最愛の夫が遺した絵――Museum Collection #10 戦没画学生慰霊美術館「無言館」
全国の美術館・博物館が所蔵する古今東西の名品を、学芸員の解説とともに紹介する「ミュージアム・コレクション」。
『本郷』173号よりお届けします。
最愛の夫が遺した絵
「夫は本当に優しい人だったの。お腹が空いていても『自分は食べたから』って言って、母親や私にお芋を分けてくれたりね。優しいのよ、ものすごく」
夫・雅(ただし)さんについて語る川﨑文子(かわさきふみこ)さん。昨夏、東京のご自宅でお話をうかがった。結婚生活は二年足らずだったが、思い出話は尽きない。
川﨑雅は明治四十五年(一九一二)香川県生まれ。東京美術学校(現・東京藝術大学)日本画科に入学し、昭和十年(一九三五)卒業。在学中に帝展(現・日展)に初入選し、その後も六回の入選を果たす才能の持ち主だった。昭和十八年、妻と一人娘を残し再応召。終戦の二ヵ月前、フィリピン・ルソン島で戦死したと伝えられている。三十三歳の若さだった。戦争は、あらゆる人の人生を、あらゆる情熱を、才能を、理不尽に断ち切ってしまう。
長野県上田市の戦没画学生慰霊美術館「無言館」に雅さんの作品が三点並べられている。中でもこの『馬』は人気が高く、雅さんの生命に向ける温かい眼差しが伝わってくる。
無言館に絵を預けてくださっているご遺族の中で最高齢の文子さん。百歳になられた現在もお元気で、今も毎朝毎晩、お仏壇の前で雅さんとの会話を欠かさない。
「戦争がなければ、ご主人はどんな人生を歩んでいたと思われますか?」
「ずっと絵描きだったと思いますよ。本当に絵を描くのが好きだったから」
(みしま さやか・無言館館主代理)

川﨑雅筆 制作時期不詳
絹本着色 43.8×56.8cm
遺族からの寄託作品
