プラスチックの南極
水曜日。飛行機から降りると、目の前の海は大時化。
外国なので今が昼なのか夜なのかも分からない、他のツアー客に倣ってぞろぞろと埠頭に並び、荒れた海を見物してみる。
激しくうねっても泡立っても、海はみどりに透き通っている。
「このあたりは雨雲がうまれる場所なのです」
ツアーコンダクターが声を張り上げて紙の地図を向けてきたけれど暴風に翻るばかりで何も見えない。いいから早く南極に行きたいと思った。
防波堤から南極まで、私たちの体ならクロールでほんの5、6掻きらしかった。泳ぎは得意ではないけれど、足も着くので心配ないと聞いている。
待ちきれなくて、飛び込んだ。
いくらも泳がないうちにすぐに大陸に手が届いたので、白くて平たい陸地に手のひらをついて、あっさりと水から上がった。
南極に来るのは初めてだった。ついに私は南極にきた。
嬉しくて跳ねると、ドムドムとプラスチックの音が踵から背骨に伝ってきた。
他のツアー客が、南極のあちこちで写真を撮っている。
南極は寒いので長くはいられない、浮かれた観光客たちを轢き飛ばしながら大陸を走り回って観光していると、この世の最南端にあたる浜を発見。浜と言っても南極なので、氷がゆるやかに傾斜しているだけ、幅は2メートルほどしかない。
波がおだやかに打ち上がっている。
日の入りの時間だった。
やわらかな橙色の太陽がうすみどり色の雲にかかって、初めて見る宝石みたいに光っている。
沖には小舟が何艘も出ている。全員、何かしらのツアー客だろう。黒い影だけになった人たちも、一心に写真を撮っているのが分かる。
日はすぐに落ちて夜がきた。
つめたくない氷の上に腰を下ろした。
南極の月は大きかった。
するすると、月は左下に沈んで、すぐにまたのぼってくる。
ぱちぱちと手を叩くと、月は北極星の周りをぐるぐると周り始めた。
周る月が怖かったので、さっきよりも大きくぱちぱちと手を叩いた。
月が消えるとバツ印が空に浮かんで、同じように北極星の周りをぐるぐると周り出した。
周るバツは、怖くなかった。手を叩かずに立ち上がる。
ツアーの時間が終わろうとしていた。
埠頭まで戻って、飛行機に乗った。
ツアーコンダクターがハッチを閉め忘れたので、そばに座っていた太ったおじいさんと太っていないおじいさんが、食べていた幕の内弁当ともども飛行機の外に吸い出された。
最後にもう一度南極を見ようと思って身を乗りだすと、前に座っていた親切な女の人が、ハッチをきつく閉めてくれた。
配られたカシューナッツを食べながら、今度はコスタリカに向かった。
喉が渇いたのでツアーコンダクターに「ビールください」と頼んだけれど、「この飛行機はLCCなのでアルコールは提供していません」とニコニコしながら断られた。
