何度も直して、なんとか遊べるようにしてきた、うさぎのぬいぐるみ。
けれどある日、「もう限界かな」と思い、そっと引き出しにしまった。
その夜、夢で訪れたのは「かけら図書館」。
役目を終えたおもちゃや服の“思い出のかけら”たちが、本になって静かに並んでいた。
子どもと過ごした日々の、忘れられない光景と、ふとしたやさしさ。
母としての時間も、確かにそこに刻まれていた。
やさしくて、ちょっぴり切ない、親子の記憶のおはなしです。
うさぎのぬいぐるみの、長い耳がほつれて綿がのぞいていた。
それでも私は、何度も針と糸で直してきた。
耳、足、首元。小さなほころびをひとつずつ。
「リン、まだこの子で遊ぶ?」と聞くと、娘はお絵かきをしながら「うーん」と曖昧に笑った。
動物園に行った日の帰り道。
売店で「このこがいい!」って抱きしめて離さなかったうさぎ。
「なまえは、ぴょんちゃんにする!」ってすぐに決めたね。
そんな存在だったのに、最近はほとんど見向きもしない。
「もう、限界かな…」
私は、ぴょんちゃんをそっと引き出しにしまった。
まるでお別れのようで、少し胸がつまった。
その夜。
私は夢の中で、不思議な場所にいた。
高い本棚に囲まれた静かな空間。
けれど本の形は、どこか変わっていた。
小さな靴や、色あせた絵、毛糸玉。
「ページじゃない、思い出のかけらだ…」と直感する。
「ようこそ、“かけら図書館”へ」
ふくふくしたフクロウの司書が、眼鏡越しに微笑んだ。
「ここは、大事に使われて、役目を終えた“もの”たちが、本になって残る場所です」
案内された棚に、見覚えのある白くて長い耳があった。
ぴょんちゃんだ。
そのままページになって、ふわりと開いた。
「りん、ぴょんちゃんにも みせる〜」
動物園でのあの日、柵の向こうの本物のうさぎに向かって笑うリン。
熱を出して泣いた夜、ぴょんちゃんを抱いて眠る小さな背中。
「おかあさんにも、おそろい!」
自分のヘアクリップを分けて、私の髪とぴょんちゃんの耳につけてくれた朝。
たくさんの“優しさ”が、このページに綴られていた。
「壊れたのではなく、“思い出として形を変えた”のです」
フクロウはそう言って、白紙のページを一枚差し出した。
「まだ続きがあるかもしれませんからね」
朝、目が覚めると、ぴょんちゃんは引き出しの中に静かにいた。私はやわらかい布に包んで、クローゼットの奥にしまった。
「ぴょんちゃん、いないね?」
リンが部屋をのぞきこむ。
「うん、おやすみしてる。遊びたくなったら、また出してあげようか」
「……じゃあ、あいたくなったら、よんでもいい?」
リンは少し照れたように言って、笑った。
私はうなずいた。
そのとき、小さなページが一枚、音もなく綴じられた気がした。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! 