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蒼い翼 青い羽根 第7話 [最終話]


家に帰った私は、安心したのか立っていることすら難しい程の、激しい睡魔に襲われて、すぐさまベットに倒れ込むと、泥のように眠った。


たぶん帰宅したのは、午前10時頃だ。

そこから眠って、目が覚めた時には、外は暗くなっていた。


空腹に見舞われた私は、キッチンへ行った。

テーブルにメモ書きが置いてある。
それは母からだった。


[よく寝ていたので、起こさなかったの。
夕食は冷蔵庫の中にあります。

先に休むわね。
それと、お父さんは帰って来てます。 おやすみ]


「おやすみ?」

私は時計を見て驚いた。
もう直ぐ日付けが変わる時刻だ。


「わたし、14時間寝てたの?
過去最高だわ」

冷蔵庫から、ラップのかかったお皿を出すと、レンジで温めた。

寝汗をたくさんかいたのか、お水をいくらでも飲める。

温めた、お皿のラップを外すと、熱い湯気が立ち上った。

あちち


「オムライスだ。お母さんのオムライスは、美味しいのよね」

私はもう1度、冷蔵庫を開けた。
「やっぱりあった。ポテトサラダだ。毎回オムライスとセットになってる」


「それでは、いただきます」

スプーンで口に運ぶ。うん、オムライスは、やっぱり美味しい。
チキンライスの鶏肉が、いつもより、多く入っている。

「私が鶏肉が大好きだから、たくさん入れてくれたのね。
ありがとう。お母さん」

ポテトサラダもいつもの味だ。
お酢を少し入れるのが、母の味である。

好きだなぁ。ポテトサラダ。


「ご馳走様でした。さて洗ってしまおう」

片付け終えると私は自分の部屋に戻った。

直ぐさまスマホを開く。

仁からメールが来ていた。
読んでいて、私は以外だなと思った。


(翡翠、お疲れ様。
アパートに戻ったけど、莉子の来た様子はなかった。
俺たちが部屋を出た時のままだった)


「仁ならまだ、起きてるかもしれない」

そう思った私は電話かけた。


「はい、もしもし俺だよ」

「お疲れさま。今メールを読んだところ。以外だね」

「莉子だろ。俺もそう思った。来た様子が無くて、安心するやら、驚くやらだった。
翡翠のところには、莉子から何か届いてる?」

「ううん。何も来てない。
なんだろうね。嵐の時の静けさだったら、怖いな」

「まあね。大丈夫だと思うけど。いま俺からのメールを読んだってことは、さてはかなり寝たな」

「14時間寝たみたい」

「14時間!俺も中高の時は、それくらい寝たことも結構あったけど。翡翠、凄いな。
寝るのって体力が要るんだよ」

「そうなんだ。じゃあ私は若いってことね。やっぱりそうだったか」

仁と笑いながら雑談をして、
お互い寝ることにした。


「とにかく翡翠は、余り莉子のことを怖がらないこと。
分かった?」

「うん。分かったよ。おやすみなさい」

「おやすみ翡翠」


電話を切ると、日付けが変わっていた。




翌日の夕方、私は大学にいた。
昨日の電話で仁と会うことにしたのだった。

そして莉子にも来れたら来て欲しいと仁から、連絡すると云っていた。


来るだろうか。莉子は。


ベンチに座り、仁の講義が終わるのを待つことにした。



「お元気そうで、何より」


不意に背後から声がした。
紛れもなく彼女だ。


私が振り向くと、そこには莉子が立っていた。


「隣り、座ってもいいかしら」


「どうぞ」

私と莉子は並んで座ることになった。
気持ちのいいものじゃ無い。


「昨日は私が行くと思ったでしょう」


「なんにも考えてなかったわ」

莉子はニヤニヤしている。

「そうやって、嘘をつくのよね、翡翠は。嫌ねぇ」

私は口を訊かなかった。


「2人とも私がアパートに来ると思って、かなり焦ったはずよ。下手な嘘つくんじゃないわよ」


「……莉子」


「何よ」

「莉子は楽しい?本当に喜べてる?」

「楽しいに決まってるじゃない。大嫌いな翡翠が不幸になるのを、私は見られるんだもの。当たり前のこと訊かないで」


「それで莉子は幸せになれるんだ。良かったじゃない」


莉子の顔が変わった。

眉間に皺を寄せ、目が吊り上がる。


「これ以上わたしを馬鹿にしたら、本当に赦さないわよ」



「俺が来るまで待っててよ」

仁が真剣な表情で、やって来た。

「どこかいい場所はないかな。ここだと目立つだろうから」


「目立つっていいことだわ」


「莉子。今日は真面目に話そう」

「いつも真面目よ、私は」


桜の花びらが宙を舞う。

地面に落ちた花びらたちが、風で、くるくる回っている。

同じ場所で。

渦を巻いて。

そしてバラバラになる。



「翡翠さん、なにを考えてるのかしら。話しをしなさいよ」

「なんの進歩もないし」

「え?なに?」

「何一つ、成長もしていない」


「それが私だって云いたいの?」


私は莉子を見た。

「そう」


莉子は、ベンチから立ちあがり、般若のような形相になった。

「失礼なこと云うのね。さすがは意地悪でズルい翡翠だわ」


「莉子、落ち着けよ。大声を出すと、昨日みたいなことになるぞ」


仁の言葉など、莉子は耳に入ってはいない。


そして、いきなり私の服を首元で強く握り、言い放った。

「私がどれだけ寂しかったか、アンタに分かる?ねえ、
分かるの!」


私は莉子の手を振り払い、

「だからって、私のせいだって云いたいの莉子は。そんなの、おかしいわよ。私はただ生まれてきただけよ。なんで、アナタに憎まれる必要があるのよ」


「うるさいっ!人の気持ちも分からないなんて、冷酷なのね」


「落ち着けって云ってるだろう。翡翠もだよ」


私は仁に云った。

「ごめん。だけど今日は云いたい。そのつもりだった」

「翡翠……」


「莉子、アナタは中学の時に、こう云ったわ。
『その人が、何を云われたら、1番嫌なのかが、私には分かるのよ』って。それも
得意そうに」


「だから何よ。その通りなんだもの」


「それを訊いた時、私は背筋が寒くなった。そんなことを云うアナタが、私に『人の気持ちも分からない冷酷な人』だなんて、よく云えるわね。アナタみたいな分かり方なら、私は要らない」


「2人とも、一旦、座ろう。
気が高ぶって話しても、いいことなんか、ないぞ」


私は自分の息が、乱れていることに気が付いた。

「ありがとう仁。座ることにする」


莉子は座らずに荒い呼吸をして立っている。


暫く、3人とも何も話さなかった。
見ると仁の髪に、桜の花びらが付いている。

それを見た私は、体中の強張りが、フッと緩んだ。

「なんで、笑ってるんだ」

仁が、不思議そうに訊いて来たが、私は教えなかった。


「莉子」

「……」

「莉子の気持ちの中は、貴女を生んだ、お母さんのことで、いっぱいなんだね」

「なに云ってんの。バカじゃない」


「お母さんに感じる莉子の気持ちは、きっと複雑なんだろうね。寂しさ、悲しみだけなんかではなく。自分を置いていったことへの、不満や
疑念の思いも、あるかもしれない。私が莉子なら、そう思う」


「うるさい」


「莉子が自分の気持ちを、ぶつけたかったのは、お母さんになんでしょう」

「黙りなさい!黙れ……」


莉子は泣いていた。

私と仁に、泣き顔を見せたくないのだろう。
後ろを向いてしまった。


小さな竜巻の中にいた、花びらは上昇し、勢いよく跳ぶと、それぞれの場所に落ち着いた。


仁もベンチから立つと、莉子の傍に行き、
「莉子が本当に好きな人と出会えること、俺は信じてるからな」

そう言葉をかけた。


私も莉子に近づくと、
「これ、莉子に」

莉子は私の掌を見ている。


「幸せを呼ぶ青い羽根だよ。宝物だったけど、あげる。
きっと幸せを、運んでくるから」


莉子は、そっと羽根の入った、小さな透明な入れ物を、
指で摘み上げた。


「謝らないからね私」


「いいよ。私も赦さないから」


「翡翠に謝ることなんか、してないもの」


「莉子の思うままにどうぞ」


「それから仁、あなたより、数百倍、素敵な人と、私は付き合うからね」


仁は、頷いた。
「出会えるさ」


「2人で勝手に付き合えばいいでしょう。私は降りるわ。
くだらない。じゃあね」


莉子は歩いて行った。
が、いきなり私を見て、

「翡翠、私は仁としてないからね」

えっ


仁を見てしまった。

「翡翠、何も云わなくていい。どうせ赤人間になってるのは、知ってるから」


「私の方から辞退させて頂きました。私はバージンじゃないけど、翡翠はそうだよね」


「莉子、余計なこと」


「それから私は、就職しませ〜ん。暫く遊んで暮らすの。バイビー!あはははは」


「……」

「……」


「さてと。帰りますか」

「そうしましょうか」

「因みに、どちらへ帰ります?」


「駅から徒歩30秒のスーパーがある街に」


仁と私はハグをした。
強く 強く 抱きしめ合った。

もちろん長いキスもして。


お互いの目を見つめ、額と額を、くっつけると、微笑んだ。


「翡翠さん、行きます?」

「仁さん、そうしましょう」

手を握り締めて歩く。

お母さんになんて云おう。
頭の中を占めるのは、
それが1番だった。



      了


















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