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お花模様の爆弾

クリスマスイヴの夜、エアコンのリモコンが召された。

あまりの間の悪さに親近感すら覚えてしまう今日この頃である。
負の駆込み需要はご勘弁願いたい。

──モニタに映る日本の景色。
どうやら冷たい雨が朝から降り続いているらしい。
交通状況は最悪だ。
私は日本の物流網を憂いていた。

明朝までに全ての配送ステータスを“配達完了”にしなければ間違いなく株式会社かぶしきがいしゃSunさん Tackたっく Roseろーず日本支社のカスタマーセンターの電話回線が爆発する。

ひとまず、西日本ブロック担当のベテランサンタクロース配送スタッフ真田拓郎さなだたくろうに現在の交通状況を確認する。

「今んとこ滞りなく……ええ。あー、タイミーで呼んだダミアン・ゲバラ君がまだ来てないんやけど! まあいけますわ。問題はボクのエリア、心優しいキッズがぎょうさんおって。“サンタさんにこのクッキーあげんねん!”ゆうて眠らんのですわ。せやから上空待機ってとこで。寝落ちのタイミング見計らって……お? ちょっと行きますんでほな、さいなら!」

ダミアン・ゲバラ君が何者なのかは不明だが、少子化だと言うのに配送スタッフを正社員で賄えない現実に私は経営責任を感じざるを得ない。

それにしても、こちらは暑い。
サンタクロースが波乗りをしているほどだ。

失敬、今私はオーストラリアのゴールドコーストからリモートワーク中なのだ。
ビーチを一望できるバーでよくわからないエメラルドグリーンのカクテル片手に……

おん?

これはいつものコーヒーじゃないか!

失礼つかまつった。
あまりにも部屋が暑かったものでな……
意識が南半球に飛んでいた。

そもそも、オーストラリアには行ったことがない。
何が“モニタに映る日本の景色”だ!
それは自宅の薄汚れた窓越しのいつもの景色だよ!
そんでもって、雨!
で、多分寒い。

そうだ。
一時間前はツンドラ気候だったのだ。
あまりの寒さに私は目をひん剥いてひっくり返った。
すかさず起き上がり、いつものようにエクスペクトパトローナムでエアコンを起動させた。

……違う。
(家族が寝静まっているから嗄声で)「エクスペクトパトローナム!」と叫び、リモコンをエアコンに向けて「ピッ」だ。

エアコンはゴォゴォ音を立て、部屋を温めていく。
温めどころではない。
ツンドラ気候の我が部屋は、リモコンひとつで熱帯気候に変えられる。

しかし、気候を好き勝手に弄んだ罰なのだろうか。

リモコンが突如として死んでしまったのだ。

進み続ける地球温暖化の如く、部屋の温度は上がり続ける。
暑い……!

戻せぬ気候、戻らぬ命。

ほんの一時間前までは元気だったのに。
こんな突然お別れすることになるなんて……

瞬間、私は彼女の心臓部をこじ開けていた。
──目を疑った。

マイナス極から電解液が漏れ出てleaking out

蓬津玄師「LEAKING OUT」(米津玄師「IRIS OUT」替え歌)

彼女を動かしていたふたつの電池のうち一本のマイナス極が液漏れを起こしていたのだ。
古い傷だ。
すっかり変色して、茶色くこびりついている。

もしや、熱帯をツンドラに変えたあの日も、湿地帯を砂漠に変えたあの日も、あなたは血を流していたの……?
痛みをひた隠しにして?

こびりついた悲しみを拭き取っていく。
大丈夫だ。
絶対に、絶対に助ける。

心臓の置き場所はまっさらになった。
私は祈るようにして彼女の心臓の予備を入れる。

「頼む……」

一瞬だけ目を開けた。
しかし私にはわかる。
彼女の目がこの世界をもう二度とくっきりと映すことはないと。

それでも諦めたくなかった。
私は再び彼女の原動力を取り外す。
そして、生命の供給導線を……

──外れた。

「え。」

戻らない。
戻せない。

「緊急手術!」

私は医師免許もないのにそう叫んだ。
もちろん助手などいない。
ひとりだ。

バギィッ!
凄まじい音と共に、白い破片が飛ぶ。
彼女の露わになった内側を見て私はうなだれた。

インオペ手術不能だ……」

基盤内部まで漏れ出た電解液に蝕まれていた。
それも、80%以上。
人体、熱傷で表すならば深度はⅢ度。
もはや痛みすら感じていなかったかもしれない。
もしくは痛みに耐えるうちに傷は深くなり、徐々に慣れ麻痺していったのか。

いずれにしても私は彼女の苦しみに気づかずに過ごしてきた。

すまない、リモ電池の悪魔
だがしかし俺は暑いのだ。
暑くて暑くて倒れそうなんだ。

窓を開ければいい?
そんなことをしてみろ。
なぜ我が家の電気を使って東京の片隅を温めてやらねばならんのだ!

エアコンに直接交渉を試みる。
──応急!応急運転を開始します!

声が大きいんだよ!
家族寝てんだよ!
喋るな!
しかもすでに運転してんだわ!
電源を落としてくれ。

ブオオオオオオオオ!!!!
やめろ。
さっきより熱い風を出すな!!

私はスマートフォンの画面を確認する。

──2025年12月24日(水)23:56

かろうじて間に合う……!
私は慌ててサンタさんに発注書をしたためる。

拝啓サンタクロース様
大至急、AS-R28G-Wエアコンのリモコンをください。

そして翌朝ワクワクして起きてみると枕元には……
何もない。

娘は欲しかった本を枕元に見つけ跳ね飛んでいる。

「注文は二週間前にはしてもらわな困りますがな! 取寄せ商品やったらなおのこと! さすがに間に合わんかったわ、すんまへん!」
弊社ベテランサンタクロース配達スタッフ真田拓郎の声が聴こえた気がした。

そして私は朝食が喉を通らないまま午前を塗りつぶしていた。

──ガゴンッ

ポストに何かが入れられる音がした。
私は慌てて飛び出して辺りを見回す。
誰もいない。

ポストには美しい花が描かれた包装紙に包まれた四角い何かがのぞいている。

「これは……!」

私はその美麗な四角を胸に抱き、部屋へと戻る。
バラバラになったリモコンの眠る机の上で、恐る恐る包装紙を開ける。
まるで、これまでの彼女の痛みをひとつずつ紐解いていくように。

──全てを開き終わった時、また同じ反応をしてしまう。

「これは……!」

藤本タツキ『チェンソーマン〔1〕』

義母の仕業である。

私は身の回りの人間にかねてより伝えているのだ。

私にチェンソーマンを近づけるな、と。

わかるだろう!
悪化するんだよ!
アレが!

そう、アレだよ。
厨二病。
アラウンドサーティだというのに依然として罹患している上に年々悪化の一途を辿っている。
このまま行くと死亡診断書にでかでかと“死因・厨二病による呼吸不全”とかなんとかって書かれちまうから!

よもぎちゃん
メリークリスマス!
絶対読んだ方がいいよ!
私は最近レゼちゃんに憧れて髪の毛を紫に染めました。
それからレゼダンスも覚えたよ。
そうしたら、膝の爆弾がボンッしました。
年明け一緒に映画行きませんか?
私はもう、5回観たの!
よいクリスマスを。
by 自認レゼ

義母からの手紙

自認レゼを自認するのやめてくれ義母……!
さすがに膝がボンッは私の腹筋がボンッすること間違いなし。

というか、リチウムイオン電池がボンッすることを恐れまくり防火袋で家を埋め尽くすスットコドッコイ(義父)の手前、ボンッはだめだろう!
膝に防火袋かぶせておいてくれ。

とかなんとか言っているが、私は今生殺し状態なのだ。

手の届く位置に『チェンソーマン』!
インスタのおすすめ欄はレゼに染められている!
逃げ場がない。

硝子の上を裸足のまま走って逃げたい!

「あ、社長? お疲れさんやで! なんとか配り切れてん。結局ダミアン・ゲバラ君は現れんかったけどな! もう心配いらんで!」

──配送ステータスは全て、“配達完了”に変わっている。

ただ、その納期通りに届いたプレゼントをいつ開けるのか。
それは自由だ。


書店にて、屁がボンッした日。


義母初登場回(たぶん)

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