれることが読み取れます。しかしながら極端なのはシベリウスであり、作品間のばらつきが非常に大きく、左下から右上にかけて幅広く分布していることがわかります(ちなみにこの傾向は前回の分析でも確認できた特徴です)。

第1主成分

マーラーと他の作曲家の作品の第1主成分得点
第1主成分の因子負荷量

 第1主成分は属九と五音音階系、全音音階系が優位だと得点が高い傾向にあります。前回の分析では属七と属九を一緒にして計算しましたが、今回の分析で見る限りは、属九は寧ろ九の和音としての五音音階系、全音音階系との共通性の方が優っていて、その分布は寧ろ五音音階系や全音音階系の要素に近い傾向があるように見えます。第1主成分が高いグループと低いグループは作曲家毎にはっきり分かれていて、マーラーはラヴェルやシベリウスとともに高いグループ、他の作曲家は低いグループに分かれるようです。但し例外があって、アドルノが「超長調」について語る際に言及したブルックナーの第9交響曲は高いグループに、シベリウスの中でも作曲時期が早い第2交響曲は低いグループに属していることが確認できます。

第2主成分

マーラーと他の作曲家の作品の第2主成分得点
第2主成分の因子負荷量

 第2主成分については五音音階系の要素の強弱が主として影響していることが負荷から確認できます。こちらも第1主成分同様、作曲家毎の傾向は明確で、マーラーはラヴェル、タクタキシヴィリと並んで点数が低いグループに属します。マーラーについては第1主成分とは異なって、時期毎に異なる傾向を示すのではなく、全般に点数が低いことが見てとれます。主成分得点が高いグループの中でもシベリウスの「タピオラ」の得点が突出していますが、これについては第1主成分と組み合わせてみると、同じく主成分得点の高いグループの他の作品とは得点の高さの理由が違うことがわかります。本分析結果を確認後、調べてわかったことなのですが、実は「タピオラ」は全音音階を用いた作品として知られているようで、実際に出現頻度を確認してみたところでも、全音音階的な要素が非常に高頻度に現われているのに対し、同じグループの他のメンバーは五音音階的でない(つまり付加六および五音音階の構成音全てと含む和音の頻度が低い)点では共通していても、寧ろ全音階的な要素が強い結果として主成分得点が高くなっている傾向が読み取れるように思います。

 なおラヴェルの「ダフニスとクロエ」や「優雅で感傷的な円舞曲」も全音音階系の和音の出現頻度が有意に高く、マーラーの第6交響曲以降においてganz, ganz-1, ganz-2の全音音階系和音3種合計で100拍につき1回を超える以外には1を超える作曲家・作品は他にありませんが、「ダフニスとクロエ」は4.5回、「優雅で感傷的な円舞曲」は3.5回となっています。それに対してシベリウスの「タピオラ」は3つ合わせると100拍につき10回強、しかもマーラーの後期の一部作品とラヴェルの「ダフニスとクロエ」以外では出現しない全音音階の構成音を全て含む和音(ganz)の出現頻度が100拍あたり2.5回で、この和音が出現する他の作品に比べても2桁多い結果となっており突出していることが元データから確認できます。ちなみにシベリウスの他の作品について見ると、第2交響曲は全音音階系3種合計で100拍につき0.2程度で頻度が低いグループに属しているのに対し、第7交響曲は1弱でブルックナーの第9交響曲と並んで全音音階系和音の出現頻度については中間的なグループを構成していて、作品間で特徴がまちまちの傾向があるようです。

5.まとめ

本分析の主たる着眼点であった、全音階・五音音階・全音音階の各要素の強さにより、マーラーの交響曲間の分類、マーラーと他の作曲家の作品間での分類は概ね以下の通りとなっていることが分析結果から読み取れるように思われます。なお、以下の+/-はあくまでも比較対象内の相対的な傾向を示すものであり、主成分分析結果のプロットの各象限を特徴づけるために恣意的に単純化した面があることは否定できません。(注記:全音階性は他の作曲家と比較した場合には寧ろマーラーを特徴づけるものですし、特に第6交響曲、第8交響曲については主和音形の出現頻度が下がっているわけではなく、全音階性を"-"とするのは明らかにミスリーディングでラベルとしては適切ではありませんでした。より適切なラベルに修正すべきかも知れませんが、適当なものが思い浮かばず、マーラーと他の作曲家の作品間の分類と併せ、属九和音優位というのを、飽くまでも今回の結果を要約するための便宜的なものとして採用して修正することとします。この点については、本稿をお読み頂いた方からご指摘をうけて再検討した結果、注記と訂正に至りました。この場を借りて、ご指摘に感謝いたします。)

(A)マーラーの交響曲内の分類

  •  第2象限(三和音+/五音音階-/全音音階-):第1交響曲

  • 第3象限(三和音+/五音音階+/全音音階ー):第2~5,7交響曲

  • 第4象限(属九+/五音音階+/全音音階ー):第6,8交響曲

  • 第1象限(全音階-/五音音階+/全音音階+):『大地の歌』、第9,10交響曲

(B)マーラーと他の作曲家の作品間の分類

 第1主成分

  • 属九・五音音階構成音・全音音階構成音優位:シベリウスの第7交響曲およびタピオラ、ラヴェル、後期マーラー、ブルックナーの第9交響曲 

  • 三和音・属七優位:ブラームスなど上記以外の作曲家・作品、シベリウスの第2交響曲、初期マーラー

第2主成分

  • 五音音階+:マーラー、ラヴェル、タクタキシヴィリのピアノ協奏曲第1番

  • 五音音階ー/全音音階+:シベリウスのタピオラ

  • 五音音階-/全音階+:上記以外の作曲家・作品、シベリウス第2,7交響曲

(2023.5.21公開、5.22更新、2025.8.27 編集の上、noteにて公開。)

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