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狙われた蛇口 #シロクマ文芸部

 「蛇口から」というお題だったので、ここしばらく蛇口、蛇口、と蛇口のことばかり考えていた。そのせいなのか今朝掃除をしていたら、漫然とついていたTVから「葛飾区の公園から蛇口が盗まれた」という音声が聞こえてきた。あれ、夢かな。蛇口のことばかり考えてたからそんな幻聴が聞こえたんだろうか。

 気になって「蛇口 ニュース」と検索したらあった。本当にある、リアルな事件だった。それにしても蛇口を盗むっていうのはどういうことなんだろう。まあなんとなく「売るんだろうな」とは察せられるけれど、某新聞のネットニュースを見たら、「蛇口窃盗」は大阪や神奈川や愛知など全国津々浦々、広範囲に渡って頻発していて、盗まれた蛇口の多くは「真鍮製」の蛇口だそうだ。

 公園の蛇口って真鍮製なんだ。知らなかった。ステンレス製かと思ってた。またちょっと違う文言で検索すると、AIがすぐさま、真鍮は銅と亜鉛の合金で、水道など水の通るものに真鍮が使われるのは、加工しやすく錆びにくいからだと即答してくれた。抗菌性もあり衛生面でも優れているとのこと。子供のころ、何も考えず公園の水道の蛇口や学校の蛇口から普通に水を飲んでいたことを大人になってから「うえぇ」と思っていたが、まあそんな理由で色々考えられてしつらえられていたのねと思う。

 ネットニュースによると真鍮は売ってもさほど高くないらしいけれど、他にステンレス製の手すりなども盗まれているらしいので、蛇口もステンレスだと思って持って行ったのかもしれない。背景にはこのところの金属の高騰があるといわれているようだ。でも犯行は夜間で、その手口は謎に包まれている。たいてい、元栓は閉じられているらしい。計画的集団的犯行のように思える。でも今のところ、目的も犯人の目星もついていないようだし、集団なのか個人の犯行なのかもわかっていない。とにかく誰かが「あれ、蛇口がない」と気がつくまで、公園はいつもの公園の顔をしているということだろう。

 流されるまま次々とネットニュースを見ていたら、なんとトイレの配管まで盗まれているらしい。タイに住んでいた時、タイの水道インフラはそもそも計画性がなく、海抜ゼロメートルで常に水が染みているような環境で、水道管が腐食し水が汚れるのだという話をよく耳にした。しかし最近は、もはやタイだけの話ではないなと思う。日本のインフラだって戦後の高度成長期に突貫工事のように進められたことに変わりはなく、盗まれるという心配以前に、劣化も相当進んでいるのではないかという気がする。年の初めに起こった都会の真ん中での道路陥没事故も記憶に新しい。そのうえ窃盗事件が相次いでいるというのは、これからインフラを新しくしなければならいのに、しようとしても金属が足りない、あってもお金がかかり過ぎる、ということに直結している気がしてならない。

 私は『スターウォーズ』で育った世代だが、スターウォーズというのは、文化文明が「劣化」していく物語だ。遠い銀河の果てで、文明が栄華を誇り、衰退していく。歴史的に見ても、どんなに繫栄した国家も栄枯盛衰は免れない。地球規模では科学は進歩していて、AIだのシンギュラリティ―だのと、人類史としては進んでいるような気がするが、頭から上のアッパーだけの進歩という印象がしている。アンダーグラウンド、つまり足元を忘れてしまうと、まさに文字通り足元をすくわれかねないんじゃないか、などと珍しく社会的なことを考えてしまった。

 ネットニュースの見出しのひとつに「狙われた蛇口」というタイトルがあって、それがなんとなく、シャーロックホームズなどいにしえのミステリー小説のタイトルみたいだなと思い、このエッセイのタイトルに使わせてもらった。「狙われた」と聞くと、連鎖的に、昭和の時代にあった『ねらわれた学園』(眉村卓)という小説を思い出す。角川映画全盛期に薬師丸ひろ子主演で映画化されて、私は映画は観ていないけど薬師丸ひろ子の表紙の小説を読んだ。内容はだいぶ忘れてしまったけれど、あの頃『時をかける少女』(筒井康隆)や『戦国自衛隊』(半村良)なんかも次々角川で映画化されていた記憶がある。文庫本の表紙が全部映画の表紙だったのが懐かしい。星新一、小松左京、筒井康隆がSF御三家と言われていた時代。栗本薫のグイン・サーガの時代。新井素子がSF界のアイドルだった時代。

 令和になって、まさか蛇口が狙われるとは——
 狙っているのが宇宙人、だったらほんとにSFなんだけど。
 ——さすがに違うと思う。
 たぶん。——たぶんね。

今回はエッセイで参加します。
小牧部長、宜しくお願いします。

#シロクマ文芸部