蒼い翼 青い羽根 第7話 [最終話] 17 紗希 2024年7月16日 04:12 家に帰った私は、安心したのか立っていることすら難しい程の、激しい睡魔に襲われて、すぐさまベットに倒れ込むと、泥のように眠った。たぶん帰宅したのは、午前10時頃だ。そこから眠って、目が覚めた時には、外は暗くなっていた。空腹に見舞われた私は、キッチンへ行った。テーブルにメモ書きが置いてある。それは母からだった。[よく寝ていたので、起こさなかったの。夕食は冷蔵庫の中にあります。先に休むわね。それと、お父さんは帰って来てます。 おやすみ]「おやすみ?」私は時計を見て驚いた。もう直ぐ日付けが変わる時刻だ。「わたし、14時間寝てたの?過去最高だわ」冷蔵庫から、ラップのかかったお皿を出すと、レンジで温めた。寝汗をたくさんかいたのか、お水をいくらでも飲める。温めた、お皿のラップを外すと、熱い湯気が立ち上った。あちち「オムライスだ。お母さんのオムライスは、美味しいのよね」私はもう1度、冷蔵庫を開けた。「やっぱりあった。ポテトサラダだ。毎回オムライスとセットになってる」「それでは、いただきます」スプーンで口に運ぶ。うん、オムライスは、やっぱり美味しい。チキンライスの鶏肉が、いつもより、多く入っている。「私が鶏肉が大好きだから、たくさん入れてくれたのね。ありがとう。お母さん」ポテトサラダもいつもの味だ。お酢を少し入れるのが、母の味である。好きだなぁ。ポテトサラダ。「ご馳走様でした。さて洗ってしまおう」片付け終えると私は自分の部屋に戻った。直ぐさまスマホを開く。仁からメールが来ていた。読んでいて、私は以外だなと思った。(翡翠、お疲れ様。アパートに戻ったけど、莉子の来た様子はなかった。俺たちが部屋を出た時のままだった)「仁ならまだ、起きてるかもしれない」そう思った私は電話かけた。「はい、もしもし俺だよ」「お疲れさま。今メールを読んだところ。以外だね」「莉子だろ。俺もそう思った。来た様子が無くて、安心するやら、驚くやらだった。翡翠のところには、莉子から何か届いてる?」「ううん。何も来てない。なんだろうね。嵐の時の静けさだったら、怖いな」「まあね。大丈夫だと思うけど。いま俺からのメールを読んだってことは、さてはかなり寝たな」「14時間寝たみたい」「14時間!俺も中高の時は、それくらい寝たことも結構あったけど。翡翠、凄いな。寝るのって体力が要るんだよ」「そうなんだ。じゃあ私は若いってことね。やっぱりそうだったか」仁と笑いながら雑談をして、お互い寝ることにした。「とにかく翡翠は、余り莉子のことを怖がらないこと。分かった?」「うん。分かったよ。おやすみなさい」「おやすみ翡翠」電話を切ると、日付けが変わっていた。翌日の夕方、私は大学にいた。昨日の電話で仁と会うことにしたのだった。そして莉子にも来れたら来て欲しいと仁から、連絡すると云っていた。来るだろうか。莉子は。ベンチに座り、仁の講義が終わるのを待つことにした。「お元気そうで、何より」不意に背後から声がした。紛れもなく彼女だ。私が振り向くと、そこには莉子が立っていた。「隣り、座ってもいいかしら」「どうぞ」私と莉子は並んで座ることになった。気持ちのいいものじゃ無い。「昨日は私が行くと思ったでしょう」「なんにも考えてなかったわ」莉子はニヤニヤしている。「そうやって、嘘をつくのよね、翡翠は。嫌ねぇ」私は口を訊かなかった。「2人とも私がアパートに来ると思って、かなり焦ったはずよ。下手な嘘つくんじゃないわよ」「……莉子」「何よ」「莉子は楽しい?本当に喜べてる?」「楽しいに決まってるじゃない。大嫌いな翡翠が不幸になるのを、私は見られるんだもの。当たり前のこと訊かないで」「それで莉子は幸せになれるんだ。良かったじゃない」莉子の顔が変わった。眉間に皺を寄せ、目が吊り上がる。「これ以上わたしを馬鹿にしたら、本当に赦さないわよ」「俺が来るまで待っててよ」仁が真剣な表情で、やって来た。「どこかいい場所はないかな。ここだと目立つだろうから」「目立つっていいことだわ」「莉子。今日は真面目に話そう」「いつも真面目よ、私は」桜の花びらが宙を舞う。地面に落ちた花びらたちが、風で、くるくる回っている。同じ場所で。渦を巻いて。そしてバラバラになる。「翡翠さん、なにを考えてるのかしら。話しをしなさいよ」「なんの進歩もないし」「え?なに?」「何一つ、成長もしていない」「それが私だって云いたいの?」私は莉子を見た。「そう」莉子は、ベンチから立ちあがり、般若のような形相になった。「失礼なこと云うのね。さすがは意地悪でズルい翡翠だわ」「莉子、落ち着けよ。大声を出すと、昨日みたいなことになるぞ」仁の言葉など、莉子は耳に入ってはいない。そして、いきなり私の服を首元で強く握り、言い放った。「私がどれだけ寂しかったか、アンタに分かる?ねえ、分かるの!」私は莉子の手を振り払い、「だからって、私のせいだって云いたいの莉子は。そんなの、おかしいわよ。私はただ生まれてきただけよ。なんで、アナタに憎まれる必要があるのよ」「うるさいっ!人の気持ちも分からないなんて、冷酷なのね」「落ち着けって云ってるだろう。翡翠もだよ」私は仁に云った。「ごめん。だけど今日は云いたい。そのつもりだった」「翡翠……」「莉子、アナタは中学の時に、こう云ったわ。『その人が、何を云われたら、1番嫌なのかが、私には分かるのよ』って。それも得意そうに」「だから何よ。その通りなんだもの」「それを訊いた時、私は背筋が寒くなった。そんなことを云うアナタが、私に『人の気持ちも分からない冷酷な人』だなんて、よく云えるわね。アナタみたいな分かり方なら、私は要らない」「2人とも、一旦、座ろう。気が高ぶって話しても、いいことなんか、ないぞ」私は自分の息が、乱れていることに気が付いた。「ありがとう仁。座ることにする」莉子は座らずに荒い呼吸をして立っている。暫く、3人とも何も話さなかった。見ると仁の髪に、桜の花びらが付いている。それを見た私は、体中の強張りが、フッと緩んだ。「なんで、笑ってるんだ」仁が、不思議そうに訊いて来たが、私は教えなかった。「莉子」「……」「莉子の気持ちの中は、貴女を生んだ、お母さんのことで、いっぱいなんだね」「なに云ってんの。バカじゃない」「お母さんに感じる莉子の気持ちは、きっと複雑なんだろうね。寂しさ、悲しみだけなんかではなく。自分を置いていったことへの、不満や疑念の思いも、あるかもしれない。私が莉子なら、そう思う」「うるさい」「莉子が自分の気持ちを、ぶつけたかったのは、お母さんになんでしょう」「黙りなさい!黙れ……」莉子は泣いていた。私と仁に、泣き顔を見せたくないのだろう。後ろを向いてしまった。小さな竜巻の中にいた、花びらは上昇し、勢いよく跳ぶと、それぞれの場所に落ち着いた。仁もベンチから立つと、莉子の傍に行き、「莉子が本当に好きな人と出会えること、俺は信じてるからな」そう言葉をかけた。私も莉子に近づくと、「これ、莉子に」莉子は私の掌を見ている。「幸せを呼ぶ青い羽根だよ。宝物だったけど、あげる。きっと幸せを、運んでくるから」莉子は、そっと羽根の入った、小さな透明な入れ物を、指で摘み上げた。「謝らないからね私」「いいよ。私も赦さないから」「翡翠に謝ることなんか、してないもの」「莉子の思うままにどうぞ」「それから仁、あなたより、数百倍、素敵な人と、私は付き合うからね」仁は、頷いた。「出会えるさ」「2人で勝手に付き合えばいいでしょう。私は降りるわ。くだらない。じゃあね」莉子は歩いて行った。が、いきなり私を見て、「翡翠、私は仁としてないからね」えっ仁を見てしまった。「翡翠、何も云わなくていい。どうせ赤人間になってるのは、知ってるから」「私の方から辞退させて頂きました。私はバージンじゃないけど、翡翠はそうだよね」「莉子、余計なこと」「それから私は、就職しませ〜ん。暫く遊んで暮らすの。バイビー!あはははは」「……」「……」「さてと。帰りますか」「そうしましょうか」「因みに、どちらへ帰ります?」「駅から徒歩30秒のスーパーがある街に」仁と私はハグをした。強く 強く 抱きしめ合った。もちろん長いキスもして。お互いの目を見つめ、額と額を、くっつけると、微笑んだ。「翡翠さん、行きます?」「仁さん、そうしましょう」手を握り締めて歩く。お母さんになんて云おう。頭の中を占めるのは、それが1番だった。 了 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #創作大賞2024 #恋愛小説部門 17 11