上がらぬうだつに音を上げる前に腕上げろ!
「上がらぬうだつに音を上げる前に腕上げろ!」
腕が上がれば、おのずとうだつも上がるだろう。
と、よくわからないことをぶつぶつと唱えていたら再び発熱した。
変わりやすいのは山の天気と乙女心、それからアラサーの体調である。
上がったのは、うだつでもなく、腕でもなく熱!
もう、音を上げたくもなる!
今日は全国的に晴れ。
局地的に振替休日。
午前中は開館と共に図書館に行き、2時間程本を読む。
娘は『わかったさん』シリーズとか、『名探偵』シリーズを。
私はオオカミの生態とか猫がどうしたとか、奥本大三郎先生の『虫のゐどころ』などをモリモリと読み
文化的な親子を装う。
その後30分ほど近くの公園で、ペンギンみたいなカラーリングのムクドリ探しをする。
帰り道で、
「午後は何をしませうか?」
「にんじんのケーキでも作りませう。」
「よろしいですわね。」
と言った話をして、途中のスーパーで足りない材料、できればベーキングパウダーを買う。
なお、ベーキングパウダーは家にある。
家につき、
「ベーキングパウダー、まだ一缶残っていましたわ……ホホホ……」と上品に笑う。
そんな理想的な娘がいるタイプの月曜日の妄想は、我がくしゃみにかき消されました。
でも妄想の尻拭いを自分でしたところだけは褒められて然りだと思う。
おのれの妄想はおのれの手で片付けた!
自己責任!
そう言えば、朝の空はこの世の終わりみたいな色をしていた。
あれ、小説的に解釈すれば“凶兆”の描写だもんな。
……くそゥ!
読書をせぬがゆえにこの描写を見逃した!
だが、その後太陽の光が煌々と窓から差し込んでいた。
これは受験テクニック的に言えば“吉兆”の描写であろう?
なのになぜ私の体調は悪転しているのだ!
これだからリアル人生は!!
伏線回収しないどころか情景描写ガン無視の体調と心境をぶち込んでくる!!
それともあれか?
気を衒っているのか?
外はこんなにも晴れているのに、私はその片隅の曇り空の下で深夜のアイスクリームのカロリーを抱きしめたまま眠っている。
わかった。
最近私がエモ構文を馬鹿にしまくっているから罰が当たったのだろう。
失礼つかまつった!
結局のところ、午前中は病院(私の)・薬局(私の)で潰れ、午後は昼寝(私が)をした。
病院で白髪のマダムに、
「あらァ、お利口さん。いくつ?」と聞かれる。
デジャヴだ。
今でも忘れない。
私は7年前、同じような状況で
「2X歳です。」と答え病院中の空気という空気全てを凍り付かせたことがある。
よく考えてみろ!
私は“お利口さん”ではない!
あの時、密かに屁をこいて毒ガス警報寸前といった状況を作り出したくせに謝りもせず、
娘のおむつを怪しむかのような独り言と動作で周囲の目を欺いたのだ!
しかも罪を全て1歳児になすりつけた!
それなのにお利口さん=自分と勝手に自負し、
自身の年齢を答えるという奇行にでた。
お利口じゃなくてお奇行さんだよ!
今回は屁はこいていないから前回よりはお利口だ。
それでも体調不良は致し方ないとは言え
空前絶後の体調の良さに油断し、
「明日は、何するゥ?図書館の後、本屋とか行っちゃう?そんでェ、駅ん中の和食屋さんとかでェ、ランチしちゃう?」
などと狙った獲物は逃さない、言うなればフライパンで煮詰めたみりんくらいこびりつく勢いでデートに誘い、オッケーをもらったくせに当日キャンセル。
とんだ不履行である。
これ、婚約詐欺レベル。
社会的に消される!
お利口さんでもなく、お奇行さんでもなく、今回は不履行さんだ。
それにしたって、
いくらなんでもアラウンドサーティになるまで生きてきて、その辺の見通しもつかないようじゃよろしくないぞ、俺!
と、しょうもないことを脳内で唱えることにより
自身の年齢を答えそうになる危機を乗り越えた。
えらい!
お利口!
そんな私を尻目に、落ち着き払って
「8歳です。」と答える娘。
「あらそう。今日はどうしたの? 風邪?」
「いいえ……あ、はい。母がたぶん、風邪です。」
「お母さんを連れてきてあげたの! お利口さんね〜!」
一体全体、親はどっちなんだ!
……ちょっと待ってくれ。
“ついてきてあげた”ならまだしてもなんで私が連れてきてもらった設定なんだよ!
それはともかく、
診察室では鼻に“ちゃんとした”コヨリを突っ込まれ、
ヘゲヘゲと涙目になりながら“有意義に”鼻水を採取していただいた。
「タダの、風邪です。」
流行り病でもなんでもなく、タダの風邪でした。
タダの風邪を約3,000円で買いました。
これもまたデジャヴだ。
捻くれ者の私は、流行り病に感染するタイミングまで捻くれていた。
誰一人マイコプラズマに感染していない時に感染し、自分の席の周りが全員インフルエンザに感染している時に感染しなかった。
そしてインフルエンザが忘却の彼方へと追いやられた頃、一人で感染した。
今回もそうだ。
娘の学校ではインフルエンザが一世を風靡し、学級閉鎖が起きている。
天野の職場でも苦情とインフルエンザウイルスが市民から寄せられ、
職員たちは時代劇の斬られ役の如く、バッタバッタと倒れているという。
それなのに私ときたら、
フリーペーパーの如きタダの風邪。
ただ、フリーペーパーのような面白みは秘めていない。
せめてなんかもっとこうないのか?
虹色の鼻水が出るとかくしゃみがオーケストラ・ヒットになるとか。
病院から出ると、依然として太陽が街を照らしている。
私の鼻のみ、大雨である。
黄色に変わる気など毛頭なさそうな、青々とした銀杏を眺め、歩く。
昼食どきの街はカレーやラーメン、パスタなど人間以上に匂いが混雑している。
荒天の我が鼻ですら、感知できるほどだ。
突如として光が弱まった感覚があり、
ひんやりとした風が娘と私との間をスゥっと通り抜ける。
一天俄かにかき曇り、天から落つるは大粒の雨。
こりゃあ雲絶間姫が鳴神上人の結界を破りおったわい。
雷神鳴神のお目覚めだ。
※「雷神不動北山櫻」(歌舞伎)のネタ
弱小晴雨兼用傘ではどうにもならないほどの雨である。
もはや顔周りは鼻水が雨水かわからないほどだ。
おい!
伏線回収するな!
私が、あまりにも「リアル人生においては伏線は回収されないことが常」なんて言うから空が気を遣って伏線回収してくれた。
が、今じゃないんだよ!
おかげさまで、さらに熱が上がった。
「ごめんな、にんじんケーキも作れん、オセロもできん、かたじけない……」
上がりまくりのあれこれを詫びる。
「顔を上げてよ、大丈夫だから。」
下げた頭を上げればおのずと顔も上がってくる。
下げた頭はちょんまげで、文明開化の音はしない。
ちょんまげはにんじんケーキ作らないし、オセロもしない!
せいぜいにんじん羊羹、色だけで言えば囲碁!
寝た。
私は寝た。
ひたすらに寝た。
目を開けたら物理的に腕を上げていた。
裏返しの空飛ぶヒーロー状態で眠っていた模様だ。
変わり過ぎる山の天気と乙女心、それからアラサーの体調。
明日の山はきっと晴れ。
乙女は明日も移り気で、アラサーは雨は残れど快方に向かうでしょう。
今上げるべきは、うだつでも、腕でも、音でもなく床である。
夕食後、少し元気が出てきたので
娘とオセロをしてみたら見事惨敗、お手上げです。
一度下がったと見せかけて再び上がる熱。
思わせぶりなその態度。
まさに小悪魔!
上がっているのは恋の熱?
いいえ、普通に体温です。
「腕を上げたね。」
と悔しさ半分、嬉しさ半分。
オセロボードを片付ける私は、棚の上方へ腕を伸ばす。
娘は論理的に腕を上げ、私は物理的に腕を上げる。
上がらぬうだつに音を上げる前に腕上げろ!
熱下げて、音を上げないで腕上げて。
明日は運動会。
腕振り上げて、応援だ。
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娘の担任が主演だった話。
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避難訓練には次回予告がついてくる話。
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授業参観で注目すべきは子どもでも教員でもなく親だ。
【参考資料】
◽︎前進座
茶壺・鳴神
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お・ぬ・し