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ユメと私

第四章 光の充電

  ソフィアが鼻歌を歌いながら宇宙をボーッと眺めていると、 突然、「エリーちゃん、好きな人が欲しいんだって。願いを投げたわよ。」と言いながら、おばあちゃんが宇宙船に現れた。同様にその願いを聞きつけた、クルーたちも続々とキャンドルに火がポッ、ポッ、ポッと灯るように宇宙船に戻ってきた。
「ねーミミちゃん、エリーちゃんの初恋ってどう思う?素敵な脚本かいてくれないかい?」とおばあちゃんはミミに頼んだ。

 ソフィアは、おばあちゃんの提案を聞いた瞬間、嬉しさとワクワクが止められず、椅子から勢いよく立ち上がり、ミミの顔をパッと見た。
 「はい、わかりました!」ミミは嬉しそうに返事をすると、あっという間に脚本は完成し、お父さんは脚本見るなりこう言った。

「これも、面白そうな脚本だ。さぁ、今回のキャスティングは、どうしようか。」お父さんは、『地球の宿題帳』を読み取り機に入れ、今のエリーに必要な人員計画を立て、カメラで地球を覗き込みさらに要員を絞り込む。

 「ソフィアさん、早速この宇宙船に連絡して下さい。」ソフィアは急いでいくつかの宇宙船へ通信し、エリーの初恋ドラマ出演の同意を得た。それぞれの宇宙船も同時に、エリーと出会う為のタイミング調整が始まると、宇宙船からエリーと出演者達へ光の糸が降りて行き、『エリー、演者、宇宙船』を繋ぐ複数の三角形の光を作り出した。

そして、「ビビッ」とタイミングがあい、お互いがお互いを引き寄せ合う。

 それを感じたお父さんは、「よしっ、食いついたぞ。みんな揃ってますか?さぁ、始めるよ。よーいスタート!」と撮影クルーへ合図を送った。

エリーと出演者達へ光の糸が降りて行き、複数の三角形の光を作り出した


 「ねーねー、エリー!学校の近くの本屋で、アルバイト募集の広告みたよ!学校帰りに行ってみる?私も一緒にバイトしたい!」と、ユリの明るい笑顔が朝から眩しすぎる。

 ユリは、私の席の後ろに座るクラスメイト。ずっと前から友達であったかのように、初めましての高校の入学式の日からフレンドリーに話しかけてきた。天真爛漫の明るい性格に加え、目鼻立ちがはっきりした美人で、女子からも男子からも人気がある。シャイで控えめで、居るか居ないかわからない幽霊のような私とは正反対。それなのに、ユリと私の波長はなぜだかピッタリと合った。

 その日の放課後、「行ってみようよ!」とユリに手を引かれるがままに行ったバイトの面接はあっけなく終わり、その日のうちに二人とも採用された。
 数日後の土曜日、バイトの初日を迎えたが、私には不安しかなかった。
「店長の木下さんって、無表情で、話し方もなんて言うか、一方的で、全然他人に興味がなさそうじゃない? 面接の時、怖かったなぁ。木下さんと一緒に仕事できるか不安だよ。私、あーいう男の人苦手なんだよね。」とユリに相談していた程だった。

 「宮本さん、佐藤さん。今日から藤井くんが新人指導係だから。わからないことがあったら藤井くんに聞いて。」と無愛想な店長から藤井くんを紹介されると、ユリは私の顔をチラッと見て「良かったね」と言いたそうにニコって微笑んだ。
 「オレ、国際大の二年で、ここの本屋でバイトを始めて半年なんだけど、仕事は、難しくないからすぐに覚えられるよ。」
「(あ。か、かっこいい。笑顔が可愛すぎる。)
は、はい、よろしくお願いします。」とポッと照ってしまった顔を見られないように、うつむきながら返事をした。

 藤井くんの笑顔を見た瞬間からドキドキが止まらない。今まで男の子が苦手で、あまり関わらないように生きてきたから、こんな気持ちになれたのは人生で初めての事だった。
 中学校の頃、周りには付き合ってる人達はいたけれど、ガキっぽい同級生の男子には、こんな感情を抱いたことがなかった。「高校に行ったら、好きな人ができたらいいなぁ。」なんて、思った事はあったかもしれないけれど、こんなに急にかっこいい人が目の前に現れるなんてビックリして、心臓が爆発してしまいそうだった。


 三日間の研修期間の最終日の今日、開店前の本の補充から仕事が始まる。
 藤井くんは冴えない私にも、いつも優しく丁寧に仕事を教えてくれているのに、心臓の鼓動だけが加速するばかりで、思考は遅くなり、見た目も悪ければ、仕事もできないポンコツになってしまった気分だった。
 隣同士に並んでダンボールから雑誌を取り出して並べていると、突然、藤井くんが「宮本さんって、彼氏いるの?」と聞いてきた。
「(なんでそんなこと聞くの?彼女募集中って事??)えっ、あっ、いないです。」と震える小さな声で答えると、「そうなんだぁ。一緒だね。」って藤井くんは、笑っていたが、私は、緊張のせいでブサイクにしか笑えない。
 本当に、最悪だ。
 顔を見られる前に、急いでに段ボールの中の雑誌に手を伸ばすと、表紙に書かれていたタイトルに目が止まった。
『この夏のおすすめデートスポット特集』
勝手な想像が一気に浮かび上がり、思わずまたニヤけてしまう。



 いつもは、子供連れの家族やサラリーマンのお客さんが多いのに、なぜか今日は、カップルのお客さんがいつも以上に多く感じる。店内に貼られているベストセラー本のポスターには、『ドキドキが止められない、甘酸っぱい恋物語~恋するあなたへ~』の売り文句。
 どこを見ても、『愛』とか『恋』とか、この世は浮かれた恋愛のことばかりで埋め尽くされているかのように思えてきた。それに、さっきから店内で流れてるこの曲。最近の流行りのラブソングをリピートしすぎで笑えてくる。

 耳に残る流行りのラブソングを口ずさみながら、誰もいない倉庫でブックカバーを折っていると、
「宮本さん、プライスレスの新曲好きなんだぁ。俺も好きなんだよね。」と言いながら、狭い倉庫の入り口で作業していた私の後ろをすり抜けていくように、藤井くんは倉庫の奥にかけ足で入って行った。
 体が一瞬にしてポッと熱くなり、気づいた時にはお手洗いに逃げ込んで、真っ赤になった顔を、鏡の前でボーっと見つめていた。



 次の日の放課後、ユリと藤井くんと三人で初日以来初めて同じシフトに入った。私とユリはレジ担当で、藤井くんは遠くで本の補充の作業をしている。ついつい藤井くんをボーッと眺めてしまっていた。
 「あっ、やばい。ユリに見られたかも。」と思い、横に立っているユリをちらっと見ると、ユリも藤井くんのことを微笑みながら見つめていた。
 その瞬間ユリは、「あっ!バレた!」って顔で私の顔を見て、恥ずかしそうにこう言った。「私、藤井くんのことが好きかも。」
 一瞬、時が止まった。
「えっ。あっ。へーそうなんだぁ。」
 それから、頭が真っ白で仕事も失敗ばかり。無愛想な店長が私の尻拭いに来るたびに、怒鳴られるんじゃないかとビクビクしながらも、なんとかバイトを終えられた。
 ユリに話しかけられまいと逃げるように本屋を出ると、途中、激しく雨が降りだした。
「今日の朝の天気予報では雨になるなんて言ってなかったのに!なんで??私が何をしたって言うの?人に迷惑をかけないように、悪いことはしないようにって生きてるのに、なんで、こうなって欲しくないと願うことばかり起きるわけ?神様は私にどうしろって言うのよ。どうして私ばかりこんな目に合うの?」
 完璧な失恋ドラマの様なシチュエーションと、涙を流しながら走っている私の姿は、なんだか視聴者の涙を誘うドラマの悲劇のヒロインみたいだと俯瞰で見ている自分もどこかにいた。

 家に着くと勘のいいお母さんに話しかけられる前に、二階に駆け上がり『話しかけないで!』と伝わるように部屋のドアをバタンと勢いよく閉めた。

 ベットに置かれていた雑誌をスッと床に放り投げ、倒れるように寝転がり、クマのぬいぐるみのココアをたぐい寄せてギューっと抱きしめて泣いていると、枕元に置いていた携帯電話がブルブルと鳴った。ユリだ。何も言わずに帰ってきてしまったから心配して電話をして来たのだろう。
 でも、今は話したくない。鳴り止まない電話をギュッと握り締め、「もう消えてしまいたい。私なんて、消えてしまった方が、みんな幸せになるんだ。」と、ココアのお腹に顔をうずめると、疲れ切っていた私は、いつの間にか眠りに落ちていた。

なんで、こうなって欲しくないと願うことばかり起きるわけ?


 
 薄暗いカラオケボックスに、ラブソングがしっとりと流れ、スポットライトの当たるステージで、一人、体を揺らしながら歌っている女性がいる。少しユリに似ている美人だが、カエルの着ぐるみを着ていてる。

 彼女は、私の存在にハッと気づき歌うのをやめて、満面の笑みで話し始めた。
「すぐに人生を諦めてしまいたくなるような『低空飛行』だって全然いいの。ちょっとバランスを崩すだけで、地面に翼を擦ってしまいそうになるけど、いいのよ、それで!
 私が何度も飛行機を墜落させてしまったから、あなたは大丈夫。エリーは、もう学んでる。絶対に墜落しないから心配しないで。」
いつの間にか、彼女は私の隣の席に座り、私の手を握っていた。

 そして、話し続ける彼女の背後にあるテレビのスクリーンに映し出されているのは、彼女の思い出なのだろうと、何となくそう思った。

 「あっ。そういえば、私は、ソフィアで、あなたは私の宇宙船の後継者なんだけど、覚えてる?あなたの記憶に少しだけ、私の地球旅行の記録も残っている事に気づいているはずよ。
 エリーが衝動的に人生を終わらせてしまうのではないかと、あなた自身に恐怖心を抱くのも私の記録の一部。」
彼女は申し訳なさそうに深いため息をついた。
 
 「私はね、恋することを禁じられて、決められた人との結婚生活では、子供もできず、能無しだと罵られ、心底何もできない自分に絶望していたわ。たくさんの人々から注目を浴びる立場だったのに、完全に自信をなくしていた私は、人から注目されることが怖くて怖くてしょうがなかった。ずっと孤独で、人を愛する経験ができないまま、光の充電の為に強制的に宇宙に帰らざる負えなくなってしまったの。
 理由がわからないのに、人から注目を浴びたり、恋することに臆病になっていたのは、宇宙船から消えない私の記録があなたの記憶にあるからなの。ごめんね。」彼女の涙がポロっと私の手の甲に落ちた。

 「私は、光の充電の為に宇宙に帰ったけれど、充電は地球に住みながらもできたんだって事に、帰った後にあっけなく思い出したわ。私の記録が記憶として残ってるエリーだからこそ、伝えておくべきだと思うの。私の様に何度も何度も忘れてしまうのは、あまりにもかわいそうだから。」

 「光の充電を小まめにする事が、着ぐるみの消費期限の最後の最後まで地球旅行を全うするコツ。
 エリーの心がときめく『恋』のように、理由もない、根拠もない、ドキドキ、ワクワクする気持ちや、周りの状況も時間も忘れ夢中になること、そんな宇宙感覚の浮力のようにフワフワと浮かれる気分、それが、まさしく光の充電中のお知らせよ。
 地球と一緒に時を刻む人間感覚は、『時』と共にに増える責任、役目、立場、お金とか、見返りのある事に価値を見出す。それと反比例するように、見返りのない事に価値をつける宇宙感覚は必要ないと感じて、『我慢』を選択するようになる。
 そもそも、光の充電を奪うもの、それは人間感覚の『我慢』なのよ。

 地球というコミュニティでは、決められたルールの中で、調和を取り合い、物質的な物事から、目に見えない感情までシェアして生きているでしょ?だから、 『我慢』は地球で生きていく上で、学ぶべき人間感覚なんだけど、そんな重力ばかりを感じていては、あなたが真っ暗な谷底まで押し潰されてしまうわ。だから、時には、宇宙感覚の浮力が必要になるのよ。

 あなたの光は宇宙感覚そのもので、宇宙感覚は衝動的欲求の塊なの。だから、宇宙感覚で生まれてくる赤ちゃんの時から、私たちは自分の欲求が全て通らない事を少しづつ学んでいるのよ。眠たい、お腹が空いた、心地が悪いと泣き続けても、欲求を受け入れてもらえない時も、もちろんあるでしょ?だから、無意識に我慢を繰り返すようになるのよね。

 無意識の我慢は漏電状態。気付かぬ内に充電がみるみる減って、残量通知が、体の不調として現れてから初めて漏電に気付くことは、地球で生きていればよくある事。

 文明の発達の流れに乗っている人々は、光の気(エネルギー)を分散させ複数の事をスピーディー行うことを学んでいる。
 でもね、忙しい日々を生きる人々にとって、分散してしまった光の残量を把握することはすごく難しいの。
 でも怖がらないで!気付かない内に、エリーの充電が底をつきそうになってしまったら、散り散りになった気を全て回収して、エリーの元へと戻したらいいだけの事。
 いい?全ての気を自分自身に戻すように、息を大きくゆっくりと吸い込み、宇宙の記憶『無』を思い出すだけよ。
地球に生まれて一番最初に覚えた呼吸。
一番シンプルな機能だけの状態に戻してあげるだけなの。簡単でしょ?

 ありとあらゆる所まで気を配り、気を使い、気にかけ、気を張り、気を揉んで、些細なことを気にして、他人からの目が気になって、気を取られ、気づかぬうちに光の気をあなたの周りや、会ったこともない画面上の他人にまでに消費していたことに、やっと気づくことができるでしょう。

 時を刻まない宇宙感覚は、いつまでたってもフレッシュなまま。
純粋で素直でシンプルに物事を考えていた子供の頃と全く同じ。
宇宙感覚を思い出せない時は、子供の頃のエリーに聞いたらいいのよ。キャッキャと笑っていた子供のエリーは光の充電がバッチリだったんだから。
 笑い声の周波数は、宇宙空間で浴びていた太陽光のエネルギーの周波数と同じだからこそ、最高の光の充電方法なのよ。」
 ソフィアはとても表情豊かで、さっきは泣いてたかと思うと、今度は少女のような可愛らしい笑顔でウィンクした。

 「光のエネルギーが充電され始めると、光の輝きは周りが気付くほどよ。あなたの目から、体全体からキラキラが溢れ出す。『見えない光の輝きが見える』そんな不思議な力が備わっているっていう事も、人々が宇宙で、光の存在だったことを忘れていない証拠だと思わない?

 エリーちゃんの大事な大事な光なのよ!あなたにしか価値がつけられないプライスレスなものに、そして、あなたを輝かせる為に使って欲しい。恋をしているあなたの輝きは、プライスレスよ。」と言って、カエルの着ぐるみを来たソフィアという女性は、流行りのラブソングの続きを歌いながら暗闇に消えていった。


恋をしているあなたの輝きは、プライスレスよ

 ♪チャラランラン、チャラランラン♪
6時にセットしていたアラームがなり、目が覚めた。

「頭が痛いし寒気がする。」部屋の電気も消さずに、雨に打たれたままの格好のままで朝まで眠ってしまった。ボーっとした視線の先に開いたままの雑誌が落ちていた。そのページが何故か気になって、うつ伏せのまま目を凝らし焦点を合わせた。

『今月の恋占い~山羊座~片想いのあなたにチャンス到来!恋して輝くあなたを周りはほっとかない!あなたの恋はここからジェットコースターのように進んでいく予感。』
何これ、嘘ばっかり。
藤井くんの事もユリの事も、もう考えたくもないんだから。
これ以上、辛い思いをするのは、もうたくさん。
願いは叶うと信じるよりも、諦めるた方が、私は傷つかないで済むんだもん。私の願いが叶ったことなんてないんだから、これでいいんだ。

恋して輝くあなたを周りはほっとかない!

 宇宙船では、またお父さんがさんが
「どうして、エリーは、願いが叶わないって思っているんだ?」とプンプンしていると、地球旅行のベテランのおばあちゃんがこう言った。
「あれ?もう、地球の感覚、忘れたのかい?あぁ、監督は撮影クルーになるのが初めてだったね。私たちクルーがキャッチする主人公の願いはさ、全て、『そこから何かを学び経験したい』という願いに変換されているのよ。主人公が考える、『人生をかけた大きな願い!』だとか、『ちっぽけな願い』だとか、そんな願いの大きさや良し悪しは、宇宙船からしてみたら違いの分からない同等なものであって、『こうなって欲しい』ってことも、『こうなって欲しくない』ってことも、こちらに届くのは『欲しい、欲しくない』なんて関係の無い、ただ主人公が強く想像した状況だけ。
 例えば、主人公が「こんな状況にだけはならないで!」と、主人公にとっての悪夢の様な状況を繰り返し想像しているのならば、私たちが受け取る主人公の願いは、「お願いです、その状況を作り出してください。私はそこから何かを経験し学びたいのです!」って変換されて私たち側に届いているってこと。だからね、私たちは全ての願いを叶えてあげてるんだけど、主人公は気付かないことがほとんどなのよ。」と、おばあゃんは、柔らかい表情でお父さんをなだめると、お父さんは、「なるほどね、だからエリーにとっての嬉しい願いが叶うと、奇跡が起きた!なんて言ってエリーは喜んでいたんだね。」と納得した様子だ。

 となりで二人の会話を楽しそうに聞いていたミミは、嬉しそうにエリーとの思い出を話を始めた。
「エリーちゃんが絵本を読めるようになった頃、公園の野良猫だった私に、面白い絵本を読み聞かせてくれました。
 梨の木にはたくさんの実がなっていて、木の上にいくほど、梨の実は丸々と大きく美味しそうに見えます。小さな女の子は、まず木の下のほうになっている手に届きやすい梨を取りました。その梨は、女の子の小さな手のひらにはサイズの梨でしたが、食べてみると、おいしい食べ頃の梨でした。
 今度は、上の方になっている大きく丸々した梨が食べたてみたくなりました。ハシゴをかけて取ってみると、下から眺めていた時は食べごろに見えたのに、食べてみると、まだ熟れていない不味い梨にがっかり。ポイッと捨ててしまったのです。
 その様子を木の影から見ていたリスは、次の日に大きな梨を取って女の子の家の窓辺にそっとおいて、窓をトントンとノックして去って行きました。女の子は、大きな梨に大喜び。でも、食べてみると硬くて美味しくない梨でした。次の日も、その次の日も大きくて美味しそうな梨をリスが運んできてくれますが、食べてみると美味しくない梨ばかり。
 そして、美味しい梨を期待するのにもう疲れた女の子は、次の日、リスが置いていった梨を一番お気に入りの可愛い袋に入れて、ついでにリボンもつけて、「毎日、梨を運んでくれてどうもありがとう。でも、もう大きな梨はいりません。」と手紙も添えてリスに返すことにしたのです。
 しかし、その日からリスは一向に表れなくなってしまい、大きな梨はお気に入りの袋に入ったまま窓辺に置かれたまま。
 梨の事をすっかり忘れてしまっていた頃、リスが窓をトントンと叩くので、女の子が窓を開けるとリスは逃げて行ってしまいました。お気に入りの袋が窓辺に置きっぱなしになっていたことに気づき、梨の事をやっと思い出した女の子は、梨を袋から取り出してみることにしました。そうしたら、甘い香りが部屋中に広がって、思わずカプっと一口食べてみると、なんと、今までに食べたことのない程に甘くて、美味しい梨になっていたというお話です。」
 お父さんは少し寂しそうな表情で
「あー覚えているよ。その本は、エリーの母親が大好きな本だった。」と言うと、ミミは、お父さんに微笑んで、話を続けた。
 「地球で夢や願いを叶えるって、このお話みたいですね。簡単に手に届く自分の背丈に合った場所の梨は、すぐに食べられる美味しい梨だけど、背伸びしてとった大きな梨は食べ頃になるまで、少し時間がかかる。
 梯子を使って、大きくて美味しそうな梨が取れたなら、熟成するまで待つだけでいいんですよね。心配や魔法なんていらない。食べる準備を万端にして、あとは大きな梨が食べごろになるまで、自分の背丈に合った小さいけれど、美味しい梨をたっぷりと楽しんで待ってればいいだけ。
 地球で起こる全ての物事にもタイミングがあって、エリーちゃんの準備ができていても、宇宙船やその他に関わる人や物の準備が整うまで待たなければいけない。それは、時間がかかる時もあるし、驚く程にとんとんん拍子に進む事だってある。
 夢や願いはポイッと捨てずに、ただただ持ち続けてタイミングを待っていればいいだけ。タイミングが来たら、願っていたことも忘れるぐらいに呆気なく叶ってしまうから。エリーちゃんの叶えたい次の願いは何んだろう。」と言ってミミはワクワクしながら執筆を再開させた。


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