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WSJ Take on the Week 解説:S&P500上位20社に埋もれた1500億ドルの未公開投資──AIブームが利益を歪める構造

▶ 元エピソード: https://www.wsj.com/podcasts/take-on-the-week


為替レート(執筆時点)

執筆時点の主要通貨の為替レートは、1米ドルが163.80円、1ユーロが186.36円、1中国人民元が24.14円、1英ポンドが218.25円、1韓国ウォンが0.11円、1香港ドルが20.89円、1台湾ドルが5.06円、1豪ドルが114.36円、1シンガポールドルが126.89円で取引されています。

概要

多くの個人投資家がSpaceXやAnthropicといった未公開企業への早期投資を熱望しています。しかし、実はS&P500の上位企業を保有するだけで、すでに間接的なエクスポージャーが存在しています。こうした大企業による直接投資や企業ベンチャーキャピタル(CVC)を通じた未公開企業への投融資は、大規模な金額にのぼります。

一方で、この未公開企業への投資は公開市場の企業利益に歪みをもたらしています。未公開企業の資金調達に伴う評価額の再評価が、非現金の評価益としてS&P500構成企業の四半期利益を押し上げ、その持続性が疑問視されています。本エピソードでは、Dimensional Fund Advisorsのリサーチデータをもとに未公開資産の実際のリターンと、個人投資家が本当に取るべき投資アプローチを議論しました。

番組の焦点とゲスト

「WSJ Take on the Week」のホスト、Telis Demos氏は今回のエピソードを特別編と位置づけ、二人の専門家を迎えました。一人目は長らくWSJの「Heard on the Street」で編集者を務め、現在は無料のモーニングマーケッツニュースレター「Markets AM」を執筆しているSpencer Jakab氏です。もう一人は、大手資産運用会社Dimensional Fund Advisorsでアセットアロケーションリサーチのディレクターを務めるCaitlin Hendricks氏です。

番組では最近、IPO市場とプライベート市場からパブリック市場へ移行する企業について頻繁に議論してきました。代表例がSpaceXです。同社の株価は現在、IPO価格を下回って取引されています。Demos氏はこの事実を捉え、たとえIPOで購入しても利益が出ない一方、未公開のごく初期段階で株式を取得できた投資家がいるとすれば、その人物は莫大な利益を得ているはずだと指摘します。多くの投資家が「どうすれば自分もそうした未公開株に早期投資できるのか」と熱望し、それを後押しするファンドも数多く存在する中で、Hendricks氏が執筆した「公開市場を通じて得られる未公開市場へのエクスポージャー」というリサーチが、今回の議論の中心に据えられました。

公開企業はすでに「ベンチャーキャピタル」を内包している

WSJのTelis Demos氏が、ゲストのSpencer Jakab氏とCaitlin Hendricks氏を迎えて議論を始めました。Hendricks氏は、米国市場の時価総額の40%を占める上位20社の財務諸表を精査したところ、これらの企業が未公開企業に対して合計1000億ドルから1500億ドルもの直接投資を行っている実態を明らかにしました。Alphabet、Amazon、Microsoft、Nvidiaといった大手テクノロジー企業が、Anthropicに数十億ドル単位の出資をしていることは、その典型例です。

Hendricks氏は、こうした直接投資に加えて、上場企業が完全子会社として運営するCVCの存在を指摘しました。Googleの親会社であるAlphabetは100億ドル規模のプライベートエクイティファンドを有し、決済サービスのStripeなど数百社のポートフォリオを抱えています。さらに子会社を通じた投資もあり、Alphabet傘下の企業がインドのEコマース企業Flipkartを保有するといった例もあります。Demos氏は「私が広範な市場インデックスファンドを買うということは、こうした最もホットな未公開企業へのエクスポージャーをすでに手に入れていることになる」と指摘しました。

もっとも、こうした間接的な未公開資産の保有比率は、ポートフォリオ全体の約1%程度と小さいです。正確な数字の把握は難しく、CVCの評価額や子会社の財務諸表が親会社と統合されているため、過小評価されている可能性もあります。しかし、マクドナルドがChipotleをスピンオフして大成功を収めた歴史的な例があるように、公開企業の株主は知らぬ間に新たな成長企業への種を受け取っているのです。

プライベートファンドの隠れたコストと非流動性リスク

このような間接的なエクスポージャーがあるにもかかわらず、多くの投資家は高額なコストを支払ってでも、話題の未公開企業に直接投資できるファンドへと殺到します。現在はOpenAIやSpaceXといった話題性の高い企業があり、未公開のうちからアクセスしようとする声が一層大きくなっています。Demos氏とJakab氏は、一部の未公開資産ファンドが純資産価値(NAV)の2倍、3倍、あるいは10倍もの価格で取引される異常な実態や、極めて高い運用報酬・成功報酬を投資家に請求する構造について言及しました。さらに、非流動性、アクセスの難しさ、情報の不透明さ、複雑な税務処理といった多くの摩擦が、個人投資家の「早期投資」への障害として立ちはだかります。

これに対しDemos氏は、S&P500に連動するETF(SPYやVOOなど)の経費率はわずか0.03%であり、ワンクリックで購入するだけで、先に述べたようなAnthropicやStripeといった未公開企業へのエクスポージャーを事実上、無料で手に入れられると指摘。目先の話題に飛びつく前に、既存の低コストな手段を見直すことの重要性を強調しました。

S&P500の利益を膨らませる「再評価」のマジック

Jakab氏が直近のマーケッツAMニュースレターで取り上げたのは、こうした未公開投資がS&P500の利益に与える異常な影響でした。会計ルール上、上場企業が保有する未公開企業の株式は、新たな資金調達ラウンドで高い評価がつくたびに評価額が引き上げられ、その含み益が保有企業の四半期利益に計上されます。こうした再評価は今やAI関連企業で頻繁に発生しており、評価額が1兆ドル近い、あるいはそれを超える企業も存在します。Jakab氏の試算では、第1四半期にS&P500全銘柄の純利益の約12%は、この種の再評価益によって構成されていました。第2四半期には、AI関連企業でのさらなる評価イベントが相次いだため、この比率は2倍から3倍に跳ね上がる可能性があるといいます。

問題は、こうした利益が1セントの現金も生み出していないことです。Jakab氏は「人々はNvidiaやAmazonの利益を見て、Anthropicが素晴らしい業績を上げているに違いないと考え、その高い評価がさらに未公開企業の高評価を正当化するという、自己実現的な予言になっている」と分析します。市場がこうした一過性の評価益を恒久的な収益力として織り込み、S&P500全体のフォワード収益成長率が加速し続けるという非現実的な前提が置かれていることへの警鐘です。Jakab氏は「不況の底から抜け出すときのような急激な利益成長が、何の景気後退もなく起きている。過去最高の利益率の上に、さらに最高を更新するという見通しは、極めて非現実的だ」と断じました。

確かに、小売業、石油・ガス会社、金属加工業、粗利益率80%を誇るソフトウェアや半導体製造など、業種によって利益率は異なります。しかし、Jakab氏はそれでも利益率には限界があると指摘します。銀河旅行のような全く新しい産業への交代が市場で起きているわけではない以上、記録の上に記録を積み重ねるような予測は非現実的だというわけです。

Hendricks氏は、SpaceXの例を引き合いに出し、公開市場こそが真の価格発見機能を持つと述べました。資金調達ラウンドごとに「点」でしか評価されなかったSpaceXの価値は、上場後に日々の売買を通じて初めて信頼に足る価格が形成されます。「市場参加者のすべての情報が株価に織り込まれ、彼らが私のために働いてくれているようなものだ」とHendricks氏は表現します。公開市場が持つ透明性と流動性の力は、投資家が安心して価格を信頼できる基盤なのです。

こうした利益成長の持続性について、Jakab氏は市場全体の利益率が記録的な高水準にあり、アナリストのボトムアップ予測が今年後半から再来年にかけてさらなる加速を見込んでいることの危うさを指摘します。解放記念日の急落など一時的な調整はあったものの、景気後退も金融危機も経験していない経済で、文字通り「記録の上に記録」を積み上げるような利益率の達成は極めて可能性が低く、未公開企業の評価益という非現金利益によって歪められた数字に基づいた市場の期待は、いずれ修正を迫られる可能性が高いと警告しました。

番組はここで一旦コマーシャルに入り、Jakab氏は休憩明けに、これらのプライベート企業への投資がAlphabetやNvidiaといった大企業の収益に与えている影響について、さらに詳しく掘り下げることを予告しました。

未公開資産の本当のリターンは「幻のプレミアム」なのか

休憩明け、Demos氏は改めてJakab氏の無料ニュースレター「Markets AM」の質の高さに触れ、彼への取材を再開しました。

Hendricks氏が率いるDimensional Fund Advisorsのリサーチチームは、過去にプライベート資産のリターンに関する大規模な調査を実施し、現在も更新を続けています。その分析では、プライベートエクイティとプライベートクレジットにわたる約6000本ものファンドの過去4年分のデータを精査しました。人々がプライベート資産に投資する主な理由は、より高いパフォーマンス(プレミアム)への期待と、分散投資の効果の二点だとHendricks氏は整理します。適切なリスク調整とベンチマーク比較を行った結果、S&P500に対する長期的なアウトパフォーマンスは一部に見られるものの、ファンドの特性に合ったベンチマークを用いるとその優位性はほぼ消失します。

具体的には、ベンチャーキャピタルのリターンを小型株指数やマイクロキャップ指数と比較するとアンダーパフォームし、プライベートクレジットも、一般的なクレジット指数に対しては若干の優位性が見られるものの、より実態に近いハイイールド債指数に劣後するケースが確認されています。仮にマイクロキャップなど類似のインデックスにレバレッジを適用しても、この結果は頑健だとHendricks氏は説明します。Jakab氏が指摘するように、15~20年前のプライベートエクイティは「ドッグフード工場を利益の5倍で買う」ような割安取引が可能でしたが、現在は獣医や空調設備会社に至るまでプライベートエクイティの手が入り、市場が成熟しきっています。過去の高リターンが将来も続く保証はどこにもありません。

さらに深刻なのは、ファンド間のパフォーマンスのバラつきです。Hendricks氏の調査では、同じカテゴリーのファンドでも、公開市場換算後のリターンが0.81倍から1.13倍まで大きく分散していました。しかも、学術研究が示すように、マネージャーの運用成績には持続性がほとんど見られません。ある年に上位だったファンドが、次も上位に残るとは限らないのです。Hendricks氏は「プライベート資産の世界では、公開市場のように市場全体を買うことができない。だからこそ、ファンド選択に失敗するリスクが極めて大きい」と警告しました。加えて、たとえ「秘密のソース」を持つ優秀なマネージャーが存在したとしても、それにアクセスできるのは大手機関投資家が中心で、個人投資家には極めて難しいという現実もあります。

投資家がよく目にするIRR(内部収益率)についても、その数字を鵜呑みにする危険性が話し合われました。Hendricks氏は住宅購入の例を用いて説明します。単に500,000ドルで買って10年後に100万ドルで売れば100%のリターンですが、途中で賃貸収入を得たり、資本改善のための追加投資をしたりすると、実際にいくら儲かったのかはIRRだけでは見えにくくなります。投下資本に対する総回収額を示すTVPI(総価値対払込資本倍率)のほうが、どれだけの資金を投じて最終的にいくらになったかが明確で、直感的に理解しやすいのです。しかし、IRRは各年のリターンを複利計算していく過程で直感を失い、公開市場で得られる手取りのリターンとは異なる数字になってしまいます。一方で、TVPIには時間価値の要素が抜け落ちるため、両者には一長一短があり、単一の指標で公募市場と単純比較するのは危険です。

また、未公開資産に対する根強い需要の背景には、評価額の変動が少ないことがリスク調整後リターンを実際よりも魅力的に見せるという、錯覚の側面も無視できません。Demos氏は、この現象を「ボラティリティの迷子」と無礼に呼ばれることもあると紹介し、CalPERSのような大規模年金基金にとって見かけ上の安定性が魅力的に映る一方で、個人投資家が退職時までに必要なのは日々の価格変動の小ささではなく、最終的な資産額の大きさであると指摘します。短期的な値動きに一喜一憂せず、長期的な視野を持ち続けることの方が、人工的に変動を隠す商品を選ぶよりも重要であると議論されました。

解放記念日の市場急落を例に取れば、もし投資家が4月1日の相場を見た後、4月30日までぐっすり眠っていたならば、その間の激しい値動きには全く気づかなかったはずです。Hendricks氏は、こうしたボラティリティへの対処には教育が重要であり、長期投資家にとって大切なのは目先の値動きを平滑化することではなく、最終的にリタイアする時点でいくらあるのかを理解することだと述べました。

まずは安価な「国際分散」、それから未公開を考える

Jakab氏もHendricks氏も口を揃えて強調したのは、個人投資家にとって最初に取るべき一手は、手数料が高く非流動的なプライベートファンドではなく、低コストで広範に分散された公開インデックスへの投資だという点です。S&P500連動ETFの経費率が0.03%であるのに対し、未公開資産ファンドには運用報酬や成功報酬が重くのしかかり、税務処理も複雑です。

さらに、米国集中のポートフォリオを見直し、日本や欧州、新興国を含む国際分散を進めることが、真の分散投資につながります。Demos氏が「多くの人は米国以外に投資していない」と指摘したのに対し、米国は広範な世界インデックスの約3分の2を占めるに過ぎません。その巨大な存在感ゆえに、投資家のポートフォリオは気づかぬうちに極端なホームバイアスに陥りがちです。Hendricks氏は「過去10年は米国が素晴らしかったが、その前の10年は違った。45カ国に投資できるグローバルファンドの機会を活用することこそ、ただ飯に近い」と述べました。革新的なAI企業への憧れから、手数料の高いブラインドプールに飛びつく前に、ワンクリックで買える国際インデックスでポートフォリオの頑健性を高めることが先決なのです。

Jakab氏は、読者から為替リスクを懸念する声が寄せられることを認めつつも、昨年の市場を振り返り、米国が主要市場の中で最もパフォーマンスが悪かった部類に入ったことを指摘します。多くの投資家がポートフォリオの8割から10割を米国株に集中させる「ホームバイアス」の現実を踏まえつつ、そもそも米国の大企業自体がグローバルに事業を展開しているため、米国株だけでもある程度の国際分散効果は得られるものの、それでも欧州や日本のインデックスを少し組み入れることは、より安定的で低コストな分散投資を実現する有効な手段であると述べました。

話題性のある特定の未公開企業を追いかける行為は、結局のところ個別銘柄を選んで投資するのと同じだとDemos氏は指摘します。代替資産運用会社が個人投資家向けに退職金口座やターゲットデートファンドを通じたインデックス的な商品を提供する未来も考えられますが、現時点では、SpaceXのような夢のある投資先を特別に選び取ることは極めて難しいのです。

番組の締めくくり

Demos氏は最後に、Jakab氏とHendricks氏に改めて謝辞を述べ、今回の深掘りした議論を締めくくりました。公開市場に組み込まれた未公開エクスポージャーの実態と、それを取り巻くコストや利益認識の歪みを知ることは、投資家がより冷静で長期的な視座を持つための重要な一歩であるというメッセージで、エピソードは幕を閉じています。

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