”にかわ”って知ってますか? 昔の接着剤がすごすぎた件
はじめに…ご飯粒じゃなくて、にかわって知ってますか?
木工ボンド、スティック糊、瞬間接着剤…。今の私たちのまわりには、便利な接着剤がたくさんありますよね。でも、こうしたものはもちろん、昔はありませんでした。
「じゃあ、昔の人たちは何を使ってたの?」と聞かれると、私がまず思い出すのは…やっぱりご飯粒です。
子どものころ、紙を貼るのに家に糊がなかったら、ご飯粒をコネコネして糊の代わりに使った記憶、ありませんか?😁あれも、立派な天然の糊でした。
でも、もっと本格的な接着が必要な場面、たとえば木で楽器や家具を作るときは、一体なにを使っていたのでしょう?
実は、「にかわ」という素材があるのですが…みなさん、ご存知ですか?
「にかわ」とは?…動物から生まれた天然の接着剤
「にかわ(膠)」とは、動物の骨や皮、腱(けん)などを煮出して作る、ゼラチン質の接着剤です。素材として使われるのは、主に牛や馬、ウサギなどの皮・骨・腱。
これらを長時間水で煮て、タンパク質を溶かし出し、冷やしてゼリー状にし、さらに乾燥させて固めたものが「にかわ」です。
見た目は小さな粒や板のような形をしており、使うときはお湯でゆっくり溶かして液状にし、接着剤として使います。
なんだか、スープのダシをとってから接着剤にするような不思議な話ですが、これが驚くほどよくくっつく、昔ながらの万能接着剤なんです。
世界の伝統工芸と「にかわ」
「にかわ」というと日本独自の素材のように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。
この「動物由来の接着剤」は、世界中の伝統工芸や楽器製作に共通して使われてきた素材です。
古代エジプトでは、棺や家具の装飾に使用された痕跡が発見されています。
古代ギリシャ・ローマでも、製本や彫像の修復に使われていました。
ヨーロッパの中世以降では、バイオリンやチェンバロ、ギターなどの製作に欠かせない素材に。
中国や朝鮮半島でも、表具や筆づくり、木工芸の接着に用いられていました。
そしてもちろん、日本でも仏具や建具、楽器(琴・三味線など)に使われてきました。
つまり「にかわ」は、人類の木工文化における世界共通語ともいえる存在だったそうです。
にかわの“すごい”ところ3つ
では、なぜこれほど長く、世界中でにかわが使われてきたのでしょうか?
理由はとてもシンプルで、にかわには他の接着剤にない“すごさ”があったからです。
① 水に強いのに自然素材
乾燥したにかわは、汗や湿気に非常に強く、人の手に触れる場所や、高湿度の環境でもしっかり粘着力を保ちます。
木製の楽器、書道の表具、仏像の接着など、“人が触れ、長く使うもの”に最適だった理由はこの耐水性にありました。
② 加熱で繰り返し使える
にかわは加熱すると再び溶けるという特性があります。つまり、一度接着しても、温めれば外せるし、また再利用もできる。
これは修理や仮組みにとってはまさに理想的。「にかわが職人に愛される理由は“やり直しがきくこと”」という人もいるとのこと。
③ 分解しやすく、修理しやすい
にかわで接着されたものは、将来の修理を前提に作られているともいえます。
たとえばバイオリン。ストラディバリウスのような名器も、にかわで接着されているからこそ、何百年もの修理と再生が可能なのです。
今の合成接着剤だと、固まりすぎて“壊すしかない”ということも多々あります。未来の誰かの手に渡ったときに、また直して使える…そんな思いやりが、にかわには込められているのかもしれません。
にかわと音…音楽の世界を支えた“接着”
にかわのすごさは、単に“くっつく”だけではありません。実は音にも影響を与えます。
楽器にとっては、素材が振動をどれだけ伝えるかが命です。にかわは薄く塗っても接着力が強く、しかも振動を殺さない。だからこそ、西洋楽器でも和楽器でもにかわが好まれてきたのです。
そして、いまでもその伝統は受け継がれています。名だたるバイオリン職人の多くが、現代でも合成接着剤を使わず、にかわを選ぶのだそうです。
木と動物…「エコってこういうことかも」
にかわは動物由来の素材です。
現代の感覚では「動物を使うのはエコじゃないのでは?」と感じるかもしれませんが、むしろその逆。にかわは、動物の命を余すことなく使い切る知恵の結晶でもあります。
肉を食べるだけでなく、本来捨てられるような皮も骨も活かす。それを何十年、何百年も使うものに変える。これはまさに、現代の我々が目指している「循環型社会」そのものではないでしょうか。
木育的視点で見れば、にかわは“自然との対話”
木育では、木そのものの性質を知ることと同時に、「人が自然とどうつきあってきたか」を学ぶことを大切にしています。
にかわは、まさにその象徴的な感じがします。自然からいただいた恵みを、知恵と工夫で最大限に活かしてきた先人たちの知恵ですね。
瞬間接着剤などをみるまでもなく、便利なものがあふれる現代ですが、ときには「にかわ」のような、じんわりあたたかい接着剤のことを思い出してみてもいいのではないでしょうか。
何百年も前から、世界中で使われていた“天然の知恵”。何度でも使えて、修理もできて、未来にもやさしい。「にかわ」って、案外、現代の接着剤よりずっと“エコ”なのかもしれませんね。
