【短編小説】サイゼリヤの甘い追憶
車で実家へ帰る途中、思い出のサイゼリヤが見たくなり寄り道した。
あれから20年。
世間は就職氷河期で友人たちは就活に失敗。
一方、俺は就活から逃げるように公務員試験の勉強に励んでいた。
だが、公務員は人気絶頂で大学4年時の試験では全滅。
結局、大学卒業後に大手予備校に入り試験勉強を続けることにした。
その予備校で知り合った女の子がいた。
名前は「ミナミ」といった。
ある人気歌手に似ていたミナミは、気さくに話せる性格で小柄ながらスタイルは抜群。
ミナミとはひょんなことがきっかけで仲良くなった。
一次試験の結果待ちで暇になったある日、ミナミからの誘いを受けた俺は待ち合わせ場所まで車で向かった。
俺はミナミを見るなりギョッとした。
予備校のときは清楚な雰囲気の服装だったが、今日は上が白のキャミソール、下がショートパンツで妙に露出部分が多い。
「と、とりあえずサイゼリヤでも行く?」
どぎまぎしながら俺は行きつけの憩い場に誘う。
「うん」
つれない返事。様子が変だ。
店に入ると一番奥の席に座った。
平日の昼過ぎだからか、店内はガラガラだった。
俺は早速大好きなディアボラ風ハンバーグとドリンクバーを注文する。
一方、ミナミが何を注文したのか覚えていない。
なぜなら俺の頭の中はミナミの容姿に完全に支配されていたからだ。
ソファー席に横向きで座ったミナミの白のキャミソールから豊満なバストの谷間がくっきりと見える。
注文したハンバーグが運ばれてきて口に入れたが、味覚は感じず、視覚だけが頻繁にバストの谷間を捉えてしまう。
「今日は遅くまで一緒にいられる?」
ミナミが唐突に言ったので、危うくメロンソーダをこぼしそうになった。
え、それって、ど、どーゆーいみ?
俺は頭の中での整理がつかない。
その間、ミナミから続けてリクエストが。
「夜景の見える所に行きたいな」
夜景と言われてすぐに思いついたのがある峠の入り口にある展望台。
人気のデートスポットだ。
俺はミナミを車に乗せて、その展望台へ向かった。
車を走らせること約1時間。
目的の展望台に到着した。
2人で展望台から遠くの夜景を眺める。
「・・・」
ミナミはずっと黙っていた。
どう声をかければ良いのか分からず、俺も黙っていた。
「そろそろ帰ろっか」
ミナミがそう言い出したのは、夜景を眺めてから30分ほど経ってからだった。
「そうだね」
俺はなんとかその一言を発した。
心の中ではずっとドキドキしていた。
ミナミが一線越えようと決意しているならこのまま帰ったら男じゃないのでは?
いやでも、ラ○ホに入ろうとして実は俺の勘違いだったとしたら、笑えない
あらぬ想像をしている俺のことなんてお構いなしに、ミナミは車に乗り込んでからも黙っていた。
そして展望台から伸びている長い坂道を下っているときに、ミナミが唐突に吐いた言葉を今でも覚えている。
「私、よしまる君のことがスキだよ」
そう言ったミナミが、今では俺の妻である。
という話になっていたら素敵な話だったが、そう上手くはいかなかった。
その後、ミナミと付き合うことになったが、その恋は呆気ないほど早く散った。
俺はこの年の公務員試験も全滅。
親に泣き寝入りしてもう一度チャンスをもらい予備校に通う。
一方、ミナミはとある一般事務試験に合格し4月から働き出したのだが、そこで知り合った男性に一目惚れしたことで一方的に別れを告げられた。
俺は急に訪れた失恋のダメージが深く泣き続けた。
泣き疲れるまで泣いたあと、俺はミナミを見返すために寝る間も惜しんで追い込みをかけ、目標としていた国家公務員試験に合格した。
分かってはいたが、ミナミとは復縁しなかった。
今では良い思い出の1つとして俺の心の中で生き続けている。
あんなフラれ方したら恨んでもおかしくなかった。
でも好きだった人との思い出。
良い思い出のままにしておきたい。
運転をしながら追憶に耽っている間に、思い出のサイゼリヤに到着した。
だが、そこには何軒かの住宅が建っているだけだった。
無くなっていたのか
俺はサイゼリヤがあった場所を横目で見ながら通り過ぎていった。
ところで、ディアボラ風ハンバーグの「ディアボラ風」って、なに?

(1,682 文字)
今回の作品は、福島太郎さん主催の【第一回サイゼ文学賞(非公式)】応募作品です。
フォロワーさんが参加していたので、自分も飛び入り参加させていただきました。文字数をオーバーしてしまいましたが・・・スミマセン💦
ちなみに、「ディアボラ風」については以下のリンク先で知りました。
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
