カワウソの花金
金曜日。質屋に現れたカワウソが、磨き上げられたパチンコ玉をカウンターの上に三粒並べて「おかねがほしいのです」と見つめてくる。
うるんだ目も鼻の穴も、どちらも円らで愛らしい。
お金をあげたい気持ちになったので「店長にはくれぐれも内緒で」断りを入れながらレジの中に入っていた三千円を全部カワウソに渡してやった。
かみさま、かみさま。
唱えながらお札を受け取り、世界一嬉しいニュースが書いてある新聞を読むみたいにしみじみと眺め回して、カワウソは小さな五本指でぱちんぱちんと器用にはじいて、表からも裏からも丹念にお金を数えている。
パチンコ玉をレジにしまって帳簿をつけ、カワウソがいつまでもお金を数えているので電気を消す。
店の外に連れ出すと、淡暗い水色の夕焼けが広がる空の下、桜の迫り出した運河沿いの遊歩道には提灯がともり始めている。いくらでもお金を使いたくなるような、あまやかな春の夜だった。
ふり返りふり返り頭を下げながら商店街へと向かうカワウソが、こんな夜にどこで何を買うのか見てみたい。ようやく前を見て歩き始めたので後をつけると、カワウソは寝具店の前で立ち止まり、店先に積まれた低反発枕を食い入るように見つめている。
手のひらをいっぱいに広げて表面を押し込み、沈み具合を確かめる。そのまま顔もうずめようとしたところで店主がすばやく抱き上げて、あれこれと注意をしてカワウソをよその店先に下ろす。
三千円を胸に抱いたまま、駄菓子屋を見つめては通り過ぎ銭湯を見つめては通り過ぎるカワウソが、ついに立ち止まって「ください」掠れた声で注文したのは漉餡の鯛焼きだった。
「いっこ?」
店員に聞かれて、頷きながら千円を手渡す。さぞ愛くるしい笑顔で食べるのだろうと期待して見物していたのに、軒下で鯛焼きをもつもつと噛むカワウソの顔の中にはひとすじの喜びも煌めきもない。またたく間に平らげたカワウソが、お金を掻き抱いて歩き出す。
隅田川に出ると、半円の形をした大橋のひかりが水面を青紫にそめていた。焼鳥の匂いが混ざる夜風に吹かれながら、カワウソが欄干に近づいていく。柵のすきまから顔を出し、川の匂いを二回ほど嗅いで、
キュピン
短く鳴いて持っていたお金を投げ捨てると、隅田川に浮かぶ屋形船から華やかな笑い声が上がった。思わず目をそらして空を見上げると、するどく光る三日月がこれから満ちていくところなのか欠けていくところなのか分からない。
心細くなったので、たくさんお金を使いたかった。焼鳥屋にでも駆け込んで一緒に飲みたいと思ったけれど、欄干に目を落とした時にはもうカワウソはどこにもいなかった。
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<6.28 追記>
このカワウソのお話の続きを、次男が書いてくれるという出来事がありました。
よかったら読んであげてください。
誤字はそのまま転記してます。
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つかれきった かわうそは、かわうそだけが行けるかわうそ王国に帰えって行ったのです。
かわうそは そこでトランプをしたり うのをしたり みんなで食事をしたりして、花金を楽しみました。
(おしまい)
