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The Journal 解説:IMAXはなぜチケットが取れないのか──『The Odyssey』70mmフィルムとRich Gelfond氏が語る成長戦略

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2026年7月23日

概要

現在、劇場公開されている最大の話題作は、Christopher Nolan氏が監督した『The Odyssey』です。豪華なキャストを揃えたこの作品ですが、映画そのもの以上に注目を集めているのが、その撮影方法です。この作品は、IMAX専用に撮影されており、しかもNolan氏は70mmのIMAXフィルムカメラを使って全編を撮影しました。

これらのカメラは、1960年代に製造されたものも多く、現存する数が非常に少ないため、Nolan氏とIMAXは『The Odyssey』を実現するために新たなカメラ用ハードウェアを開発しなければならなかったほどです。世界には約1,800面のIMAXスクリーンがありますが、70mmフィルム映写機を備えた場所は約40箇所しかありません。

この記事では、IMAXのCEOであるRich Gelfond氏へのインタビューを通じて、博物館向けのニッチな技術に過ぎなかったIMAXが、いかにしてハリウッドの中心的存在へと変貌を遂げたのか、そして「チケットが取れない」という状況がなぜビジネス上むしろ狙い通りなのかを紹介します。

IMAXとの出会いと買収

Gelfond氏は、弁護士やドライクリーニング店チェーンの経営、投資銀行業務などを経てIMAXに関わることになった、いわば異色の経歴の持ち主です。1990年代に同社を引き継ぎ、それ以来約33年間、経営に携わってきました。

Gelfond氏がIMAXと出会ったきっかけは、あるプレジデントデーの週末に家族とワシントンのスミソニアン博物館を訪れたことでした。そこにあったIMAXシアターで、初期のIMAX作品のひとつである『To Fly』を鑑賞し、その体験に強く感銘を受けたそうです。翌日ニューヨークに戻ると、投資銀行から届く売却案件の資料の一番上に、偶然にもIMAXを売りに出す案件があったといいます。

Gelfond氏は、スミソニアンのような施設でこれほど成功しているなら、ハリウッド映画や商業シネコンと組めばもっと大きく展開できるのではないかと考えました。当時IMAXが上映していたのはクマやクジラ、アザラシを扱ったドキュメンタリー作品が中心で、上映場所も博物館や科学館がほとんどでした。彼は、動く座席の技術を持つRide Filmという会社とあわせて、手数料込みで約1億ドル(約163億円。1ドル=163.08円換算)でIMAXを買収しました。

ハリウッドへの売り込みとビジネスモデルの転換

当時のIMAXは、フォルクスワーゲンほどの大きさで数百ポンドもある巨大なカメラ、1つあたり3万ドル(約489万円。1ドル=163.08円換算)から4万ドル(約652万円)もし、フォークリフトで運ばなければならないほど重いフィルムプリントなど、極めて扱いにくい技術でした。劇場も独立した建物として建設するため、建設費に数百万ドルを要しました。

Gelfond氏がSteven Spielberg氏に「あなたの映画をIMAXで撮りませんか」と持ちかけたところ、「スクリーンが1,000面になったら電話してくれ」と言われたそうです。当時IMAXのスクリーンは55面しかありませんでした。

そこでGelfond氏は、独立した建物を建てるのではなく、シネコンの中にIMAXシアターを組み込むという戦略に転換しました。空調設備や売店を共用できるため、大幅にコストを抑えることができたのです。

AvatarとChristopher Nolanという転機

現代のIMAXを立ち上げた大きな転機は2つありました。1つは、AMC($AMC)との合弁事業です。まず5館規模の小さな案件から始め、続いて100館規模の案件を手掛けたことで、ネットワークが一気に拡大しました。

もう1つは、James Cameron氏の『Avatar』です。Gelfond氏は公開の約3ヶ月前にCameron氏から作品を見せられ、3D作品であるその映像を見た瞬間に、これがうまくいくと確信したといいます。IMAX版の『Avatar』は当時2億3,000万ドル(約375億円。1ドル=163.08円換算)の興行収入を記録し、1スクリーンあたりの数字はかつてない水準に達しました。チケットは数週間、数ヶ月前から売り切れる状況でした。

そして、シカゴで育ちIMAXシアターに親しんでいたChristopher Nolan氏が、監督として初めてIMAXカメラを本格的に使い始めました。2008年公開の『The Dark Knight』では一部のシーンをIMAXカメラで撮影し、その後『Oppenheimer』ではかなりの割合をIMAXカメラで撮影するなど、Nolan氏はIMAXを使った映像表現の言語を確立していきました。

全編70mmで撮影された『The Odyssey』

2024年2月、Nolan氏はGelfond氏に電話をかけ、全編をIMAXフィルムカメラで撮りたいと伝えました。そして、それを実現するために必要な10から15項目のリストを求めたそうです。Nolan氏にとって最も重要だった要求は、カメラの動作音を静かにすることでした。

クローズアップの撮影時には、カメラをブリンプと呼ばれる高性能の防音ボックスに収めます。これにより、Matt Damon氏の顔から2フィートの距離で撮影しても、針が落ちる音が聞こえるほど静かな環境を実現できるようになりました。

しかし、この作品を70mm本来の形で鑑賞できる場所は非常に限られています。70mmフィルムを上映できるスクリーンは、ニューヨーク市内に1面、全米で30面弱、世界全体でもわずか41面しかありません。

スクリーンが少ない理由と「チケットが取れない」ことの意味

Gelfond氏によれば、スクリーンが少ない理由は主に経済性にあります。適切な縦横比を備えた大きな劇場を建設するには多額の費用がかかり、多くの場合シネコンには収まりません。また、運用コストも高く、ニューヨーク68番街にある劇場では『The Odyssey』のプリント1本が5万ドル(約815万円。1ドル=163.08円換算)もするため、長期間かけて費用を回収する必要があります。したがって、特別な作品でなければ採算が合わないのです。

インタビュアーが「お金を払ってでも観たいのに、チケットが取れない」と伝えると、Gelfond氏はそれこそが狙い通りだと答えました。プリントのコストを回収するには、長期間にわたって常に満席にしておく必要があり、もしスクリーンが1,000面もあれば、このビジネスモデルは成立しないというのです。実際、ロンドンのBFYでは7週目、8週目まで既に売り切れており、ほぼすべてのフィルム上映館が5週間先まで満席になっているそうです。

上映作品の選び方

IMAXにはドキュメンタリーからハリウッド映画まで、多くの作品が上映を希望しますが、スクリーンが限られているため、Gelfond氏は難しい選択を迫られます。作品の選定は主に関係性に基づいて行われるといいます。Nolan氏はもちろん、『Dune』を12月に公開するDenis Villeneuve氏など、多くの映画作家や、Amazon($AMZN)傘下のMGMのようなスタジオとの関係を大切にしています。MGMとは『Hail Mary』を手掛け、IMAXで約1億ドル(約163億円。1ドル=163.08円換算)の興行収入を記録しました。

作品を選ぶ際には、スケールや規模、監督やスタジオ、プロモーションの内容、希望する上映期間、公開時期などを総合的に判断します。断らざるを得ないことも頻繁にあり、映画作家やスタジオにとっては失望を招くため、時には同時に2作品を上映したり、世界の別の地域で上映したりして調整を図るそうです。

競合ブランドとブランドの価値

IMAXの供給が需要に追いつかない状況を受けて、名称に「X」を含む競合ブランドが次々と登場しています。Dolby Cinema、AMC Prime、Regal RPXなどがそれにあたり、Disney($DIS)は自社のブランドをInfinity Visionという名称の下にまとめようとしています。

Gelfond氏は、これらの競合について冷静な姿勢を見せています。名称に「X」を含むのは、IMAXと似ていると消費者に思わせるためだろうが、消費者はそれほど単純ではないと述べました。Infinity Visionについても、新しい技術ではなく既存の劇場を1つの名称でまとめただけだと指摘しています。これは、IMAXが『Avengers』と同時期に公開される『Dune 3』にコミットしていたため、Disneyが独自のマーケティング形式を打ち出した結果だといいます。

Gelfond氏は、ブランドの価値の一部は排他性にあると認めています。IMAXは契約した劇場の周辺一定範囲内には新たな劇場を建設しないという方針をとっており、これによって各劇場の成功を担保しているのです。向かいの競合店はIMAXを導入できないため、代わりに「X」システムを購入することになりますが、それは自社にとって特段の脅威ではないと考えています。

今後の成長戦略

IMAXの時価総額は約20億ドル(約3,262億円。1ドル=163.08円換算)を少し上回る水準です。上場企業として株主価値の向上を優先課題とするGelfond氏は、成長への強い意欲を示しました。買収当時55面だった劇場は、現在約2,000面にまで増えています。

成長の方法は2つあると彼は言います。1つは劇場の数を増やすこと、もう1つはネットワークを通じて流す作品の量を増やすことです。昨年は、ハリウッド映画、外国映画、ライブイベント、ドキュメンタリー、コンサート映画など120本のコンテンツを扱い、記録的な1年となりました。

地域展開についても、中国が別の上場会社として800面の劇場を擁する一方、同じく巨大な市場であるインドはわずか30面にとどまっており、成長の余地があると見ています。

Wall Street Journalの同僚がIMAXの売却検討を報じたことについては、買収の噂には一切コメントしないという方針を示しつつ、戦略的なパートナーがこのブランドを次の段階へ引き上げる可能性については前向きな姿勢を見せました。

IMAXが劇場業界すべてを飲み込む未来はあるのか

消費者が映画館に足を運ぶ回数は減っている一方で、行くときには特別な体験を求めるという傾向が見られます。IMAXはまさにその体験を提供する存在です。Gelfond氏は、20年以上前の事業計画に、朝起きたときに「どの映画を観るか」ではなく「IMAXに行こう」と人々が言うようにしたい、と書いていたと振り返り、まさに今それが実現していると語りました。

では、IMAXがいずれ劇場業界のすべてを飲み込むのかという問いに対して、彼はそうした意図もなければビジネスモデル上もそうはならないと答えました。すべては経済性に帰着し、小さな都市ではIMAXシアターの採算が合わない可能性が高く、公開初週に売れるチケット数にも限りがあるためです。したがって、従来型の劇場と共存していくだろうというのが彼の見立てです。ただし、競合が自らの「X」劇場によって自分たちの首を絞めない限り、という条件付きです。

なお、Disneyは取材に対し、以前のInfinity Visionに関する声明を参照するよう回答しました。その声明では、同社の制作品質基準は他に類を見ないものであり、最も鮮明で明瞭な色彩と音響を備えた巨大スクリーンで作品を提供している、と述べられています。

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