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もう働かなくていい!そんな時代が到来している小説3選(+おまけ2作)【このテーマの小説ならコレ!】<1>

〈今回のラインナップ〉



◇「ユートロニカのこちら側」 小川哲

【ざっくり概要】
巨大IT企業に生活や個人情報の全データを収集させる代わりに、一生働かずとも生活できるようになる特別区。自ら希望して高倍率抽選で見事当選した住民や、開発者、反対活動家たち。それぞれの思い、翻弄される人生。
第三回ハヤカワSFコンテスト大賞。

 彼らに共通しているのは、「自由」を求めて移住を決意したということで、マイン社による「監視」を「不自由」だとは感じていないことだった。彼らはここではすべてが「自由」だと自らの立場を肯定した。やりたくない仕事はやらなくていいし、見たくないものを見る必要もない。何をするべきかサーヴァントが教えてくれるが、別に従わなくてもいい。しかし、従っておけば多くの場合失敗することがない。

「ユートロニカのこちら側」(2015/早川書房)本文より引用。単行本:245頁

ヨミナ:いまやすっかり人気作家さん。そのデビュー作だよ。
ヨムゾー:ハヤカワからSFでデビューだったんだね。
ヨミナ:近作では「火星の女王」もSF設定なので、SF書くのをやめちゃったわけではなさそうだよ。
ヨムゾー:「ユートロニカ…」は、物語の舞台が日本ではないんだね。
ヨミナ:うん、だから、まるで翻訳小説を読んでるような感覚になったよ。まあ確かに米国設定のほうが、この物語なら自然かな。
ヨムゾー:ところで、この作家さんは別作品の「君のクイズ」が映画化(実写邦画)され、間もなく公開(2026年5月上旬GW現在)と話題だね。
ヨミナ:そう。原作小説をもう読んだから、ネタバレで分かっているんだけど、それでも映画が見たくてたまりません!
ヨムゾー:おいおい、別の作品の話題になっちゃってるよ!


◇「未来職安」 柞刈湯葉

【ざっくり概要】
国民の99%が働かなくてもよくなった近未来。国民には厚生福祉省(コーフク省)から生活基本金が支給されている。
それでも働きたいって、いったいどんな事情が? 
ひょんなことから「職安」のスタッフとなってしまった主人公が、お仕事を求めて職安を訪れる様々な人たちと出会います。

「何かもう少しめんどくさいやつが来ないかな。元犯罪者とか」 (中略)
「元犯罪者が何しに職安に来るんですか? 普通に生活基本金で生きていけばいいじゃないですか」 (中略)
 まだ人間の仕事がたくさんあった頃は、健康なのに働かない人を「社会不適合者」と言ったらしいけれど、今や日本人の99%が生活基本金をもらって生きる消費者で、働いている生産者は1%きりとなってしまった。となれば「社会不適合者」はむしろ働いている方、というのはまあ、ひとつの物の見方ではある。

「未来職安」(2018/双葉社)本文より引用。単行本:26頁

ヨミナ:この物語の未来の街では、労働しない人間の代わりに「警察ロボ」や「配達渡し鳥」なんかが働いてるんだけど、特にテイクアウトデリバリーの「配達渡し鳥」なんて、ネーミングセンスが素晴らしいよね。
ヨムゾー:のんびり過ごしている「ネコッポイド」もいるみたいだね。
ヨミナ:ところで、書籍タイトルにある「職安」って何だと思う?
ヨムゾー:えっ? 職安っていったら職業安定所じゃないの?
ヨミナ:物語では、もう今とは違うものが通称「職安」と呼ばれてるの。気になったら確かめてみてね。


◇「TAITAN(タイタン)」 野崎まど

【ざっくり概要】
AIが社会を保ち、人類が仕事から解放された未来。
しかし突如、汎用AIが機能不全に陥った。このままでは世界中で、社会・経済・政治…すべてが大混乱に陥ってしまう。そこで、主人公は、実体を持たないそのAIの「心理カウンセリング」を任され…。というお話。

 そもそも以前から報道というものは全てタイタンが行っていた。(中略) 今までもタイタンはずっと情報をコントロールし続けていたのだ。私達が幸せに暮らせるように。見なくても良いものを見ないように。それでも見なければいけないものは、せめて心穏やかに見られるように。(中略)
 私達は今そんな世界に生きている。映画と違うのは、機械が心の底から人間の幸福を願っているということ。そして私達もまた管理してもらう幸福を選択してきた。

「TAITAN」(2020/講談社)本文より引用。単行本:210頁

ヨミナ:この作者さん、作品のSFチック設定な大風呂敷スケールが、大体いつもでっかくて、そこが好きなんだ。
ヨムゾー:別作品の「HELLO WORLD」がアニメ化され2019年に劇場公開、他にも衝撃的なサスペンス巨編「バビロン」がテレビアニメ化されてたり。
ヨミナ:顔出しNGの覆面作家さんね。
ヨムゾー:でも最近とうとうテレビで顔出しインタビューを受けたとか。
ヨミナ:でもまたその後、やっぱり段ボールに入ってスタジオ収録に臨んだとか。
ヨムゾー:この作品でも、相当スケールが大きな物語が展開されそうだね。


《おまけ01》

◇「ベーシックインカム」 井上真偽

「……教授は、この日本でベーシックインカムの制度が成立すると思いますか?」
 批判的な気持ちが顔に出るのを避けようと、私は当たり障りのない質問を教授に向けた。
「する、しないの問題ではない。そうせざるを得ないだろう(中略)」
「福祉国家がこれからの主流、というわけですか」
「福祉は目的ではない、結果だ。問題は生産性だ。AIに代表されるテクノロジーの進展で、現代の生産性はうなぎのぼりとなった。(中略) 雇用せずとも生産できる時代が来ているということだ。ならば従来の労働観から脱却し、人々が雇用という形をとらずとも、余剰な生産力の恩恵を受けられる制度を国家は模索すべきだろう。でなければ跳ね上がる失業率のもと、激減する国内需要で自国経済はいずれ破綻する」
「その最悪なシナリオを避ける方策の一つが、ベーシックインカム……というわけですか」
「そういうことだ」

「ベーシックインカム」(2019/集英社)本文より引用。単行本:195頁

短編集のうちの5作目が、表題作でもある「ベーシックインカム」。
物語では、ベーシックインカムの実現性を試算する研究者たちが登場します。(つまり、今回のテーマの「もう働かなくてもいい時代」をまだ模索中。なので「おまけ」としました。)
来たる未来は、経済学が予見した技術的失業の世界か、それともグレートデカップリングが待っているのか。
尊敬していた教授の研究費不正受給が発覚した中、穏やかに議論を進め…。というお話です。

ヨミナ:この著者さんも、別作品が映像化されてる。
ヨムゾー:2018年の地上波連ドラ「探偵が早すぎる」だね。
ヨミナ:滝藤賢一、広瀬アリス、水野美紀らがコミカルに演じてた。
ヨムゾー:シーズン2や、単発スペシャルドラマも作られるほどの人気ドラマになってた。面白かったよね。
ヨミナ:一方、こちらの作品「ベーシック…」は、「探偵が…」とはガラッと変わってコミカル色はなし。淡々と静かに進む物語。
ヨムゾー:著者さんはこれからも色んな作風を見せてくれるのかもね。

単行本にはほかにも、近未来の技術革新後を生きる人々を描いた、予言的な計5短編が収録されています。


《おまけ02》

◇「1日3時間しか働かない国」 シヴァーノ・アゴスティ

労働時間が(1日8時間じゃなく)書籍タイトル通り、3時間です。(なので、今回のテーマの「もう働かなくてもいい時代」とはちょっと違うため、「おまけ」としました。)
じゃあ、その3時間働く以外は皆さん何をしているかと言いますと…。

小説で社会実験したような、ファンタジー系のおはなし。
イタリアでベストセラー。作者はインディペンデント系の映画監督さんだそうです。翻訳:野村雅夫。

「だけど、ずっと幸せでいることに飽きちゃったりしないもんかな?」
「(中略)退屈してられませんよ。人生の豊かな可能性を発見するチャンスが山ほど転がってるわけですから。(中略) 人生はたった一度きりで、その機会は一度逃すと二度と取り戻せないんだっていうことをみんな忘れてたんですよ。 働いて働いて、ただただ働いてなけりゃならない。僕たちはそう信じ込まされていたんですよね。(中略) 僕たちは、わずかばかりの金のために(中略)自分を安売りしていました。しかも、そこまでして得るものは将来に対する不安と過去の傷痕としての徒労感だったんですよ。(中略)でも、そんなことはもうないんですよ …」

「1日3時間しか働かない国」(2008年/マガジンハウス)本文より引用。単行本:81-82頁

以上、3作品+おまけ2作品。計5作品でした。

ヨムゾー:今回のテーマ「もう働かなくてもいい時代」って、本当に来るのかな? もし来たら、どんな感じかすっごく興味深いよね。タイムマシンがあったら見にいきたいよ。
ヨミナ:タイムマシンで未来に行くことはできないけど、小説なら、未来のシミュレーションをお先に覗き見してる感じにはなれるよね。
ヨムゾー:小説って、いろんな世界を見せてくれる。タイムマシンみたいな時間旅行装置でもあり、パラレルワールドへの旅行装置でもあるね。


ヨミナ:今回はここまで。ぜひ参考にしてみてくださいね。もしも気になる本が見つかりましたら、お好きなタイミングでぜひ読んでみて! 
ヨムゾー:ぼくもさっそく読むぞー!
ヨミナ・ヨムゾー:どうぞ、小説とのよい出会いを!


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