【映画】THE GUILTYを三幕構成で分解してみる
画面を見ずに音声だけでも十分に楽しめる、異色のサスペンス映画、『THE GUILTY』。
舞台は緊急通報指令室。
——だけ。
たった1つの空間の中だけで、1時間28分のドラマが展開されます。
今回は、映像作品なのに想像力をかき立てられる、類を見ない物語『THE GUILTY』について、三幕構成に基づいて分解してみようと思います。
三幕構成の参考書籍はこちら。
『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』フィルム・アート社
物語創作の教本と言っても過言ではない本書にある、ブレイク・スナイダー・ビート・シートに沿って分解します。
■ストーリー構成の分析
◇オープニング・イメージ
主人公は、アスガー・ホルム。
緊急通報指令室のオペレーターです。
冒頭からかかってくる緊急通報。
「助けてくれ」「息ができない」と緊迫した男の訴えに対して、冷静に淡々と応対するアスガー。
問いかけにまともな返答をしない男が、実はドラッグ中毒者であると推測。
手がかりに乏しい状態から男の実態を暴くまでの手際から、元々は経験豊富な警察官だったことがうかがえます。
◇テーマの提示
◇セットアップ
ブレイク・スナイダー・ビート・シート(以下:BSBS)では、テーマの提示→セットアップとなっていますが、この作品では一緒に行われているように感じました。
私用の携帯電話に着信が。
「あの件を記事にしようと思ってる」
という新聞社の記者からのアプローチを拒絶するアスガー。
初めてこの作品を観た時、これから起こる事件が本題だと思っていましたが、違いました。
記者の言う「あの件」に関わるアスガーの抱えている課題こそが、この『THE GUILTY』という作品のメインテーマでした。
記者との電話を無理やり切った後、強盗に遭ったという男から通報が。
パトカーを向かわせるためにコペンハーゲン指令室に連絡をすると、おそらく警察官だった時のボスがオペレーターをしており、少し和やかな雰囲気に。
何気ないシーンですが、アスガーがオペレーターという職務をどう思っているかが垣間見えます。
腕時計を見て、時間を気にする素振り。
「電話番なんて退屈だ」という愚痴るボスに「そうですか? 快適ですよ。楽しんでやってます」と答えるアスガーに、「なに言ってるんだ?」と言わんばかりに顔を向ける同僚。
仕事は手際よくこなしていますが、熱心に取り組んでいるわけでもなさそうで。
とはいえ、どうやら退屈な日々も、もうすぐ終わりのようです。
◇きっかけ
イーベン・オスタゴーという女性からの緊急通報。
ここから、観客の想像力をかき立てる展開が始まります。
イーベンのどこか噛み合わない会話。
電話の向こうから聞こえる、圧を感じる男の声。
そこからアスガーは、車を使った誘拐事件だと推測。
イーベンを乗せた車の種類と場所を特定するや、北シェラン指令室に連絡してパトカーを向かわせるものの、空振り。
条件に一致する車を止めることはできましたが、イーベンを乗せた車ではありませんでした。
イーベンを探す手立てを見つけるために、イーベンの自宅に電話をかけてみると、娘のマチルデが応答。
イーベンが元夫に無理やり連れ去られたことが判明します。
両親のただならない様子を見ておびえるマチルデに、アスガーはママを見つけて連れ戻すことを約束します。
ここからいよいよ、退屈な緊急指令室の業務が、緊張感と刺激に満ちたものに変わって。
アスガーの抱える課題に、じわじわと迫っていきます。
◇悩みのとき
イーベンを乗せた車の捜索をお願いした北シェラン指令室に、再び連絡。
まずは北シェラン指令室の要望に答えて、車のナンバーを伝えて。
車よりも、その所有者であり、イーベンの元夫であるミケル・ベルグの自宅に警官を向かわせようとしますが、遮られてしまいます。
北シェラン指令室は車の追跡にこだわって、アスガーの意思を汲み取ろうとしません。
イーベンを乗せた車は行方知れず。
イーベンからの連絡もない。
6歳の少女がおびえながら自宅で、アスガーからの連絡やママの帰宅を待っている。
警官を動かす北シェラン指令室とは、意思疎通がままならず。
あらゆる面で切迫した状況の中、アスガーのフラストレーションが溜まっていきます。
そして、交代の時間まで、残り15分。
◇第1ターニングポイント
アスガーは個室のデスクへと移動します。
他のオペレーターに迷惑をかけないように、という配慮から。
隣席のトーベンとの会話から、普段から気持ちが高ぶると攻撃的な一面を表に出していたのだろう、と考えられます。
暗いままの個室と明るい共同スペースのコントラストが、この物語が最初の転換点を迎えたことを示唆しています。
アスガーにおいては、周囲と隔絶された空間の中で、イーベンの事件に集中しようとする様子がうかがえます。
また、今回のテーマを踏まえると、孤独の中でアスガーが自身の課題と向き合うことになる、と捉えることもできるんじゃないかと。
◇サブプロット
イーベンを乗せたミケルの車の行方は分からないまま。
北シェラン指令室に車のナンバーは伝えたものの、アスガーはミケルの自宅を調べた方がなにか分かるかもしれない、と判断。
ミケルの追跡とイーベンの救出に勢いづく傍ら。
コペンハーゲン指令室で電話番をしているボスや、警察官だった時の相棒・ラシードとの会話で、アスガーの過去の輪郭が少しずつ鮮明になっていきます。
◇ミッドポイント
マチルデから電話が。
直後、イーベンの自宅に、警官が訪れます。
警官の視点が入ったことで、イーベン誘拐事件の緊迫感がより増していきます。
マチルデの服と手が、血まみれ。
マチルデ自身の怪我ではないものの、アスガーは安堵する様子を見せることなく、弟のオリバーを探すように指示。
やがて奥の部屋で見つかる——腹を切り裂かれ、息絶えたオリバー。
長い沈黙と暗がりに沈むアスガーの横顔が、静かに、この物語の絶不調を主張しています。
◇迫り来る悪い奴ら
いよいよ交代の時間に。
しかしアスガーは業務を延長。
カーテンをすべて下ろして、パソコンの画面とランプ以外に光のない暗闇の中に閉じこもります。
オリバーの事実から絶望するアスガーの心理描写に感じますが。
交代時間に対する抵抗の方が、意図としては強いんじゃないかと。
アスガーはミケルに電話をかけて、詰め寄ります。
オリバーを殺したのは、お前だろう、と。
そして、イーベンも殺そうとしているだろう、と。
ここで一気にミケルに対する印象が、元妻・イーベンを誘拐した悪い元夫から、家族を手にかける凶悪犯へと変貌します。
◇すべてを失って
衝撃の真実が明かされます。
オリバーの腹を切り裂いたのは——イーベンでした。
緊急通報をかけてきたイーベン。
オリバーを手にかけ、イーベンを連れ去った元夫、ミケル。
これが、この深刻な誘拐事件の図式。
そう確信していたアスガーの現実が、そして正義が、無残に崩れ去ります。
まさに、「すべてを失った」瞬間です。
◇心の暗闇
イーベンとミケルの真相を知って、フラストレーションを爆発させるアスガー。
衝動的に破壊されるスタンドライト。
赤いランプだけが灯る暗い室内。
ほとんどなにも見えないくらい画面が暗くなる瞬間は、個室に移動してから何度かありました。
でも、このシーンの暗転は、これまでとはまったくの別物です。
——光を遮るのではなく、打ち消しました。
その後の、相棒のラシードと電話をするアスガーの顔が赤く灯されるシーンも合わさって。
絶望感に打ちひしがれ、なにもかもを投げ捨てたような心象を、ありありと物語っています。
◇第2ターニングポイント
ミケルの下から逃げ出したイーベンから入電。
アスガーは真っ暗な個室から明るい共同スペースへ移動。
これから物語が上向きに展開していく兆しを見せます。
自分がオリバーを殺したと気づくイーベン。
橋の上から飛び降りようとする彼女に、オリバーは、自分もミケルも、イーベンを助けようとしていたことを伝えます。
そして——
◇フィナーレ
アスガーは、自分がイーベンを間違った方向に導いていたことを認めます。
重ねて、アスガー自身の「罪」を告白します。
なぜ、経験豊富な警察官が、緊急通報指令室のオペレーターになったのか?
イーベンの事件と並行して、少しずつ輪郭を帯びてきたアスガーの過去が明らかになります。
◇ファイナル・イメージ
事件は無事解決。
アスガーは静かに席を立って、緊急指令室から出ていきます。
暗い廊下を渡って、向こう側で光が差すガラス張りのドアの前に立ったところで、閉幕。
■最後に
初めてこの作品を観た時、「こういう映画もあるのか……!」と胸を躍らせました。
冒頭からずっと緊急通報指令室の中で、電話でのやり取りを介して事件が進行していく。
ラジオドラマよろしく、聴くだけでも十分楽しめるストーリーなのに、映画として十二分に成立している斬新さに興奮しました。
『THE GUILTY』を『SAVE THE CATの法則』の10のジャンルに当てはめると、「なぜやったのか?」だと思います。
経験豊富で優秀な警察官が、なぜオペレーターとして、退屈な日々を過ごしているのか。
「なぜやった」かというより、「なにをやった」か、ですが。
人間の心の邪悪な一面を暴く、という方向性としては合っているんじゃないかと。
この作品において、邪悪な一面というのは、タイトルにあるように「罪」としてえがかれています。
今回、イーベンの罪には書きましたが、アスガーの「あの件」に関わる罪がなんだったのか、あえて書きませんでした。
せっかくタイトルに関わる答えが2つあるので、そのうちの1つ——イーベンのそれに触れるだけにしました。
アスガーの「あの件」がなにか、もし気になれば、ぜひ『THE GUILTY』本編を観てもらえたらと思います。
