【掌編小説】置いてきた何かを
「ハハハ!」
私の家に彼の笑い声が響く。その音を聞くと、私も自然と笑顔になれる。
周りにいる友達も皆、つられて笑い始める。気づけば、笑い声が連鎖して、音が段々大きくなっていく。
彼が笑えば、誰かも笑う。そうやって笑い声が大きくなっていくことには、もう慣れてしまった。
「よく笑うよね、君」
「暗いよりマシだろ!」
私が彼に問いかけると、彼は笑って答えた。その時の笑い声は小さく感じた。彼の目を見つめる。笑ってる目の奥で、彼は何を感じているのだろう。
私はスマホを取り出し、画面に映る自分の顔を見つめた。彼の顔と見比べる。同じ形をしているのに、何かが違う。そんな気がした。
「令和ロマンの出番きたぞ!」
友達が大声で言うと、皆の視線がテレビに一斉に集まった。画面の向こうの人間が一言発するたびに、私の部屋に笑い声が鳴る。
私は周りの友達の顔を、一人ずつ眺めた。口角の上がり具合、頬の筋肉の出っ張り具合、目の細さはそれぞれ違う。みんなの顔が、同じゴム製のお面に見えてきた。
漫才の合間で、彼が一瞬真顔になった。私は慌てて他の友達の顔を見つめた。真顔になっている。
「ハハハ!」
私は笑った。
「え、今のとこ何か面白かった?」
「いや、何となく笑ってみた」
「変なやつ」
漫才の番組が終わり、友達は帰っていった。
散らかった部屋の片付けを始める。家の中に、音はない。 空になったお菓子の袋を、何度も握ってはなした。カシャカシャと、軽い音が鳴る。
「ハハハ!」
誰もいない空間に、私の笑い声が響く。さっき笑っていた感覚と違う。何度も何度も笑い続けた。
テレビをつけて、しばらく眺めた。誰かの笑い声が聞こえてくる。
「ハハハ!」
私は笑った。何の違和感もなく。
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