見出し画像

再出発

一学期の終業式。

その夜、

私はいつものように、

ココロへ電話をかけた。

電話の向こうからは、

いつもと変わらないココロの声が聞こえてきた。

「一学期、どうだった?」

そう聞くと、

ココロは少し考えてから答えた。

「歌とリコーダーが、

うまくできなかった。」

私は続けて聞いた。

「じゃあ、

夏休みは何を頑張る?」

「リコーダーが吹けるようになる。」

その言葉を聞いた瞬間、

私は、

「それか……。」

と思った。

もちろん、

歌もリコーダーも大切だ。

決して、

後回しにしていいと言いたいわけじゃない。

でも、

一週間前、

漢字の小テストがあった。

結果は、

合格点には届かなかった。

そこまでの過程を、

私は電話で聞いていた。

「朝早起きして勉強した。」

「ママに問題を作ってもらった。」

「先生に字を褒められた。」

ココロが頑張っていたことは、

よく分かっていた。

だから私は、

テストが終わったあと、

ココロと話をした。

「頑張ることは大切だ。

でも、その頑張りをどうしたら結果に結び付けられるかを考えないといけない。」

ただ時間をかける。

ただ書くだけ。

それでは、

同じ結果を繰り返してしまう。

「やり方を変えないと、

ずっと同じだよ。」

そう話したばかりだった。

私は、

ココロと一緒に暮らしているわけではない。

だから、

学校での様子も、

家での様子も、

全部を知っているわけじゃない。

私が知ることができるのは、

毎日の電話での会話と、

毎週末、

一緒に過ごす時間。

私に与えられているのは、

その限られた時間だけだ。

だからこそ、

何気ない会話も、

聞き流したくなかった。

それには、

理由がある。

ちょうど一年前。

私は、

適応障害で会社を休んでいた。

苦しんでいたのは、

私だけじゃない。

家族も苦しんでいた。

そして、

一学期の終業式の前日、

妻と二人の息子は家を出ていった。

あの頃の私は、

適応障害を理由に、

自分の苦しさばかりを見ていた。

家族がどれだけ苦しんでいたのか、

気付こうともしていなかった。

それでも妻は、

何も言わず、

私を見守り続けてくれていた。

そして、

ココロもアオトも、

「パパ、パパ。」

と、

私を慕ってくれていた。

私は、

そんな妻や息子たちの思いに、

応えられていなかった。

あれから一年。

私は仕事に復帰し、

一人で生活を始めた。

一人で暮らす寂しさは、

今も消えたわけじゃない。

それでも、

毎朝、

毎晩、

ココロとアオトの声が聞ける。

毎週末、

二人と一緒に過ごせる。

その時間があるから、

私は前を向いて歩けている。

だから私は、

この限られた時間を、

何よりも大切にしたい。

ココロの「頑張る」が、

本当に結果へ結び付くように。

アオトの「やりたい」が、

未来へ結び付くように。

父親として、

今の私にできることを、

精一杯やっていきたい。

だから私は、

ココロに伝えた。

「三日間、

自分と向き合ってみなさい。」

ノートを書くことが目的じゃない。

自分は、

何が得意なのか。

何が苦手なのか。

何ができて、

何ができていないのか。

まずは、

自分自身を知ること。

その三日後。

ココロは、

自分なりに考えたことを、

ノートいっぱいに書いてきた。

私はそのノートを見ながら、

一つひとつ話をした。

何が足りなかったのか。

どうすれば、

頑張りを結果へ結び付けられるのか。

そして、

これからどう歩いていくのか。

一緒に考えた。

一つの区切りとして、

私はココロと一緒に、

髪を丸めた。

髪型を変えたかったわけじゃない。

親子で、

もう一度、

同じスタートラインに立ちたかったからだ。

この夏休み。

どこまで成長できるかは分からない。

でも、

昨日より少しだけ前へ進むこと。

それが、

今の私たちの目標だ。

日進月歩。

そして、

今やれる事を。

いいなと思ったら応援しよう!