みなとみらい|掌編小説
春の風に乗せて桜吹雪が舞う。
今日は娘の小学校の入学式。
「お父さん、海が見たい!」
娘にせがまれて、入学式後に訪れた「みなとみらい」。
今ではすっかり観光スポットになっているが、元々は「横浜博覧会」の会場だったなんてどれだけの人が知っているだろうか。
みなとみらいはまさに青春の場所だった。
今でも当時の思い出がよみがえる。
走馬灯のように。
いやいやまだ死なないから!
面白くもないノリツッコミを頭の中でしながら、ここ、みなとみらいで思いを馳せる。
これまで移りゆく季節や街の変貌を他人事のように眺めていたら、いつの間にか子を持つ親になっていた。
このみなとみらいを共に歩いた元カノたちは今どうしているんだろう。
もう会うこともないと思うと、何だか寂しさがこみ上げてくる。
元カノとばったり会ったりしないだろうか。
それらしき女性とすれ違うと、思わず振り返ってしまう。
ここに来る度に密かに淡い期待をしてしまうが、そんな偶然なんて滅多に起こらない。
「そろそろおばあちゃんち行こうか?」
「うん!おばあちゃんちでゲームして遊ぶ!」
「いつもゲーム目的だな」
無邪気にはしゃぐ娘に俺の想いを話しても仕方ないか。
小学校入学を報告しに、両親が待つ実家へ車を走らせたのだが、ある場所で車を止めた。
「どうしたの?」
急に路肩に車を停車させたので、娘がいぶかしがる。
覚えている。この場所。
初めて付き合った彼女と車内で別れ話をした場所。
未練なんてない。
だって俺から別れ話をしたんだから。
始めはそこまで好きではなかった。
彼女が欲しいってだけで付き合い出したのだが、デートを重ねるうちに好きな気持ちが芽生えた。
デートは決まって「みなとみらい」だった。
彼女の自宅が近くにあったので、みなとみらいエリアを歩いたり、芝生でゴロゴロしたり、買い物や食事をしたり、キスをしたり。
だが、いつしかマンネリ化してだんだんと気持ちが遠のいた。
気づいたら付き合って2年が経過していた。
「他に好きな人ができた。だから別れてほしい」
ありきたりな別れの言葉に、彼女は「わかった」と言っただけで関係が終わった。
「ねえ、お父さん、何してんの!早く行こうよ!」
後部座席から急かす娘の声で現実に戻る。
ハザードランプがチカチカと音を立てていた。
「ああ、ごめん」
「みなとみらい」では、俺の知らない沢山の恋物語が生まれては消えてを繰り返している。
俺の恋は終わったが、代わりにこの娘が成長していつしか素敵な恋をこの「みなとみらい」で咲かせてくれるだろう。
「お父さんって、お母さんじゃない人好きになったりしたことあるの?」
娘からの突然の大人びた質問に一瞬ドキッとした顔で振り向いたが、すぐに微笑みながら、こう答えた。
「それはね、ナイショかな」

(1,122 文字)
#シロクマ文芸部 に参加します。
今回は欲張ってコチラの企画 #春になると思い出すこと にも参加します(笑)
横浜で育ってきた自分として、みなとみらいは「恋物語の場」というイメージが強くて、独り身のときは近寄りがたかったです(笑)
今回の物語は自分の過去の恋愛を元にしています。
最近は実家へ遊びに行くついでにみなとみらいに立ち寄ることがほとんど無くなってしまったので、今ごろはさらに変貌しているのかなと思います。
別れ話をするために停めた道路が今もあるのか不明ですが、たとえ残っていたとしてもわざわざ訪れることはないでしょう(多分)。
読んでいただきありがとうございました🍀
