艶暦〜つや暦〜42
くわばらくわばら
梅の実の色は何色かと尋ねると、
人それぞれ違う色を
思い浮かべるのではないだろうか。
梅干しの赤。
青梅の緑。
梅酒の琥珀。
けれど誰にも
もがれなかった梅の実は、
やがて黄色く熟して、
ポトリと落ちる。
雨の止み間、
ひんやりとした湿った空気の中に、
どこからともなく
甘酸っぱい香りが漂うのが
黄色くなった梅の実の匂いだ。
その香りは高く澄んだ音ではない。
どちらかといえば中低音。
遠くから呼ぶのではなく、
足元をすくわれる。
足が止まる。
「この匂いって」と
誰かに問いたくなる。
芒種の終わり。
かまきりが生まれ、
蛍が漂い、
梅は黄色く熟していた。
目にとまらないかもしれない
出来事。
けれど、この季節には
妙な妖しさがある。
雨の日だから。
今日は曇りだから。
明日でもいいだろう。
そんなふうにしているうちに、
匂いを辿って少し脇道へ入り、
気づけば季節の奥へ
迷い込んでしまいそうになる。
といえば許されるだろうかと
布団にくるまる。
だからこの頃は、
野辺へ出て、種を蒔き、
手を動かしていたほうがいい。
季節に足をすくわれないように。
中低音の香りに誘われないように。
くわばらくわばら。
今日は長靴を履いていこう。
うめのみ きばむ
梅子黄 6/15〜6/20頃
芳野艶(よしの つや)こもれび工房
