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日本人拉致──当事者が語る「構造」と「嘘」の記録を読む

ニュースでは何度も目にしてきた「拉致問題」。けれど、実際に拉致された当事者が語る本を読むのは、これが初めてでした。
蓮池薫さんによる『日本人拉致』(岩波新書)は、2002年に帰国した著者が、自らの体験をもとに拉致問題の全貌と本質を明らかにした一冊です。
単なる記録ではなく、「なぜ、何のために、そして今なお続いているのか」という問いに対して、冷静に、しかし切実に答えてくれます。

岩波新書

嘘と即興の連鎖が生んだ「国家による誘拐」
著者は1978年、新潟で拉致されました。北朝鮮の工作員により強制的に連れ去られ、その後24年間にわたり自由を奪われ続けます。
驚かされるのは、北朝鮮が拉致を行った背景にあるずさんさです。明確な戦略があったわけではなく、「工作員による日本人への身分偽装」「よど号グループによる人材獲得」などの理由で誘拐が行われたもののワークせず、持て余した結果**「工作員の日本語教育を行わせていた」というのが実態。拉致後はネイティブとしての教育係という任務を与えられたものの、「やらせることがないから与えた任務だったのではないか」**という著者の実感が胸に残ります。
実際、工作員の教育係を命じられた著者は、強要されたとはいえ、北朝鮮の工作員の教育に助力したことに、「怖さ」と「後ろめたさ」を感じていたと記します。この国では、人間は機能でしかなく、「人格」は許されないのだと痛感させられます。


「死亡」とされた人々は、本当に亡くなったのか
この本の中で最も鋭く切り込まれているのが、**横田めぐみさんをはじめとする拉致被害者「8人死亡」という北朝鮮側の説明です。
著者は、「他人の骨が送られてきた」(DNA鑑定で一致せず)「死亡したとされる日以降に生活していた証拠がある」**など、数々の矛盾を指摘します。
つまり、「解決済み」という主張は虚構であり、被害者が生きている可能性があるにもかかわらず、その糸を北朝鮮は切ろうとしているのです。
この事実は、単なる過去の外交交渉の問題ではなく、いまなお続く人権侵害であることを強く訴えています。


北朝鮮は「信用できない国」であるという確認
この本を読みながら、著者の言葉が日本社会に向けられていると感じました。
2002年、小泉首相が訪朝し、金正日が拉致を認めたことで一部被害者は帰国しました。著者もその一人です。
けれど、「誠意ある謝罪」や「全容解明」は一切ありませんでした。
著者が強調するのは、**「北朝鮮は体制が変わらない限り、嘘をつき続ける」**という冷徹な現実です。
即興と恐怖に支配され、責任も理念もない国家と交渉することの難しさ。それが24年間そこにいた人の言葉として、ずしりと響きます。


忘れてはいけないのは「今なお続く重層的な人権侵害」であること
蓮池さんは本書の最後に、「拉致問題の本質は本来、政治・外交に影響を受けるものではない」と語っています。
人権侵害としての拉致問題の本質を再認識し、忘れないことが、この問題をあきらめずに、最終的に解決するための重要な原点であると訴えます。
それは、人間の尊厳を組織的に奪った重層的な人権問題であり、拉致被害者救出を絶対に諦めてはならないと。
本書は雑誌「世界」に連載されたものをまとめたものです。連載のタイトルは「「拉致問題」風化に抗して」。確かに拉致被害者家族も高齢化し、世界ではウクライナ、ガザと大きな国際問題がある中で、国民の意識が薄れている感は否めません。
しかしながら、今現在も続いている人権問題であり、国家として改めて強い意志を示す必要があると感じます。


📌まとめ(note投稿用)
読み応え:★★★★☆(現代史・人権を深く知る一冊)
難易度:★★★☆☆(背景理解は必要だが読みやすい)
推薦対象:外交・人権・近現代史・北朝鮮問題に関心があるすべての人へ

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