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10日かけて100回音を上げるモモネ(1)-自分でまいたまきびし-

「“”の“”で“モモネ”です。」

何度も諦めて、何度も立ち上がる百音モモネさんに「10日かけて100回音を上げてもらうキャンペーン」です。
1日10回、音を上げれば10日で終わります。

げる
苦しさに耐えられず声を立てる。弱音を吐く。
降参する。
ex)「つらい仕事に音を上げる」

デジタル大辞泉

1日目:2025年7月5日(土)休日出勤の百音


1.カーテン閉め忘れて眠り、朝を迎える

「…眩しい。」
差し込む光が百音の手を引き、現実世界へと連れ出した。
とは言えまだ寝ぼけている彼女は眩しさと眠気とで瞼を開けられずにいる。
手探りでなんとか掴んだスマホ。
申し訳程度に開けた左目で画面を確認する。

4時52分。
6時半までは眠っていたかった。

もう一度眠ろうと目を閉じるが、案の定眠れない。
「羊が1匹…羊が2匹…」
羊の数を数えたところで一度閉じた夢の世界の扉をこじ開けることは不可能。

「もう無理だ…」
百音は眠ることを諦めた。

2.昨日、帰りに雨が降って使った折りたたみ傘放置

天気予報を見て百音はつぶやく。
「また帰る頃雨か…」
瞬時に昨夜の帰り道のことを思い出す。

昨日の夜、
あと5分もかからないというところまで来て
雨に降られたのだった。
少し迷ったけれどあまりにも雨が強いものだから観念して傘をさしたのだ。

家に着いて玄関に傘をガサっと置いて…
その後冷凍ご飯を解凍して、ラップにくるんだままふりかけをかけておにぎりにした。
ふりかけが一極集中していてしょっぱくて。

その後シャワーを浴びてなかなか髪が乾かなくてイライラして…

どれだけ記憶をたどっても、
雨に濡れた傘を“どうにかした”という記憶には辿り着かない。

つまり今日はこのじっとりと湿った傘をどうにかして運ぶほかない。
おおよそコンビニの袋くらいしか見当もつかない。

「もうやだ…」
昨晩の自分を一発殴ってやりたいとさえ思ったけれど、
“昨晩の自分”に会いに行く術はなく、百音はうなだれた。

3.米炊いていない、パンもない

どれだけ音を上げても腹はすく。
腹が減っては音も上げられぬ。
そうだ、ひとまず朝ごはんだ。

打ちひしがれたあとは大好きな卵かけ納豆ご飯で気分を上げよう。

冷凍ご飯は…
昨日、全部ふりかけ一極集中のしょっぱいおにぎりにして食べた。
もちろん炊飯器に米はない。

パンは昨日の朝、食べようとして青カビが生えていたものだから泣く泣く捨てたのだった。

どこを漁ってもご飯やパンのように、
ベテラン俳優のような安定感を誇る主役主食級の食材はない。

「はあ…」
空腹も相まって、百音は力無く座り込んだ。

4.髪に日焼け止め、腕にヘアオイル

今日も今日とて日差しが強い。
そして今日も今日とて猫っ毛。
日焼け止めはマストです。
ヘアオイルもマストです。

朝の身支度は半ばヤケクソ状態である。
特に今日は、
朝一から1週間分の災難が一度に降りかかったかのごとく打ちひしがれている。

とりあえず、“人様に見せられる姿”にすることが彼女のコンセプトだ。
アナウンサーがハレーションをおこなさないタイプのシャツを選ぶのと同じように、
必要最低限の配慮”といった具合。

日焼け止めを先に塗る。
それからヘアオイル。
ヘアオイルが顔や身体につくのは嫌だけれど、
日焼け止めが髪につくのはまあ、問題はないでしょうという百音の信条。
あくまでもこの一連の流れの中に“手を洗う”という行為を挟みたくないという気持ちを正当化するための言い訳に過ぎない。

…腕がヌルっとした。
慌てて手のひらと腕を見る。
百音は一瞬で、ことの重大さを理解した。
だが信じたくない。
恐る恐る匂いを嗅ぐ。

「ああ…」
花の香りに嗅覚をダイレクトに刺激され、
悲しいやら情けないやらぐちゃぐちゃに混ざった表情の自分が鏡に映る。

髪は風呂上がりのごとく濡れている。

「どうしよう…」

いくらカーテンを締め忘れて望まぬ早起きをしたとはいえ、
ひとつひとつの動作でエラーに見舞われ
混乱と復旧に尽力してきた彼女に残された時間は少ない。

ひとまず腕のヘアオイルだけは洗い流すことにした。

5.ねこのごはんまきびし

朝ごはんは途中のコンビニで買えばいいか。
百音はなんとか気持ちを切り替えようと、
米を炊き忘れ、パンのストックも切らしている自分の詰めの甘さをかき消そうと努めた。

正直、百音にとっては自分の食事より
同居ねこの“レンコン”のごはんの方が大切なのだ。
同居しているとはいえ、今朝はまだレンコンの顔を見ていない。
おおよそ百音が眠っていた部屋の片隅で悲惨な姿になっている大きめのクジラのぬいぐるみにその身を埋め込んでいるはず。

お互い干渉し合わない、適度な距離。
今朝も百音はレンコンの食事をいつも通り、カラカラと器に盛る。
ただ袋から器に移すだけだが、こだわりがある。
中央がやや盛り上がるようにこんもりと。
ずれたところは指先で直す。
この時の百音は高級フレンチのシェフなのだ。

自分の食事は皿に移すことすらしないのに。
レンコンのこととなるとつい、丁寧にしたくなる。

「レンコン、ごはん入れといたからねー!」
と声だけはかけておく。
そして立ち上がった瞬間、レンコンのごはん皿の縁に足を引っ掛けた。

床に広がるカリカリレンコンのごはん
痛っいった!」
踏んでしまった。
右足の薬指と小指の少し下あたり、そこがあまりにも痛かった。
じわっと涙が出た。

時間もないというのにスマホで足ツボについて調べてしまった。

【肝臓】
右足の薬指と小指の下にある窪んだ箇所。
このツボを押すと痛む場合:
・お酒の飲みすぎ
・肥満
・とにもかくにも肝臓に負担がかかっている

「お酒をよく飲む方や食生活が乱れがちな方は、定期的に肝臓のつぼをマッサージして、肝機能のサポートを行いましょう。」

ふるさと納税DISCOVERY 「足つぼマッサージが痛い理由は?足つぼの効果やおすすめのつぼを紹介!」

不摂生がたたった。
自分でまいた種の如く“自分でまいたまきびし”の上で、
そう、自分で仕掛けた罠にかかるまぬけな忍者の如く百音は素直に反省した。

そして自分の苗字を恨む。

一流忍者“服部はっとり半蔵の名に恥じぬ生き方をせねば…

いや、私は服部半蔵じゃない…
一瞬でも自分が服部半蔵であるかのごとく振る舞ったことが心底恥ずかしくなる百音であった。


6.出そうで出ない大便うんこ

家を出る直前、催した。
「なんで今?」
いつもなら我慢するところだが、百音は昨日見かけた

“貯めていいのはカネとく
便うんこの貯蔵は百害あって一利なし。”

という言葉にやたらと感化されてしまったのだ。
心が弱っていると、妙なものにすがってしまう。
「胡散臭いなあ…」
と思いながらもトイレに向かう自分に嫌気が差した。

↑百音が感化された胡散臭い言葉が出てきます。

トイレの中というのは色々と思考を巡らせざるを得ないというのは百音の子どもの頃からの病のようなもの。

学生の頃、駅前で話しかけてきた新興宗教の信者を論破しては勝ち誇った気分になっていた自分を思い出し、
「今の自分ならすっかり騙されて、わけのわからない金ピカの像に心を奪われていたのだろうな…」
と想像上の自分を嘲笑した。

きっとあの同い年くらいの女の子が勧めてきたトレーシングペーパー並みに薄いお札だって嬉々として手にいれただろう。
李小狼りしゃおらん(平成女児ドハマリアニメのキャラクター)の護符の如く構え、
「水龍招来」だの「雷帝招来」だのと唱えるのだろう。

余分な思い出と、ありもしない“もしも”の自分像は無尽蔵に出てくるのに
肝心の大便うんこは出ない。

「ええ…もうこんな時間…」
焦燥感よりも絶望と、
百害あって一利なし”の大便うんこが自身の身体の中にとどまっていることへの妙な不安が優っていることに嫌気が差す百音であった。

7.あと3駅というところで急停車

四ツ谷駅を出た瞬間、車内液晶がとんがり耳の赤いほっぺがかわいいあのキャラクターのような色に染まる。

自宅のトイレの中で浮かんだあの考えが幾度となく輪廻転生してくるせいで
咄嗟に身構えることができなかった。
土曜日の電車は緩衝材の詰めが甘い、初心者による梱包のよう。
中身が自由に動くが故にぶつかり合って破損するようなあの段ボールの中のようだから
百音は元いた位置からだいぶ離れたところまですっ飛ばされた。

座っていた小さな子どもに
「お姉ちゃん、だいじょうぶ?」
と聞かれた。

お姉ちゃん

20代も終焉を迎えそうな今、
お姉ちゃん”という響きになぜか救われている自分がいる。

素直に喜べばいいものを
「結局私も年齢に囚われているんだ…」
と率先してマイナス方向に思考を走らせる。
自分の心こそ“急停車”させたい百音であった。

8.ワンタイムパスワードに翻弄される

知りたくもない他人の個人情報を半ば強制的に浴び続けなければならない仕事をしている百音。
ワンタイムパスワードを解除しないことには、そもそも仕事にならない。
しかし、これが彼女の神経をすり減らす一因なのだ。

いざ入力を始めると、
「ももち〜おはよう!」
「百音さん、おはようございます!」
「はい、これ大好物の|南部せんべい!」
と怒涛の挨拶とプレゼントの嵐。

うれしいけれど、
“今じゃない”。

挨拶を片手間に済ませられる性格ならどんなに良かったか。
百音はどうにも
目を合わせて挨拶をしないと背中がむずむずするのだ。
自分が挨拶をした時に
目も合わせてもらえなかった時、すごく悲しかったから。

あの時から、
どんな時でも、どんな相手でも
目を合わせて、自分の中の誠意を全部込めて
「おはようございます」
を言うと決めている。

ワンタイムパスワードへの挑戦がたとえ“ハンドレッド”になったとしても。

そんな頑なな自分がデスク脇に置かれた南部せんべいと重なり
「硬いものって、砕ける時は思いっきりバラバラになるよね…」
とため息をついた。

9.社内コンビニが混みすぎて昼休み2/3消費

土曜日は本来なら全社的に休みだが、今日はイベントがある。
だから平日とは何も変わらない時間が流れている。
そのことをすっかり忘れていた百音はお昼ごはんを買ってこなかった。

恐る恐る社内コンビニへ。
案の定の混雑。
そもそもが、入店待ちの行列品選びの行列レジの行列の3つの関門をクリアしなくてはならない。
だからと言って今更外に食べに行こうにも、
土曜日のお昼どき。
最寄りは“東京駅”。
どう考えても昼休み中に食事にありつけるとは思えない。

ならば大人しく、この状況を甘んじて受け入れた方が早い。
スマホで時間を確認する。

あと20分しかない。
画面のレンコンに癒されつつもそう呑気でもいられない。
「冷麺にしよう。」
そう決め込んでいざ麺のコーナーへ行くも、
ない。
申し訳なさそうに“焼きそば”が百音を見つめている。
一度うなずいてから、今の沈んだ気持ちとは正反対にある“お祭りの帝王焼きそば”を手に取った。

エレベーターなど待ってはいられぬ、と
普段は使いもしない階段で自部署の階まで駆け降りる。

慌てて夏祭りを胃に押し込む。
午後はお祭り気分で乗り切ろう、そう決めた百音だったが、
早食いのせいだろうか。
若干の胃の痛みを感じる。

朝、“ねこのごはんまきびし”で痛い目に遭った記憶が脳裏をよぎる。
今度からはお弁当を作ろう。
もはや何度目かわからない決心をして、
「どうせまたやらないんだけど…」
と悪態をついた。

10.自分のスマホを会社に、社用スマホを鞄に。

珍しく残業無し。
まだ雨も降ってない。
さあ、帰ろう。

なんとなく、電車では立っていようと決めている百音も今日はどうにも身体が重く
空いた席にテトリスの如く腰を下ろした。

鞄からスマホを取り出す。

社用スマホだ。
社用スマホも使用スマホもiPhone12、
面倒くさくてカバーもケースもつけていない。
いつもならばパソコンと一緒にどちらも持って帰っている。
にも関わらず今日はなぜか
職場に関するものは全部置いてきたくて、
ロッカーに入れ、これまたご丁寧に二重ロックまでかけてきたのだ。

戻る気力もなく、そのまま電車の揺れに身を任せた。
窓の外はまだ明るい。

たまにはデジタルデトックスも悪くはない。
そう自分に言い聞かせるけれど、
スマホゲームの連続ログイン記録が途絶えることに、
若干の悲しみを見出して絶望した。

不定期に全10回、合計100回
百音に音を上げてもらうという悪趣味な試み第一弾。

なお、今日私は
足の小指を2週間ぶりに柱にぶつけて音を上げました。

百音よりは少ないです。


【参考資料】
◽︎ふるなび
「足つぼマッサージが痛い理由は?足つぼの効果やおすすめのつぼを紹介!」

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