パリで財布を盗まれた私が、真っ先に向かった場所
むかしむかし、
フランス1人旅中のこと。
郊外の宿を拠点にしていた私は、
お土産を買おうと地下鉄で
パリの中心部へ出た。
シャンゼリゼ通りだったと思う。
当時はまだスマホなんて便利なものはない。
私は紙の地図を広げ、
パリ初心者丸出しで歩いていた。
そんな無防備極まりない様子で街をふらふらし、
買い物を終え、
さぁ支払いをしようと財布を探す。
ない。
あれ?
リュックの中をひっくり返すが、
ない。
どこをどう探しても財布がない。
よく見ると、
リュックの底がスパッと見事に切られていた。
ナイフか何かで切られたらしい。
財布だけがきれいに抜かれていた。
今思うとすごい職人技だ。
見事な手口に感心すらしてしまう。
やられた、、
もうお土産なんてどうでもいい。
問題は、
どうやって帰ればいいんだ。
何しろ、宿ははるかかなたの郊外である。
フランス語は全くできない。
宿に帰れば、スーツケースの中に
予備のクレジットカードがあるけれど、
手元のお金はゼロ。
半泣きで周囲を見渡す。
だーれーかぁぁ、たーすーけーてぇぇ
スマホも翻訳機もない時代。
頼れる術は何もなかった。
落ち着け、落ち着くんだ、
とにかく日本語が通じる人を探そう。
だが、こういう時に限って
周囲に日本人らしき人はいない。
どこだ、どこにいるんだ日本人。
その時、ひらめいた。
ルイ・ヴィトン!
シャンゼリゼのルイ・ヴィトンといえば、
当時の日本人観光客の聖地である。
あそこに行けば絶対いるはずだ、と
リュックを前に抱えて、小走りで店へ向かう。
予想は大的中。
日本人がわんさかいた。
私は人の良さそうな親子に涙目で事情を説明した。
するとその神様のような親子は
「まぁ、大変でしたね。これ、お返しは結構ですから」
と言って、私に地下鉄代を差し出してくれたのである。
と、意外にもあっさりと奇跡の生還を遂げたのだった。
とはいえ、異国の地で私は心の底から救われた。
あの時の親子さんには感謝の言葉しかない。
⸻
帰国後。
私はこの話を友人に鼻高々と語っていた。
「ルイ・ヴィトンを思いついた私、天才じゃない?」
すると友人がさらっと言った。
「タクシーで帰って、宿に着いてからクレジットカードで払えば良かったんじゃない?」
......
ルイ・ヴィトンまでは思いついたのに。
タクシーは思いつかなかった。
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