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勇者ぶつかりおじさんの冒険

私は身長185cm、体重200kgである。

そんな私に果敢に挑んでくる命知らずの男がいた。

巷で話題のぶつかりおじさんだ。

それも新宿とか渋谷といった繁華街ではなく、
人間の母数自体が極めて少ない東京都下かつ、中央特快にスルーされる市かつ、日頃私とハクセキレイくらいしか通らない、過疎過ぎて目地という目地全てが苔むしている道でだ。
さざれ石も苔で見えなくなっているくらいだよ!
一年に一回くらいしか耳にしない国歌を思い出しちまうくらいの異常事態である。

噂で伝え聞いた話によれば、ぶつかりおじさんを筆頭に“ぶつかる”ことに快楽を見出す民がターゲットにするのは
小柄で、気が弱そうで、反撃せず甘んじて事態を受け入れそうな人物だというではないか。

大前提として、私は身長185cm、体重200kgである。

それこそ、この巨体を小柄だと言うのであれば
あのおじさんは『ガリヴァー旅行記』に登場するブロブディンナグ国出身でもない限り認識がちゃんちゃらおかしい。

あの国は存在するもの全てが通常の12倍のサイズ感だからな。
5万m級の火山はあるし、ガリヴァーをひっ捕えていた農夫の身長は18mだ。

余談だがブロブディンナグ国バージョンの大谷翔平選手人間の国:191cmは約2.3mである。
軽率に世界のオオタニサンを引っ張ってきたせいで『ガリヴァー旅行記』を霞ませるという大罪を犯した。
なお、ヨナグニサン世界2位14cmならば168cmである。

ここがリリパット王国だったらガリヴァーにプチっと踏み潰されているところだった。
あっちだとほら、逆に住人のサイズが通常の1/12になるから。
「ガリヴァーでっか!」状態。

それはさておき、身長18mから見る身長185cm、体重200kgは間違いなく小柄である。

だが、おじさんは18mもなかったしひょろっとしたおどおどした人物であった。
到底、ブロブディンナグ国出身とは思えない。
なんなら、直前までブロブディンナグ国に捕えられていたところを命からがら逃げ出してきたといった様子であった。

むしろこのおじさんの方が、ぶつかりの民に狙われがちな特徴(小柄・気が弱そう・反撃せず甘んじて事態を受け入れそう)にものの見事にシンデレラフィットしている。

よっぽど私の方がこの特徴からはかけ離れていた。

──ポケモンが地方によって姿を変えるように私にも色々とバージョンがある。

女子アナ風清楚系、茨城県民直伝!龍ヶ崎のヤンキー風、家と外の区別がつかない系、胡散臭いスーツ、名探偵コナンに出てくる犯人スタイル、はきちがえた沖縄観光の人など多種多様に取り揃えております!

この日の私は、
“コナンの犯人スタイルの上にはきちがえた沖縄観光の人の柄シャツ×青髪”
という視覚的素頓狂、いわゆる“ヴィジュアル・オブ・スットンキョウinトーキョー”でランウェイを揺るがしていた。

そしてやはり、
身長は185cmで、体重は200kgである。

これのどこが
小柄で、気が弱そうで、反撃せず甘んじて事態を受け入れそうなんだよ!

大柄で、気が強そうで、何も甘んじず反撃どころか自発攻撃してきそうだろう!

これはもうあのおじさんは巷に湧いている極悪な“ぶつかり”種族ではなく、
私というゴーレムを討伐すべく立ち上がった勇猛果敢な戦士なのではないだろうか。

あれはX年前。
カナカナカナカナ……
とヒグラシが鳴いていたから、晩夏のことだ。
終わりかけとはいえ、西に沈む太陽が一日の終わりに力を振り絞るかの如く私を灼き尽くさんとしていた。

暑さと、飲み慣れないミルタザピンの副作用も相まって、私は今にもぶっ倒れそうだった。

だいぶ前の方に、人影が見える。
太陽を背に、ズイズイとこちらに向かってきている。
陽炎か、薬の影響か、その実態は崩れたり戻ったりを繰り返す。

爆発を背景に登場するヒーローのように見えなくもない。

いよいよその崩れたり戻ったりするヒーローの、
死相の見え隠れする実態をとらえた。

脳がそれを“ぶつかりおじさん”と判定する0.07秒前、左半身に激痛が走る。

「グゥ……!」

ぐうの音が出た。
出ないから、“ぐうの音”なのではないのか?!
私は憤怒した。

怒りの炎で目地という目地に蔓延る苔を焼き尽くし、ハクセキレイは炎をまとい火の鳥と化している。

前傾姿勢でゆっくりと、そいつの進んだ方向を振り返る。

しかし、姿が見えない。

私は腹の底から地鳴りのような笑いを轟かせた。

灰と化した苔を振り払い、逆さまの氷柱つららの如く研ぎ澄まされた鋭利な岩が轟音と共に突き出してくる。

勇者の屍は、その尖端を……

「俺のフルメタルボディでぶつかりおじさんが吹き飛ばされた!」

せっかく心配してくれた友人にこんな話をして違う心配をされた。

「左半身よりも脳が心配だよ、脳が!」

隣の市都下の都会に住む高校からの友人Yが、虫に遭遇した時並みの大きな声で、猿田彦珈琲の静寂を破る。

「奴の全身の骨が木っ端微塵になって、逆に治療費請求される心配すらあった!」

「それはあれでしょ!アンちゃんのお母さんがトラックにぶつかったけど潰れたのはブロッコリーとトラックの前方でお母さん無事だったのに運転手がなぜか大怪我して逆に謝罪案件になった事件でしょ!」

ホットケーキのホイップバターを乱雑にフォークで潰しながら言う。

「その日の夕飯は潰れたブロッコリー入りのカレー!」
「そう、カレー。シチューとかじゃなくてカレー。」「カレーにブロッコリー入ってたこと一回もないけど我が家。」
「そんなことよりもさ……人んちのとんでもエピソードと10年以上前の夕飯とその具まで覚えてる我々控えめに言っても気持ち悪くない?」
「相当気持ち悪いよ。控えるまでもなく気持ち悪いよ。」
「そういえばなんでコーヒーしか頼んでないの?私だけめっちゃ食べる人みたいになってるんだけど!」
「控えてるからさ、カロリーを。」
「カロリーより妄想と変な記憶力を控えなさいよ!」
「カロリー控えた分また記憶が代替エネルギー持ってきたんだけど。」
「何?」
「アンちゃんの足音、ダダンダンダダンッだったよね。」

ここでYがホットケーキを喉に詰まらせて、危うく天に召されるところだった。

なお、元祖フルメタルボディは何を隠そうアンちゃんのお母さんである。
で、フルメタルボディから生まれたアンちゃんも漏れなくフルメタルボディである。

ターミネーター、ダイハード、鋼の錬金術師の鋼の方……
色々、好き勝手言っていた。

なお、嘘をつきました。

185cmはいくらなんでも盛り過ぎ。
でも体重は200kgある。
膝がそう言っている。
もちろん、自認体重も200kgだ。

Yと私が現役の女子高生としてチェック柄のスカートを揺らしまくっていた頃、日本史の教員に言われたあの言葉を一生忘れない。

「お前そんなに背小さかったか?態度のせいで166cmはあると思ってた!」

刻むな!
“四捨五入して170cm”って言え!

他称166cm・自称170cm・自認185cm、重さ200kgのフルメタルボディで吹っ飛ばしてやろうかと思った!

──やはりそういうことか。
あれはぶつかりおじさんではない。

ゴーレム討伐にやってきた、勇敢なる戦士だったのだ。

フハハハハハハハ!!!!
俺を倒そうったってそう簡単にはいかぬのだ!!!!
思い知ったか!!

なお、あれから戦士には遭遇していない。
そのため、今もゴーレムは185cm・200kgの巨体で自宅の冷凍庫内の食料を食い荒らしております。

次回、熊vsゴーレム。
お楽しみにね!

誤った情報です。

【高校時代についての記事(一部)】


元素記号15番目はアイドルです。


空也は腹が減っているわけではない!


【参考資料】
◽︎青空文庫
『ガリバー旅行記』ジョナサン・スイフト

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