木の話【桐】
「日本でいちばん軽い木はなんでしょう?」
これは、小学校の出前授業でよく出すクイズです。
答えは…、そう、「桐(きり)」です。
今回は、この桐という木がいかに不思議で面白く、そして昔の人たちの知恵が詰まった存在だったかというお話をお届けします。思わず「へえ〜!」と思っていただけると嬉しいです。
桐って、どれくらい軽いの?
桐は、日本の木材の中で最も軽い木のうちの一つです。実際、同じ大きさの杉やヒノキと比べて持ち上げてみるとビックリするぐらい軽いです。
これは、桐の木質が非常に柔らかく、細胞の中に空気を多く含んでいるからです。そのため、浮力も高く、水に浮くスピードも速い。まるで木の発泡スチロールみないな感じです。
軽い木なのに…
ここでクイズです。
こんなに軽い桐ですが、桐は何に使われる木でしょうか?若い人はご存じないかも知れませんが、若くない人?(笑)ならなじみがあるかも知れません。
昔、僕たちが子どものころ、結婚するとお嫁さんが実家から嫁入り道具として、家具や家財道具をトラックに積んで運び入れていましたよね。紅白幕で包まれた嫁入りトラックと呼ばれるものですが、もうすっかりなくなりました。
その嫁入り道具の一つしてほぼ必ず入っていた桐ダンス。そうです、桐はその名の通り、桐ダンスの材料に使われています。
では、桐ダンスは何を入れる箪笥でしょう?そうです、着物ですよね。江戸時代などの昔、着物は家の中でもっとも高価なもののうちの一つだったと思いますが、なぜ高価な着物を桐ダンスにしまっていたと思いますか?
調湿作用があるから湿気に強いから?
虫がつきにくいから?
それとも、軽い桐で作った箪笥は持ち運びしやすいから?
いいえ、もっともっとすごい理由があります。
答えは、燃えないから、なんです。
桐は、火に強い
木なのに燃えにくい?一見すると矛盾しているようですが、これが桐の最大の特徴。
実は、桐は熱を受けると表面が炭化して酸素を遮断し、燃え進まないという性質があります。しかも中がスカスカなぶん、火の熱が内部に伝わりにくい。つまり、燃え広がりにくい。
これを昔の人たちはちゃんと知っていたんです。
「火事になっても、桐のタンスにしまっておけば着物は助かるかもしれない」
まさに、生活の中の防災知識。いわば「木の耐火金庫」みたいな存在が、桐ダンスだったわけです。
古い金庫の中身は、実は桐
最近よくテレビで見る「古い金庫を開けてみた」企画。
大正時代や昭和初期の大きな金庫の中を開けてみると、中から出てくるのは、金ピカの…みたいな企画です。
金庫の中身はともかく、金庫の中の構造をみたことがありますか?よく観察すると、金庫の中の観音開きの扉や棚、引き出しなどに木が使われているのがわかります。それもほぼ桐で作られています。
「えっ、金庫の中に木!?」
とびっくりするかもしれませんが、これもまた火に強い桐ならではの工夫なんでしょうね。
貴重品を入れる金庫の内装に、あえて桐を使う。しかも、桐の引き出しには重要な書類や印鑑、家宝などがしまわれていたりする。
外は鉄。中は桐。この二重構造で、大切なものを守ろうという知恵が詰まっているんですね。
女の子が生まれたら、桐を植える
さらに、昔の日本にはこんな習慣もありました。
「女の子が生まれたら、庭に桐を一本植える」
え?なぜ?
それは、娘が嫁ぐときに、その桐の木でタンスを作って持たせるため。
桐は生長が早く、20年もすれば家具に使えるほどになります。赤ちゃんだった娘が大人になり、お嫁に行くとき…。
父親が庭の桐を伐り、製材して、タンスをつくり、それを嫁入り道具として持たせる。
なんて粋な話でしょうか。
桐ダンスは単なる家具ではなく、家族の歴史と思いが込められた宝物だったのです。
現代にも通じる、桐の魅力
では、今の時代に桐は使われていないのかというと、実はそんなことはありません。
最近では、桐の軽さと調湿性を活かした収納家具や、高級ギターのボディ材(!)、さらには断熱材としての利用まで、用途が広がっています。
しかも、桐は再生可能な国産資源でもあり、早く育ち、環境にもやさしい素材として見直され始めています。
そう考えると、桐は「昔の木」どころか、むしろ「これからの木」と言えるかもしれません。
桐から学ぶ、木と暮らす知恵
昔の人たちは、「軽いから便利」とか「燃えにくいから安心」とか、理屈で理解していたわけではないかもしれません。
でも、経験と観察を通して、桐の特性を暮らしに活かしてきた。
それが結果として、文化になり、習慣になり、今の私たちにも語り継がれている。
木の性質を知って、生活に取り入れ、次の世代に渡していく。それこそが、木育の原点のような気がします。
最後に──桐のように、しなやかに、強く
桐は、やわらかくて軽くて、なんだか頼りなさそうに見えます。けれど、いざというときに火に強く、大切なものを守ってくれる。
それって、どこかしなやかで芯のある人にも似ていませんか?
「軽いけど、深い」
「やわらかいけど、燃えない」
「育てれば、未来を支えてくれる」
桐は、そんな不思議な力を持った木なのです。
この話が、木の見方を少しでも変えるきっかけになれば嬉しいです。
次回はどの木にしましょうか? また、お楽しみに🌲✨
