天馬ノ循環
常春の空の下、無数の虹色の花々が咲き乱れる野々原に霞がかかると、凛と響きわたるいななきが聞こえてくる。
来る。彼らが来る。
私たち天使は靄の向こうから駆けてくるそれを迎えに集まる。
靄の向こうから、現れる乳白色の馬体に猛禽類の翼を持つそれ。天馬、ペガサスとも呼ばれるその背には、無垢なる魂が集っている。
「ようこそ、天使見習い達よ」
私達がその腕を差し伸ばすと、無垢なる魂は産まれたての天使になる。
──そう、いつもなら。
その日、無垢なる魂に向かって、腕を伸ばす私の翼を一頭の天馬が喰んだ。
「どうやら、お前が選ばれたようだ」
天使長だ。
「そなた、挑むがいい。転生の循環の、その先にゆく挑戦を」
天馬は雷を地上に運び、地上に散らばる無垢なる魂を天界に運ぶ。天界に迎え入れられた魂は天使となり、やがてその中から天馬が選ぶ。天馬へ転生する者を。
選ばれた者は、その天馬の仔として産まれ、使命を終えた天馬は人の子として産まれ変わる。
──その転生の循環のその先とは、どういうことなのだろう。
天使長にたずね返そうとするが、天馬は私の翼をはみ続け、バラバラと羽根が散らばっていき、私は、わたしは、わたしは……
暗くて狭く、窮屈だけど弾力のあるそこから、私は自由になった。
四肢で立ち、乳を飲み、私を産んだ天馬と共に人間界を駆け巡った。
そうして程なく知る。十まで生きられなかった子ども、あるいは産まれ出ることが叶わなかった子どもが無垢なる魂なのだと。
地上には、無垢なる魂として天界に迎え入れたくなるような魂がいくつもあり、その死を悼む人達がいるということを。
天馬として独り立ちし、何度か天地を行き来していると、それまで気も止めもしなかったことに気付かされた。
例えば、産まれたばかりの天使が、いっせいにに駆け出し、霞のその向こうへ消えてしまうことがあった。
あるいは、隣で花を愛でていた仲間がふいっと立ち上がり、笑いながら一陣の風に飛び乗り、いなくなったことがあった。
羽根を空に放たれた券のように散らしながら。
こうして天界から消えた天使達は、やがて草、花、風、昆虫、鳥などに産まれ変わって、地上に戻ることを知った。
──では、大天使は語った転生の循環の、その先にゆく挑戦の意味はなんであろう。
天馬、人の子、無垢なる魂、天使、天馬……
私は駆ける、いつか天馬としての使命が終わるまで。
私は駆ける、いいようのない感情を抱えながら。
そうして私は与える。無垢なる魂を悼む人達に、いいようのない感情が詰まったその羽根を。転生の循環を垣間見る券ともいえる羽根を。
私は天と地の狭間を駆け、その狭間を垣間見させることしかできない。
お題はこちらの「ペガサス挑戦券」から。
アンソロジー企画参加作品です。
(遅刻です)
